新型コロナ対策特別融資の返済時期を迎えて
―その波及効果を振り返る―
新型コロナの感染拡大で窮地に立たされた中小企業を救うため、政府が実施した資金繰り支援。実際、どのような波及効果があったのでしょうか。
中小企業庁と財務総合政策研究所の最新調査を基に、昨今の資金繰り実態をレポートします。
ゼロゼロ融資の倒産抑止効果
中小企業庁では、㈱東京商工リサーチの調査結果を月次で取りまとめ、翌月15日頃に「倒産の状況」として公表しています。
2016年からの状況では、大企業を含む倒産件数が、新型コロナ拡大前の2019年まで年間8,200~8,400件台で推移していました[図表1]。このうち2018年10月までは、2012年12月から続いた戦後2番目に長い景気回復期間にあたるため、凪状態から巡航期の数値と見込まれます。
それが、新型コロナの感染が拡大した2020年は7,000件台まで、2021年と2022年は、6,000件台まで減少しました。代表的なコロナ関連融資であるゼロゼロ融資は、2020年3月から2022年9月までに約42兆円実行されましたが、単純計算で、年2,000~2,400件くらいの倒産を防いだ効果があった模様です。
倒産の「原因と傾向」
倒産原因では、参照期間すべてで、販売不振が7割前後を占めています。売上げの多寡だけでなく、回収までに時間を要した可能性もあります。たとえ販売が伸びても、資金回収前に債務の弁済期限が到来すれば支払いを余儀なくされます。その一方で、仕入れ・加工・出荷を経て資金回収に至るまでの期間は、業種によってかなりの違いがあります。たとえば造船業では、竣工まで4年程度を要する船舶も珍しくありません。この期間が短いほうが、倒産しにくいわけです。
また、当然ながら、手元資金を多く保有しているほうが倒産しにくくもなります。ゼロゼロ融資を始めとするコロナ関連融資は運転資金に分類されますが、通常、運転資金は融資を受けた後、有事に備えて預金に留め置かれます。
財務省内の財務総合政策研究所では、年次の頻度で相当数(※直近公表分の2021年度の場合には金融・保険業を除き22,266社)の事業者データを収集・分析しています。証券取引所に株式を上場している大企業から小規模事業者に至るまでのやや大括りな分析ですが、信ぴょう性や精度はとても高いデータです。
このデータ上の「現金・預金」と「有価証券」を合算し、損益表上の「年間売上高」を12等分した月商で除すと、「“すぐに支払える資金”を売上げの何か月分保有しているか」が算出できます。金融実務で、手元流動性比率と呼ばれる指標です。
この指標について、ゼロゼロ融資導入前の直近期である2018年度(2019年3月まで)と期間中すべてでゼロゼロ融資を利用できた直近期の2021年度(2022年3月まで)を、業種別に算出しました。その上で、感染拡大期に自治体からの営業休止要請の多かった「小売業」「飲食業」「宿泊業」を抽出し、「不動産業」ならびに「全産業(総平均)」と共に推移を追ってみました[図表2]。
結果は、総平均のみならず、抽出4業種でいずれも手元流動性比率が伸長しています。景気悪化に伴い、事業者側には「投資などを控えて現預金を残しておこう」という意向が働いたのではないでしょうか。さらに、ゼロゼロ融資などを借り入れたほか、休業補償・協力金なども現預金残高を増やしたことでしょう。
返済の本格化にともなう業種別倒産数の内訳
大手紙などから「7月からゼロゼロ融資の返済が本格化する」ことが相次いで報じられましたが、この返済金も、主に現預金から充当されます。言い換えれば、返済の本格化に伴って現預金残高が減り、その分だけ資金繰りが苦しくなります。
産業界全体の返済能力は、最終的に倒産状況などに反映されます。その状況は、7月までで、すでに昨年を上回ることが確実視されており、順調とはいえません。
業種別の傾向自体は、コロナ前後で大きく変化していません[図表3]。㈱帝国データバンクからは、新型コロナの影響による累積倒産数と上位業種の内訳件数が情報公開されています。総数6,442件のうち、上位19業種で3分の2弱を占めるようです[図表4]。
内訳の第1位は飲食店ですが、図表2の抽出業種の中では、飲食サービス業の支払い余力が、1.99か月と宿泊業に次いで伸びていました。それなのに最多を占めた背景に、飲食業内の競争激化や格差の拡大が考えられます。
不動産業の倒産状況と返済難の場合の対応
最後に不動産業の倒産状況ですが、コロナ前後を通じて傾向に大きな変化はみられません。そもそも手元流動性比率が高く、「ゼロゼロ融資」という言葉を聞いて不動産業を連想する金融実務者は少ないと考えます。その一方で、ゼロゼロ融資利用時の平均金額は、小売業や飲食サービス業よりも多額となり、その分だけ返済負担も大きくなります。
金融庁の今年度の行政方針には、「各金融機関が事業者の経営状況に見合った支援を行えるよう後押しする」旨が記載されています。よって返済難の際には、早期かつ率直に条件変更依頼等を金融機関側に申し入れられたほうがよいと思われます。
オペレーショナル・デザイナー
(沼津信用金庫 参与/富士宮信用金庫 監事)
佐々木 城夛(じょうた)
1990年 信金中央金庫入庫。欧州系証券会社(在英国)Associate Director、信用金庫部上席審議役兼コンサルティング室長、地域・中小企業研究所主席研究員等を経て2021年4月に独立。「ダイヤモンド・オンライン(ダイヤモンド社)」「金融財政ビジネス(時事通信社)」ほか連載多数。著書に「いちばんやさしい金融リスク管理(近代セールス社)」ほか。
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