Vol.58 グレーゾーン解消のための調査技術編②~
心理的な契約内容の不適合確認合意書とは
2020年4月1日、民法が改正施行されたことで、「契約内容不適合の存在の有無」が、損害賠償請求訴訟における紛争の争点とされる時代になりました。宅建業者が、このような訴訟に巻き込まれないためには、あらかじめ契約内容不適合に該当するか否かの具体的な事例について、当事者の合意を取得しておくことが大切です。本編では、「死因に起因する契約内容不適合の存在」について述べたいと思います。
3種類の契約内容不適合の形態
不動産の契約内容不適合は、(1)明らかな契約内容不適合、(2)契約内容不適合には該当しないもの、(3)当事者の取引観念や個人的満足度の相違により判断が分かれる心理的な契約内容不適合の存在、の3種類に分類されます。主に、紛争になる部分は、(3)の契約内容不適合の判断が分かれる分野であり、具体的な事例を挙げて、「契約内容不適合に該当しない旨の合意書」を当事者間で作成することが大切です。
3分野の心理的な契約内容不適合
心理的な契約内容不適合の存在は、①死因による心理的な契約内容不適合の存在、②悪化した環境の契約内容不適合の存在、③不安感を感じさせる生活環境の契約内容不適合の存在、の3分野に分類できます。
①死因別による心理的な契約内容不適合の有無
厚生省が交付している死亡診断書記入マニュアル(令和5年度版)によると、死因の種類は12種類です(表参照)。死因の中に、取引観念などの個人的満足度の相違で当事者合意がない場合には、紛争となりそうな死因を抽出して、表のとおり合意事項を作成します。
第3、第4、第8の場合は、「契約内容不適合に該当しない旨の合意書」が必要です。第5、第9、第10、第12の場合は、無条件で告知することが必要です。また、第1、第2、第6、第7、第11の場合は、自然死と不慮の事故、戦争等のため、契約内容不適合には該当しません。また、合意書の中に、「本物件敷地・建物以外の場所や日常生活において通常使用しない共同住宅の共用部分や隣接住戸において発生したもの、過去10年以前の解体撤去済み建物内での自殺、他殺、火災死亡によるもの、過去10年以前の事件性のあったもの、昭和20年以前の戦時中および戦前に発生したもの」については、購入者の特段の申出がない場合、契約内容不適合には該当しない」旨を付加することが大切です。
②環境悪化による心理的な契約内容不適合の有無
環境に関する契約内容不適合の存在の有無は、「騒音・振動・地盤沈下・悪臭・水質汚染・大気汚染・土壌汚染等の環境保護に関する法令および条例に定める基準値未満のものは、購入者の特段の申し入れがない場合は、契約内容不適合には該当しない」旨の合意書が必要です(ポイント参照)。
ポイント
買主の取引観念や個人的満足度は人それぞれ異なります。それが原因で生じる契約内容不適合の該当の有無について、売主・買主間であらかじめ合意書にして、トラブル防止をすることが大切です。右記文書は、「契約内容不適合の確認合意書」の一部です(2023年11月版)。
③生活不安感による心理的な契約内容不適合の有無
生活不安感に関する契約内容不適合の存在の有無は、「指定暴力団および団体規制法に基づく観察処分中の団体・事務所の所在による生活不安感の契約内容不適合は、日常生活において通常利用しない道路に接して所在するものおよび取引対象不動産が所在する一街区内に所在しないものは、購入者の特段の申出がない場合は、契約内容不適合には該当しない」旨の合意書が必要です。このように、人によって判断が分かれると思われる契約内容不適合の具体的事象について、当事者合意を図ることが大切です。
不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。