移住者、殺到。
都城市が掲げた日本一大胆な施策
〜宮崎県都城(みやこのじょう)市〜
人口減少を食い止めるため、全国の自治体が力を入れている「移住支援」。中でも“日本トップレベルの大胆な支援”と公言する宮崎県都城市の施策が、注目を集めています。同市が“日本トップレベル”と表現する支援制度とは何か。人口減少対策課の担当者に話を聞きました。
「子育て三ツ星タウン」で切れ目のない支援を実現
宮崎県の南西部に位置し、霧島山系と鰐塚(わにつか)山系に囲まれた都城盆地に広がる都城市。清冽な地下水と豊かな自然に恵まれ、昔から焼酎やお茶等の名産地として知られています。また、牛・豚・鶏の合計産出額が日本一という畜産のまちでもあり、“肉と焼酎”の魅力を前面にアピールした「ふるさと納税」では、寄付総額で日本一に輝いています(図表1)。また、児童の受け入れも気軽に相談でき、子育てもしやすく、公園や子育て施設が充実していることも都城市の大きな特徴です。
ただ、全国的に課題となっている人口減少については都城市も同様で、その数は減少の一途をたどっています。人口は約16万人、県内で2番目の都市として栄えていますが、平成27年国勢調査に基づく国立社会保障・人口問題研究所の発表によると、令和22年には約13万2,000人にまで減少することが予測され、人口減少が喫緊の課題です(図表2)。そうした中、同市では平成25年度から移住支援に取り組み、令和5年度からは「人口減少対策課」を新たに設置。人口減少対策に向けて各種施策を推進しています。詳細を同課・副課長 小牧 誠氏(以降:小牧氏)に聞くと「我々は、“10年後に人口増加へ!”という目標のもと、令和5年度から、人口減少対策に力を入れています。人口を増やすためには、 出生・死亡にあたる自然増減、市外から都城市に移住者を呼びこむ社会増が柱になります。自然増の対策として、3つの完全無料化を掲げ、より子育てをしやすい環境を整えています」と話します。聞けば、核となる3つの完全無料化とは、第1子からの保育料の完全無料化、中学生までの医療費の完全無料化、妊産婦の健診費用の完全無料化を実施し、安心して子育てできる「子育て三ツ星タウン」を実現しているとのこと。この施策によって、妊娠期から子育て期まで切れ目ない経済的支援を実施し、子どもを産み、育てたいと思う人を強力にサポートするというものです。
また、自然減対策として掲げるのが、市民の健康増進です。保健師等が、公民館などに出向き行う、こけないからだづくり講座の継続支援やAIを活用した特定健診及び大腸がん検診の受診率向上対策を拡充。そのほか、循環器・脳血管疾患などの重症患者の地域完結型医療体制を目指し、都城市郡医師会病院に高度な治療が行える「心臓・脳血管センター」を新設。同センターは令和7年度の運用開始を目指しています。
全国区になりつつある大胆な移住支援
そして話題は“日本トップレベル”と公言する、社会増を担う移住支援策へ。
実は都城市では、平成25年度に移住・定住の取り組みを開始して以来、UIJターン者への支援体制を整えてきた経緯があります。特に、令和2年度の移住・定住サポートセンター開設後は、きめ細やかな移住相談や無料職業紹介など手厚いサポートにより、移住相談が増加。取り組み開始初年度に、1人だった移住者は年々増加し、令和4年度には過去最高の435人を記録しています。そして次のステップとして同市が打って出た策が、夫婦+子ども2人の1世帯が最大500万円を受け取ることができる「移住応援給付金」です(図表3)。要件として、事前に「都城市移住・定住サポートセンター」への登録、転入後3か月以上1年以内の人、都城市に5年以上居住する意思がある人等、諸条件はありますが、子ども加算の制限はなく、全国どこから(三股町・曽於市・志布志市を除く)移住しても支援を受けることが可能とのことです。日本トップレベルの施策は、すぐさま話題となり移住者の数は過去最多を記録。小牧氏の話によると、前述の最高移住者数を記録した令和4年度の435人という数字は、令和5年7月時点で更新され、10月末時点で1,041人に達し、世帯数は511、いまなお相談者は増え続け、新規相談件数は2,463件となっています(図表4・5※グラフは令和5年10月末まで)。
(1)移住応援給付金〈新規〉
(2)未来の人材確保に向けた奨学金返還支援〈拡充〉
(3)移住・定住サポートセンター〈継続〉
一連の流れに対して小牧氏は「PRにも力を入れました。人気キャラクターのふなっしーを都城市の“特別住民”として迎え入れ、ふなっしーが出演するレポート形式のWeb動画や特設サイトの公開、関東のテレビ局の取材や新聞広告なども展開。PR活動に力を入れたことで全国的に移住者が増えてきている状況です。もちろん移住応援給付金の額もあると思いますが、子育て支援に関するさまざまな取り組みが認知されたことをうれしく思います」と話します。そして同氏は国の制度をも上回る手厚い支援ができるひとつの理由として、日本トップクラスの「ふるさと納税」の財源が柱になっていると付け加えます。
このほか、都城市は移住前に住まいや仕事を探しに訪れる際の宿泊費やレンタカー代を補助する「お試し滞在制度」、高等学校卒業時に、本人又は法定代理人が都城市に居住していた場合に、奨学金を借りて大学等に進学して、都城市に本店のある事業所等に就職した場合に奨学金返還を支援する「奨学金返還支援補助金」等さまざまな支援策で移住者を募っています。市ではこうした施策を通して減少が続く人口を10年後には増加に転じさせることを視野に入れています。
都城市が抱える空き家問題の実情
増え続ける移住者の住まいに関しては、都城市はどのように対応しているのでしょうか。この件について、人口減少対策課空き家相談センターの中島美浩氏(以降:中島氏)に話を聞くと「年々移住者が増加する中で、住まいに関する相談も多様化し、空き家に住みたいといったニーズも高まってきました。こうした状況を受けて、それまで別々の部署で行っていた移住相談と空き家相談の窓口を令和5年度から一本化し、よりきめ細やかな対応を行っているところです」とのこと。
しかし、移住者が増える一方で、空き家の発生件数も増え続けており、平成30年に実施された住宅・土地統計調査では、全国や宮崎県と同様に、都城市の空き家も増加傾向で、平成30年で16,700戸、総住宅数に占める空き家の割合も平成15年の10.6%から平成30年で19.2%と過去最高となります(図表6)。そのような状況の中、空き家に対して、都城市が対応する策は「個別の空き家相談会を実施すること」だと中島氏は話します。理由に同氏は「結局、空き家所有者も空き家をどうしていいかわからないのです。相続に至っても活用方法が詳しくわからないなど、不安の方が先行して、第一歩を踏み出せない方が多くいます。だからその背中を押す意味で個別相談会をスタートさせました」と話します。
都城市が個別相談会を始めたのが、令和2年度。15地区に分けられた市内を3地区ごとに回り、空き家問題を理解してもらうとともに、空き家活用を希望する方にはアドバイスをしてきたそうです。そして、「これまでに収集してきた移住希望者や空き家所有者の声をもとに、今後も伴走型の空き家活用を進めていきたい」と話します。
ただ、空き家所有者の話を聞く中で、不動産に対する価値観が変化したと付け加えます。「以前は家や土地を所有していれば、一生ものの財産、ひとつのステイタスという考えが普遍的で、次世代に継承していくことが所有者の使命といったイメージが大きいと感じていました。しかし、現在は180度変わってしまったと感じています。だからこそ、時代にマッチした対応を我々も行っていかなければと痛感しています」。
人口の減少は自治体の力にも影響
人口減少と空き家問題。日本が抱える2つの大きな課題に対して、時代の流れに沿った策を取る都城市。先出の小牧氏に今後のビジョン等を伺うと「人口が減少するということは地域経済活動の縮小はもとより、深刻な人手不足や日常生活を維持する各種サービスの低下をもたらし、さらなる人口減少を加速させるという悪循環の連鎖に陥ることが懸念されます。現在、移住者が増加していることをみれば、我々も力を入れて、さらなる対策を講じていく必要があります。
冒頭にも述べたように、我々は10年先を見据えて、人口減少を食い止めて、誰もが将来に対する夢と希望を持ち、笑顔で暮らせるまちであってほしいと願っています。現在は、移住施策がクローズアップされていますが、人口が増加し続ければ、必要となるのは住宅です。既存ストックの有効活用、アパートの整備等、現在の良い流れを住宅課題にもつなげていくことができればと考えています。そうすることによって、新たなコミュニティが形成されます。また、高齢者も増加し、農業をはじめとした市内に根付く主産業も担い手不足に悩んでいます。人口が増加することで、そのような後継者問題も解決でき、都城市がより住みやすい地になることを心から願っています」と話します。