Vol.44 売買重要事項の調査説明 ~現地照合確認調査編④~
土地区画整理物件の売買トラブル事例


土地区画整理事業中の土地の売買では、事業が進行中であるがゆえの想定外の契約不適合が発生します。区画整理物件では、①仮換地指定予定の段階、②仮換地指定中の段階、 ③換地処分後の段階ごとに、重大な調査ポイントがあります。本節では、土地区画整理事業における売買に関して、トラブルになりやすいポイントについて述べます。

仮換地の指定予定の物件は特定されていない!

仮換地指定予定の段階では、「仮換地指定の予定年月日、使用・収益の開始時期、仮換地指定の予定図、仮換地設計計画概要書」などの情報の取得が必須です。この段階での取引では、当初予定されていた物件の所在地等が、仮換地指定の段階になると、当初の予定した所在地や地積と大きく異なる場合があります。それは、あくまでも指定の予定地であって、仮換地指定ではないからです。このため、この段階での不動産売買では、「本物件の土地売買において予定されている仮換地指定予定地の位置、形状、地積等は、仮換地指定通知の段階で変更される場合があることを買主はあらかじめ承諾し、売主に対して一切の異議申し立てをしないこととする」などの特約を付加することが大切です。

仮換地指定後の清算金の特約方法

仮換地指定通知後の段階では、「換地処分の予定年月日、仮換地図、仮換地証明書、底地証明書、重ね図、宅地造成履歴図、電気・ガス・上下水道の計画図面、法76条許可申請、建築制限」などの情報をできるだけ取得することが大切です。一方、国土交通大臣が都道府県に参考通知している「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」では、宅地建物取引業者が、土地区画整理事業の施行地区内の仮換地の売買等の取引に関与する場合は、重要事項の説明時にその売買、交換および貸借の当事者に対して「換地処分の公告後、当該事業の施行者から換地処分の公告の日の翌日における土地所有者および借地人に対して清算金の徴収または交付が行われることがある」旨を重要事項説明書に記載の上、説明することとしています。このことは、換地処分時に、確定測量を実施した結果、当初予定されていた宅地の面積が増減することが想定されるからで、増減があれば、その分につき、土地の所有者に対して清算金の徴収または交付が行われます。このため、この特約は、忘れずに付加することが大切です。

具体性のない賦課金の発生の可能性は瑕疵ではない!(最高裁)

こんな事件がありました。平成10年、買主らは売主から約2,400万円で仮換地指定の土地を取得し、土地区画整理組合は、平成10年から保留地の分譲を開始しました。しかし販売状況は芳しくなく、平成13年、区画整理事業に要する経費に充てるため、総額24億円の賦課金を組合員に課する旨を総代会において決議しました。その結果、土地所有者は、約400万円が徴収されるなど、多額の賦課金が課されることとなり、買主らは売主に対して、重要事項の説明義務違反による損害賠償訴訟を起こしました。

最高裁は、次のように判決しました。「本件各売買の当時においては、賦課金を課される可能性が具体性を帯びていたとはいえず、その可能性はあくまで一般的・抽象的なものにとどまっていたことは明らかである。したがって、本件各売買の当時、賦課金を課される可能性が存在していたことをもって、本件各土地が本件各売買において予定されていた品質・性能を欠いていたということはできず、本件各土地に民法570条にいう瑕疵があるということはできない」(平成25年03月22日、最高裁裁判長 千葉勝美)。「本件に限らず、具体性がなく、将来の一般的・抽象的な瑕疵の発生する可能性は、不動産の瑕疵ではない」ということが大切です。また、売主が継承するのは、先に述べた「清算金」のところは「清算金または賦課金」として特約に付加しておくことが大切です。

現地照合調査で境界標の間違いを発見!

換地処分後の段階では、「換地図、換地証明書、底地証明書、重ね図、宅地造成履歴図」などの情報をできる限り取得します。換地処分が通知される頃には、確定地積測量図が作成され換地図ができますが、その段階でこんな事件がありました。換地図に記載された寸法を現地の寸法と照合すると、現地のほうが違っており、約200㎡の小規模住宅地で約15cm物件側の寸法が少ないことがわかりました。区画整理事業主に照会をすると、測量図は確定しているとのこと。隣地所有者がブロック塀の設置工事の際、境界標を動かしたと考えられるため、区画整理事業主の立ち合いで、境界標を元に復元することができました。もし換地処分後の換地図は確定測量図だと安心をして、現地照合をしていなかったら、大変なトラブルになったことでしょう。不動産トラブル防止のためには、敷地周囲の簡易計測を行うなどの現地照合が大切です(ポイント参照)。

ポイント

土地区画整理事業で換地処分された土地の境界標は、隣接地①のブロック塀設置工事の影響で、境界標が本来の位置より左側に15cm移動しています(写真)。このため、②敷地が約15cm少なくなっています(換地図)。後日、土地区画整理事業主の境界立会により境界標を復元し、無事に取引を行うことができました。このようなことから、現地照合調査は欠かすことのできない物件調査であることがわかります。

境界標
換地図

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。