担保物権のうち最も重要で試験での出題頻度が高いのは抵当権ですが、抵当権以外の担保物権も4~5年に1回程度出題されています。日頃の学習においては、抵当権に比重が置かれ、抵当権以外の担保物権は手薄になりがちです。そこで、今回は抵当権以外の担保物権のポイントを押さえることにします。
抵当権以外の担保物権
1.留置権
(1)留置権とは
留置権とは、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまでその物を留置して、債務者の弁済を間接的に強制する法定担保物権(契約によらず、一定の場合に法律上当然に生じる担保物権)をいいます。ただし、占有が不法行為によって始まった場合(後から占有が不法な状態になった場合を含む)は、留置権を行使することができません。なお、留置権に物上代位性はありません。
たとえば、Aの建物をBが賃借している事例において、賃貸人Aが行うべき建物の修繕を賃借人Bが行った場合、賃貸借契約終了後、Bは、Aが修繕代を払うまで建物を留置して、修繕代の支払いを促すことができます。
(2)留置権の行使と被担保債権の消滅時効
債権者が留置権を行使していても、被担保債権の消滅時効の完成猶予や更新は生じません。
2.先取特権
(1) 先取特権とは
先取特権とは、法律で定めた特殊な債権を有する者が、債務者の財産から、優先弁済を受けることのできる担保物権をいいます。先取特権も、留置権同様、法律上自動的に発生する法定担保物権です。先取特権には多くの種類がありますが、宅建試験においては、次の3種類の不動産先取特権と不動産賃貸における動産への先取特権を押さえておけばよいでしょう。
(2) 不動産に関する先取特権
次の場合、先取特権者は、いずれも当該不動産を競売にかけて、その代金から優先弁済を受けることができます。
上記の3つの先取特権のうち不動産保存と不動産工事の先取特権は、先に登記した抵当権があった場合でも、抵当権に優先して行使できます。
3.質権
(1) 質権とは
質権とは、債権者が債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を、弁済を受けるまで留置して弁済を間接的に強制するとともに、弁済がないときはその物を換価して優先弁済を受ける約定担保物権(契約によって成立する担保物権)をいいます。質権は、当事者の合意だけでは成立せず、債権者に目的物を引き渡してはじめて効力を生じます(要物契約)。
(2) 不動産質権
質権は、動産のほか、不動産にも設定することができます。不動産質権は、不動産を使用・収益できるかわりに、特約がない限り利息を請求できません。また、期間は10年以下にする必要があります(更新可)。
4.民法上の担保物権の性質の違い
民法に定められている担保物権の性質の違いを表にまとめておきます。
問題を解いてみよう!
知識の定着を
- 【Q1】建物の賃貸借契約が賃借人の債務不履行により解除された後に、賃借人が建物に関して有益費を支出した場合、賃借人は、有益費の償還を受けるまで当該建物を留置することができる。(H25 問4)
- 【Q2】抵当権者も先取特権者も、その目的物が火災により焼失して債務者が火災保険金請求権を取得した場合には、その火災保険金請求権に物上代位することができる。(H21 問5)
こう考えよう!<解答と解説>
Answer1
【解説】債務不履行により契約が解除されたため、賃借人の占有は不法な状態になっています。このような不法な占有に基づいて留置権を行使することはできません。
Answer2
【解説】先取特権も、抵当権と同様に物上代位性を有しています。目的物が建物の場合、その建物に対する火災保険金請求権は物上代位の対象になります。
植杉 伸介
宅建士・行政書士・マンション管理士、管理業務主任者試験などの講師を35年以上務める。著書に『マンガはじめてマンション管理士・管理業務主任者』(住宅新報出版)、『ケータイ宅建士 2024』(三省堂)などがあるほか、多くの問題集の作成に携わり、受験勉強のノウハウを提供している。