Vol.52 売買重要事項の調査説明 ~取引直前調査編⑥~
測量図をめぐる売買特約の記載方法について
不動産の売買契約書を作成する場合、取引当事者から要求される取引方法に関する約束事を売買契約書の特約に定める作業は、正確さと有効性がなければならないために、苦労をするものです。本章では、地積測量図をめぐる特約を作成する際の重要なポイントについて述べます。
“特記事項”と“特約条項”の違い
一見、よく似ている言葉ですが、不動産売買の手続きでは、2つの言葉の使用方法はまったく異なります。
“特記事項”は、売買重要事項説明書において、不動産の契約内容不適合に関与する事実を記載します。
一方、交渉事で決まったことがあれば、売買契約書の“特約条項”に記載します。重要事項説明書は、そもそも「交渉をしなければならないような契約内容不適合の事実そのものを忠実にありのまま表現して記載する」ということが大切です。
公簿売買でも実測売買とみなされる取引
“公簿売買”取引は、「売買対象面積は登記簿記載面積とし、後日、地積測量をした結果、登記簿記載面積と相違しても、互いに異議申し立てをせず、代金の増減請求をしないこととする」などと明記するものです。
こんな事件がありました。
宅建業者が愛知県岡崎市の土地を「公簿177㎡(53.54坪)、価格3,640万円、3.3㎡単価68万円」と広告に表示した坪単価について、買主から坪単価交渉が入りました。坪単価交渉は、敷地面積の177㎡が実際に存在することが前提ですので、このような場合は“事実上の実測売買”と判断される場合があります。取り引き完了後、買主が実測したところ、9㎡余り、公簿面積よりも少なかったため、訴訟となりました。その結果、最高裁では「開差5%を超える実測面積と公簿面積との食い違いは,売買契約の当事者にとって通常無視し得ない」(平成13年11月22日最高裁)としたのです。
このような場合は、次のような特約が必要になります。
「本件取引の交渉過程で坪単価交渉が行われましたが、本件売買代金の価額は、実測面積を離れた他の要因を含めた売買代金総額の交渉結果の金額です。」
また、地積測量図がない場合は、宅建業者が簡易計測による敷地現況図を作成し、現況の概算面積を買主に告知しておくことが大切です。
確定測量図作成を求める公簿売買取引
取引において、「確定測量図作成」を求める取引が数多くありますが、現実には、隣接地所有者の署名押印が必要になるため、必ずしも成功裏に実現できない場合があります。そのような場合にも対処できる以下の特約が有効です。
「本物件の契約締結後、売主は、買主の費用負担により、直ちに資格ある土地家屋調査士に土地の測量をさせ、○年○月○日までに筆界確認書添付の確定地積測量図を作成し、買主に交付することとする。万一、筆界確認書を作成できない場合は、本物件の契約を白紙解除することとし、この場合の測量に要した費用は、買主の負担とする。ただし、買主が現況測量図作成による取引の継続を望む場合は、本契約を白紙解除しないこととする。」
敷地分割予定の売買取引
売主が、自宅の敷地の一部を分割して売却する場合は、売主側の事業計画そのものですので、費用等はすべて売主負担とする以下の特約があります。
「本物件敷地330㎡の内、売主は、北側140㎡(別紙「敷地分割予定図」参照)を実測し、分筆登記申請を行うこととする。万一、○年○月○日までに、売主が、筆界確認書を作成できず、分筆登記申請をすることができない場合は、本契約を白紙解除とする。この場合の測量に要した費用は、売主の負担とする。」
境界標の設置条件付きの売買取引
地積測量図があるが、敷地境界標の1か所が見つからない場合、境界標復元のための作業を条件とした以下のような特約があります。
「本件契約締結後、売主は、直ちに、買主の費用負担の上で、○年○月○日までに、本物件敷地の南側道路境界線上にて、東側隣地との間の境界点に、境界標の設置を土地家屋調査士に依頼することとする。万一、隣地所有者の署名押印による筆界確認書を作成できない場合は、本件契約を白紙解除とする。この場合の測量に要した費用負担は、買主の負担とする。」
最近では、筆界確認書作成の際、「印鑑証明書が添付できないときは、『所有者との関係』を“本人”と記載」して、「上記筆界確認書は、筆界が別紙測量図のとおりであることを隣接土地所有者等本人を確認し、署名押印されたものであることを証明します」という土地家屋調査士の証明印を有効とする法務局が出はじめています(ポイント参照)。
ポイント
最近では、筆界確認書作成の際、「印鑑証明書が添付できないときは、所有者との関係を“本人”と記載」して、土地家屋調査士が本人と証明すれば、下記のように、法務局が認印にも対応できるようになりつつあります。
不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。