まちの紹介
2022.09.14

国際観光都市・長崎が迎えた100年に1度の変革期
~長崎県長崎市~


100年に1度の変革期と称される長崎市ではいま、長崎駅周辺および市街地中心部で大規模な開発が行われています。
ただ、“100年に1度”と形容する背景に歴史的なことはもちろん、同市が直面する課題解決への意気込みも込められているように思えます。
その真意とともに進行している開発状況をレポートします。

転出超過数で全国ワーストを記録

九州の西端、長崎県の南部に位置し、造船、水産、観光を基幹産業とする地方の中核都市・長崎市。古くから海外文化の窓口として発展し、諸外国との交流を通じて豊かな文化を育んできたといわれています。市制施行は1889年。当初は長崎港を中心とした平坦地の約7㎢ 、人口約5万人強という小さなまちでしたが、12度の合併を重ね、面積約406㎢、人口約45万人超の都市を形成します(人口は2006年の最終合併・琴海町編入時のデータ)。しかし、県都として都市機能を集約し、多くの歴史文化遺産や独特の異国情緒あふれる地として栄えてきた一方で、“平成の大合併”(2005~2006年)以前より続いていた人口の減少は年々深刻化。2022年にはそれまで維持していた人口40万人を割り、39万9913人まで減少しています(図1参照)。特に近年は市の転出超過は際立っており、その数は2018年と19年、2年連続で全国ワースト1位を記録することになります。

図1 長崎市の人口推移

 長崎市の人口推移

この現状に、長崎市まちづくり部 長崎駅周辺整備室(以降、長崎市)は「当市の人口減少は、他の県庁所在地と比べても深刻化しており、都市生活を支える機能の低下、地域経済の衰退が懸念されています。転出超過は、20~24歳の男性の転入が減っていることの現れで、その要因に、県外に進学した後、帰郷して就職する人が大幅に減ったのではと私たちは考えています」と分析。続けて「人口減少および少子高齢化は日本各地の自治体が抱えている問題。ですから私たちが対応して、すぐに解決できる問題ではありません。そこで現在、力を入れているのが交流人口の拡大です。観光、通学、通勤を含め、多くの人に長崎に来ていただき、可能な限り経済を循環させていく。ただ、そのためには長崎が人を惹きつけるまちでなくてはなりません。9月23日には待ちに待った西九州新幹線が開通します。この絶好のタイミングを機に、長崎市は陸の玄関口としてふさわしいまちづくりに着手し、官民一体となりながら『長崎駅周辺整備事業』を行っているのです」と話します。

九州初となる最上級ホテルの開業

「長崎駅周辺整備事業」とは九州新幹線西九州ルート(国)、JR長崎本線連続立体交差事業(県)、長崎駅周辺土地区画整理事業(市)の3つの柱が相互に関連しながら進められている事業です。長崎市は、県が主導で進めている連続立体交差事業に関して「土地区画整理事業の基盤ができあがった」と述べています。

というのもこれまで長崎駅周辺は、駅西側に貨物ターミナルや車両基地などの鉄道用地があり、有効な土地活用ができていなかったことや、南北に走るJR長崎本線の線路が地表面を走行していることから、鉄道による東西市街地の分断と交通渋滞が発生し、市民生活のみならず、都市圏全体の発展に大きな影響を及ぼしてきました。しかし、連続立体交差事業によって、鉄道は高架化され、該当区間の踏切がなくなったことで交通渋滞は解消されたといいます。また、駅周辺市街地の東西の分断もなくなり、有効的な土地活用が可能になったそうです。

「長崎駅周辺土地区画整理事業は、2009年から開始され2025年に終了を予定しています。2021年度末の見込みデータですが、減歩率は平均で約38%、進ちょく率は約61%を達成しています。すでに出島メッセ長崎などがある駅西側の整備はある程度終了し、現在はJR九州による新駅ビル開発の真っ只中。それに合わせ東口駅前交通広場や多目的広場などの整備を中心に進められています」(長崎市)。

長崎市が話す新駅ビルは、旧駅舎などがあった3.5haの敷地に整備されます。ビルの規模は地上13階建てで、延べ床面積は10万2000㎡。フロア構成は、地上1階から4階、一部の5階に商業店舗、5階その他エリアと6階にはオフィス、7階から13階は約200室の客室を有するホテルとなります。しかも入居するホテルは最上級ホテルと称され、世界的に名を馳せるマリオット・インターナショナルが展開する「マリオットホテル」(九州初)。これにより、富裕層のニーズにかなった宿泊施設を確保するといった点においても市の期待は自然と高まります。

長崎駅周辺再整備事業とは

最上階の展望室が交流人口増の呼び水に

長崎市では駅周辺以外の市街地でも大型プロジェクトが進行しています。その代表格となるのが長崎市の新市庁舎建設工事です。新庁舎は地上19階、地下1階建てで、高さは約90m。延べ床面積は5万1747㎡で、現市庁舎の1.5倍ほどになるといいます。そして着目すべき点は、最上階に整備される展望広場。展望広場からは、360度眺望が可能だといいます。これまでなかった中心部から市街地を一望できる場所となることから、新たな観光スポットになることも予想されます。

また、新庁舎の建設にあたっては、現市庁舎の建設から60年以上経過し、老朽化や耐震性能が不足していることが背景の他、本館、別館など9か所に分散している庁舎を1棟に集約させる目的があります。これに関して長崎市は「市民にとって利便性や快適性が向上し、質の高い行政サービスを提供できる新庁舎の建設を進めている」と述べます。また、分散している庁舎を1棟に集約することによって、年間約6000万円かかっていたコストの削減にもつながるといわれています。新庁舎の開庁は2023年1月を予定しています。

駅周辺再整備事業と市街地の大型再開発は、長崎市の地価上昇にも影響を与えています。最新の地価公示によると上昇率が最も高かったのはJR長崎駅に近い長崎市五島町の地点で前年比8.9%の上昇。同地点は昨年も変動率3%とトップでしたが、上昇幅5.9%は、長崎市が官民一体となって、取り組んできた「駅周辺再整備事業」が身を結んだと言っても過言ではありません。同事業で残るのは、新駅ビルの開発と東口駅前広場、多目的広場の再整備となりますが、全ての事業が完成して新たな「陸の玄関口」が完成したとき、長崎市が目指す交流人口の拡大は実現しているのでしょうか。期待は高まるばかりです。

進化する長崎の陸の玄関口(長崎駅周辺)
主な事業のスケジュール

交流人口拡大の一手となる西九州新幹線の開業

西九州新幹線の開業(9月23日)は、長崎への来訪者を増加させ、観光産業をはじめ、さまざまな産業の振興を図り、交流人口の拡大をもたらすと期待されています。
ここでは西九州新幹線の詳細にも触れていきます。

交流人口拡大の一手となる西九州新幹線の開業

最終目標はフル規格新幹線の走行

九州新幹線西九州ルートは長崎駅と福岡駅を結ぶ143㎞の新幹線ルートで、この度開業するのは長崎駅~武雄温泉駅間(佐賀県)となります。同区間はフル規格新幹線で運行され、武雄温泉駅~博多駅間は在来線特急が運行し、武雄温泉駅のホームで乗り換える「対面乗り換え方式」を採用しています。同新幹線の開業によって、これまで1時間50分かかっていた博多駅までの所要時間が約30分短縮されることになります。ここでいうフル規格とは、最高速度200km以上、全線立体交差で踏切がないという条件が満たされていることを指し、この度の九州新幹線西九州ルート(長崎~武雄温泉)の対面乗換方式による開業は、“暫定的な開業”と処置されています。

長崎県および市が本来目指す西九州ルートは、新大阪まで直通させ、全国の新幹線ネットワークにつなげることであり、そのため対面乗換方式を早期に解消する必要があると同県と市は考えています。

長崎ルート概要図
新幹線開業の最も大きな効果に、交流人口の拡大があげられているが、例として2004年の九州新幹線鹿児島ルートを見ると、開業後、交流人口は増加しており、それ以降も増加傾向が続いているという。

フル規格の実現は交流人口拡大に直結する

では、なぜ長崎県および市は全線フル規格にこだわるのでしょうか。

前出・長崎市まちづくり部 長崎駅周辺整備室に聞くと「全線フル規格が実現すれば、時間短縮効果等による交流人口の拡大をはじめ、多くのメリットが期待できるからです。人口減少が進む長崎県および市、西九州地域はもとより、九州地域全体のためにも全線フル規格による整備は不可欠だと考えています」と話します。そして「例えば、大阪までの直通ルートが整備されれば、長崎~新大阪間を約3時間15分で移動することが可能となります。また現在、建設工事が進められているリニア中央新幹線(東京~名古屋:2027年完成予定)が新大阪まで延伸されれば(2037年完成予定)、長崎~東京間を約4時間27分で移動できると試算されています。この移動手段が実現すれば、約4時間30分を要している現行の航空機よりも早く行き来することができます。長崎空港から長崎駅まで移動するには、リムジンバスに乗って1時間ほどかかりますから、主要ターミナル駅同士を結ぶルートが整備されれば人々の行動範囲は確実に広がっていくと思われます。

※長崎駅から東京駅の所要時間(駅から空港の所要時間を含む)