Withコロナ時代のホテル・旅館を取り巻く状況
昨年10月にスタートした「全国旅行支援」と水際措置の大幅緩和で、苦境が続いた観光産業に明るい兆しが見え始めました。とはいえ、宿泊施設の競争の激化や労働力の確保など懸念点も多々あります。そこで、ホテル・旅館業を取り巻く近年の状況についてデータを元に解説し、今後の動向を予測します。
開廃業の推移と宿泊目的の傾向
観光庁では、旅館業法上の登録を基準として開廃業を反映させたホテル、旅館、簡易宿所ならびに会社・団体の宿泊所などの宿泊施設数を算出・公表しています。この数値は、同伴ホテル(いわゆるラブホテル)やレンタルルーム・漫画喫茶などを除いた国内の宿泊施設総数に該当します。
新型コロナの感染拡大の影響を捉えるため、この数値を2019年1月からデータ参照が可能な本年8月まで追ってみました(図表1)。結果として、参照期間中に施設数は5,087カ所、比率で約8.8%伸張しているため、国内宿泊市場での競争が激化しています。
同庁からは、都道府県や従業者数別などのほか、宿泊者総数に占める観光目的での宿泊者割合による切り口に沿った施設数も公表されています。このため、図表1に「観光目的の宿泊者が50%以上」の該当施設も併記しましたが、その施設が全体に占める率が2020年末まで7割を超えるなど、総数と同調した上昇傾向が認められます。新型コロナ感染拡大後の比率も、なお6割を下回っていません。
したがって宿泊施設には、①国内人口の減少局面下でもなお施設数が増加傾向にあった、②全体の約6~7割が観光需要によって支えられていた、というマクロ的な特徴がうかがえます。率直に言って、もとより景気変動の影響を被りやすいなか、おそらく大半の旅館・ホテルで新型コロナ感染拡大前の建設・開業計画がそのまま強行された動向がうかがえます。
営業種別でみた軒数の趨勢(すうせい)では、旅館の長期にわたる減少傾向がうかがえます(図表2)。核家族化や単身旅行比率の上昇など、かねてより旅館にとって厳しい環境が続いています。シングルルームを抱えるビジネスホテルなどに比べ、隔離も難しいことから、今般の全国旅行支援の主要救済対象種の1つであると考えます。
インバウンド需要への期待と今後の予測
“本業”である宿泊者数を見ると、2019年以降では、2019年8月の6,323万人泊が最多、2020年5月の893万人泊が最少となっており、後者は全国に緊急事態宣言が発令された時期に該当します(図表3)。総宿泊者数は2022年9月時点で3,914万人泊まで回復した一方で、外国人宿泊者数は73万人泊にとどまり、最多であった2019年4月の1,128万人泊の約6.5%に過ぎません。
そうしたなか、昨年10月11日に「1日当たり5万人」の入国者数の上限が撤廃され、ツアー以外の個人の外国人旅行客がおよそ2年半ぶりに解禁されるなど、制限の水準がほぼ“コロナ前”に戻されました。今後、地方の空港や港などで順次国際線・国際便の受入れが再開される見通しであるため、インバウンド需要を見込んで投資などを行ったホテル・旅館等が誘致を強化することでしょう。
筆者自身、出張等で全国各地のビジネスホテルを利用し続けていますが、近年、セルフチェックイン・チェックアウト用機器を配置しているホテルが地域を問わず本当に増えています。それだけならば、新型コロナの感染拡大に伴う非接触ニーズに応えている面もあるでしょうが、それだけでなく、あらかじめ「深夜から早朝の時間帯には係員が不在」等を告知するホテルも増えています。それゆえに、営業・運営に必要な人手が確保できていない可能性が疑われます。
総務省が把握・公表している労働力調査には、産業別の切り口の数値があり、その中に「宿泊業、飲食サービス業(以下「宿泊業等」)」が含まれています。宿泊施設の規模格差は大きく、小規模な事業者は夫婦だけで営むところもあるため、雇用者ではなく就業者に着目し、やや大くくりながら数値の動きを総数と共に追ってみました(図表4)。
2019年1月以降の総数の最小値は5,950万人で、宿泊者数同様に2020年5月が最少でした。これに対し、宿泊業等の最小値は307万人で該当月は2021年4月と、タイムラグが認められます。その一方で、直線の近似曲線では総数に上昇傾向が認められ、宿泊業等には減少傾向が認められます。図表1・2のとおり施設数・軒数に上昇傾向が認められるため、人手不足に陥っている施設が少なくない事象が見込まれます。
最後に、全国旅行支援に前後した便乗値上げの指摘や批判がみられる価格に着目しました(図表5)。
図表3で示された宿泊数の“底”は2020年4月から2021年2月頃ですが、その時期とは必ずしも同調していません。総合価格に比べ変動幅が大きく、さらに直線の近似曲線にもわずかながら値上げ傾向が認められるため、旅行支援終了後の反動破綻等を懸念します。
オペレーショナル・デザイナー
(沼津信用金庫 参与/津山信用金庫 顧問)
佐々木 城夛(じょうた)
1990年 信金中央金庫入庫。欧州系証券会社(在英国)Associate Director、信用金庫部上席審議役兼コンサルティング室長、地域・中小企業研究所主席研究員等を経て2021年4月に独立。「ダイヤモンド・オンライン(ダイヤモンド社)」「金融財政ビジネス(時事通信社)」ほか連載多数。著書に「いちばんやさしい金融リスク管理(近代セールス社)」ほか。
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