Vol.31 不動産投資分野で役立つデジタル技術
不動産には住む、利用するだけでなく投資するという使い方もあります。この不動産投資という分野でもデジタル技術が革新的な役割を果たしています。今回は不動産投資と不動産テックについて紹介します。
■ デジタル化による新市場の創出
不動産は株よりも安定的な収入が期待できる投資商品ですが、一般の人々にとってはまだ身近な投資先とはいえません。「不動産はだまされそうで恐い」という心理は確実に存在します。実際に「かぼちゃの馬車」事件や一連のスルガ銀行不祥事によって、一般の人たちを不動産投資から遠ざける影響があったと思います。
しかし、いうまでもなく、不動産を活用した全ての投資が悪いわけではありません。実際に世界中の資産家の多くは不動産を所有して、資産を増やし続けています。また、多くの日本人にとって、最も簡単に資産形成することができるのが不動産であることは論をまちません。
やはり不動産投資に対する心理的なハードルは不動産そのものではなく、不動産投資の仕組みに問題があるといえるでしょう。そうした課題を解決しながら、不動産投資をもっと身近で役に立つものに変革する可能性のあるテクノロジーやトピックには次のようなものがあります。
1. フラクショナル投資
フラクショナル投資は、個々の投資家が不動産の一部分だけを所有することを可能にする新たな形の不動産投資です。高額な投資資金が必要と思われている不動産投資を小さな単位に分割して、一般の人々が手頃な価格で投資できるようにします。投資家は不動産の一部を所有することで、賃料収入や価格上昇による売却益を得ることができます。
実は欧米では古くからある投資です。リゾートホテルなどの所有権や使用権を共有し、投資した割合に応じて、発生した利益や維持管理費などを分割します。ジェット機や高級クルーザーなども投資対象とされてきました。このフラクショナル投資の中でも不動産に特化させたものに取り組む動きが活発になっています。運用法を自由に選べる点が特徴です。
REITによく似た特徴を持ちますが、投資する物件を個別に選ぶことができる点がREITとの違いです。またREITは信託受益権を所有するだけですが、フラクショナル投資では物件の所有権を得ることができます。
この投資の魅力は、不動産投資のメリットを保ちつつ投資リスクを分散できる点です。例えば1億円の物件を10人で共同所有すれば、1人あたりの投資額は1,000万円となり、単独で投資するより高額な物件を所有でき、大きなリターンを期待できます。一方で、リスクは10分の1に軽減されます。
多くの人々が、リスクを低減しながら、不動産投資に参加できる機会をつくることができます。
2. 不動産クラウドファンディング
不動産クラウドファンディングは、個人投資家から少額の資金を集めて、1つの不動産プロジェクトに投資する方法です。フラクショナル投資と同じく不動産投資をよりアクセスしやすいものに変えてくれますが、不動産クラウドファンディングは、多くの投資家が少額の資金を出し合って1つの不動産プロジェクトに投資する形になります。投資家は不動産そのものを所有するのではなく、プロジェクトへの資金提供者となります。そのため、不動産の直接的な所有や運用に関与することはありませんが、プロジェクトの成功に応じてリターンを得ることができます。
クラウドファンディングを使うことで、既存の金融機関から融資のつきにくいプロジェクトにも積極的な資金を集めることができます。法定耐用年数の過ぎた古民家の再生に使ったり、権利関係が複雑な底地を購入して再開発を進めたりする事例が出てきています。
ポータルサイト運営のLIFULL(東京)によると、2022年には国内21社が新たに不動産クラウドファンディング事業に参入しています。これにより、2018年からの累計参入社数は64社に達しています。募集総額が前年比224%増の約548億円となり、大型プロジェクト案件が多く見られました。2018年から見ると約24倍の成長となっており、事業者の新規参入や既存事業者のファンド規模拡大などが背景にあるようです。
これらの数値から見て、不動産クラウドファンディングは、事業者も投資家も注目する選択肢となり始めていることがわかります。
これまでは、小口の資金を集め、得られた利益を配分するには膨大な事務処理が必要でしたが、テクノロジーによって大幅にコスト削減が可能になりました。
「日本にいる全員から100円を集めたら、100億円になる」といった子どもの夢を実現することができるようになったのです。
3. 不動産ロボアドバイザー(AIアドバイザー)
不動産ロボアドバイザーは、不動産投資におけるアドバイスを自動化する技術の一つです。原則として人間が介入せずに、AI技術を利用して投資家のリスク許容度や投資目標に合わせて、不動産投資のアドバイスを提供します。投資にはポートフォリオ作成や管理が必要ですが、ユーザーによってリスク許容度が違います。また、投資目標、投資期間なども時期や社会情勢によってめまぐるしく変わります。こういった複雑な要素が絡み合うため、的確なアドバイスは非常に困難です。そこで、膨大な情報の処理を得意とするAIに担ってもらおうというわけです。
本来、不動産投資の物件選定と管理には多大な時間と労力が必要ですが、ロボアドバイザーを利用することでこれらの作業が自動化され、投資家の手間を減らしてくれます。また、AIは感情やバイアスを持たないため、客観的な投資分析を提供します。「かぼちゃの馬車」事件では、「若い女性向けのシェアハウス投資は社会貢献になる」という無理な理屈にのせられた投資家も多かったと報道されています。感情的なバイアスは投資判断を狂わせることがありますが、AIはそういったものとは関係なくアドバイスをしてくれます。
日本でもロボアドバイザーのサービスは増えています。一方で、ロボアドバイザーは入力された情報と、プログラムに組み込まれたアルゴリズムに基づいたアドバイスを提供するため、対応できる情報は限定的で、AIが理解できない市場の動向や複雑な経済・社会情勢については考慮できません。また、日本の不動産市場には情報が少ないため、AIの能力を発揮できない可能性もあります。
また、投資家の個々の状況やニーズをくみ取ることができなければ、的確なアドバイスを提供することができません。ユーザーの求めるものを明確にして、正確にAIに伝えていく必要があるでしょう。
こうした課題を理解したうえで利用すれば、不動産ロボアドバイザーは投資家にとって有用なサービスです。
今回紹介したテクノロジーは、不動産投資へのハードルを大きく下げる効果が期待されます。日本でも、不動産クラウドファンディングのような新たな投資形態が登場し、一般の人々が不動産投資に参加する機会が増えています。
テクノロジーによって不動産投資が発展すれば、これまで以上に多くの投資マネーが不動産業界全体に浸透することになるでしょう。
株式会社トーラス
代表取締役
木村 幹夫
大学卒業後、東京大学EMP修了。三井住友銀行にて富裕層開拓、IT企画部門にてビックデータを戦略的に活用した営業推進、社内情報系システムの大部分をWebシステムで刷新するなど、大幅なコスト削減と開発スピードアップを実現。2003年に株式会社トーラス設立。登記簿を集約したビックデータを構築し、不動産ビックデータ、AIを元にしたマーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストなど受賞実績多数。東京大学協力研究員。情報経営イノベーション専門職大学、客員教授。