Vol.20 雨漏りと売主の契約不適合(瑕疵)担保責任に関するトラブル


既存住宅の取引後に判明した雨漏りについて、売主・買主の「契約不適合(瑕疵)」と「経年劣化による不具合等」に関する誤った理解から、トラブルになる事案がみられます。既存住宅の雨漏りと瑕疵に関して、次のような裁判例がみられますので、実務の参考にしていただけたらと思います。

トラブル事例から考えよう

〈事例1〉 建物の経年劣化による雨漏りが、建物引渡し前に発生していた
【東京高判 平31・1・16】

●取引の概要 : 鉄筋コンクリート造5階建て、築22年の共同住宅の売買
●売主の瑕疵担保責任負担期間 : 建物引渡し後3カ月
●雨漏りの状況 : 建物引渡し2カ月後に、入居者が退去した5階の一室において、天井の染みを発見した買主は、壁紙を剥がしコンクリートの天井が湿っていることを確認、当該雨漏りについて売主に瑕疵担保責任による修繕を請求した。しかし売主は、建物所有当時、入居者から雨漏りの苦情はなかったから瑕疵にあたらないとして、修繕に応じなかった。

裁判所の判断 ⇒ 瑕疵に該当する

本件雨漏りは、屋上防水層の劣化した部分からコンクリート躯体に雨水がしみ込み居室まで到達したもので、一定の年月をかけて徐々に進行することを考えれば、建物引渡し前から雨漏りが存在したものと認められ、売主は当該雨漏りについて瑕疵担保責任を負う。

事例1の図

〈事例2〉 建物の経年劣化による雨漏りが、建物引渡し後に発生した
【東京地判 令3・11・25】

●取引の概要 : 築28年の共同住宅(取引の約6年前、建物外壁について補修工事が行われていた)
●売主の瑕疵担保責任負担期間 : 建物引渡し後2年
●雨漏りの発生 : 建物引渡し2年1カ月後に3階の一室に雨漏りが発生、外壁のコーキングに多数のひび割れを確認した買主は「本件ひび割れは建物引渡し当時存在していた、引渡し当時に存在していなかったとしても、2年1カ月しか経過していない時点で漏水を招くようなコーキングの状態は瑕疵に当たる」として、売主に瑕疵担保責任による修補請求をした。しかし売主は「雨漏りの原因はコーキングの劣化によるもので、築年相当の経年劣化の域を出ず瑕疵にあたらない」として修繕に応じなかった。

裁判所の判断 ⇒ 瑕疵に該当しない

建物引渡し時点で、本件ひび割れが生じていた証拠はないこと、一般的なコーキング材の耐用年数(5~10年程度)を考慮すると、本件ひび割れは経年劣化によるものといわざるを得ず、売買契約締結当時、本件建物に瑕疵があったと認めることはできない。

事例2の図

〈事例3〉 サイディング内側に通常施工される防水処理がされていなかった
【東京高判 令3・8・31】

●取引の概要 : 木造2階建て、築26年の共同住宅の売買
●売主の瑕疵担保責任負担期間 : 建物引渡し後2年
●建物不具合の発見 : 建物引渡し1年9カ月後、買主は、貸室の床の沈みなどの調査により、外壁のサイディング材内側に防水紙等を貼るなどの防水処理がないことを発見し、「本件建物には雨が外壁内部に侵入する構造上の瑕疵があり、構造体である柱・筋交い等が腐食していた」として、売主に損害賠償を請求した。しかし売主は「本件建物において防水紙を貼るなどの措置は不要、本件建物は、築26年の経年劣化があることを前提に安く売買代金を定めており、構造体の腐食は経年劣化によるもので瑕疵には当たらない」と主張した。

裁判所の判断 ⇒ 瑕疵に該当する

外壁をサイディング材とする場合、下地材として防水紙を貼ることが標準的な施工方法(建築基準法施行令49条1項規定等)であり、そうすると防水紙が貼られる等の防水工事がされていない本件建物は、新築時点から通常有すべき品質・性能を有していなかったというべきで、本件構造体の腐食も、本件売買契約上の瑕疵と認めるのが相当。

事例3の図

01経年劣化による雨漏りと契約不適合責任

契約不適合(瑕疵)は、引き渡された目的物が、「種類・品質等に関して、契約の内容に適合していないこと」をいいます。

買主が居住を目的とする既存住宅売買の契約の内容は、「経年相応の劣化が生じている既存住宅の売買」、雨漏りに関していえば、「建物引渡し時に、雨漏りは発生していないが、建物引渡し後に、時期は不明だが、経年劣化による雨漏りが発生する可能性がある品質の建物の売買」です。

したがって、建物の経年劣化による雨漏りが、建物引渡し前に発生していた事例1の場合は、売主が担保責任を負うことになりますし、建物引渡し後に発生した事例2では、買主の負担となります。

02雨漏りに関する構造上の不具合と契約不適合責任

既存住宅(居住目的)の売買契約の内容は、「新築当初は通常有すべき防水性能を有していたが、その後経年により防水性能が劣化しており、その回復には劣化部分の改修等が必要となる建物の売買」といえますから、外壁構造の防水性能に関し、もともと通常有すべき性能を有していなかった事例3の場合は、建物が相当年数経過をしていても、契約不適合(瑕疵)に該当することになります。

一方、事例2の買主の「数年もたたずに、雨漏りを発生させたコーキングの状態は、構造上の瑕疵にあたる」の主張ですが、当該雨漏りは、建物所有者が負う、いつ発生するか不明な建物の経年劣化による雨漏りリスクが、単に顕在化したものですので、契約不適合(瑕疵)に該当しないことになります。

03トラブル回避のために

契約不適合(瑕疵)に関するトラブルの多くは、経年劣化による不具合等が建物引渡し前において発生している場合は売主の負担、引渡し後に発生した場合は買主の負担であること、契約不適合(瑕疵担保)責任は、売主の担保責任負担期間内に不具合等が発生した場合に、売主が修繕等を行うとするものではないことを、売主・買主が契約時に理解していないことにより発生しているように見受けられます。

宅建業者においては、売主・買主に、契約不適合(瑕疵)と経年劣化に関する考え方やその負担等について十分な説明を行い、理解を得ておくことが重要と思われます。


一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席主任研究員
不動産鑑定士

中戸 康文

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/