Vol.35 不動産テックは「2024年問題」解決の助力となるか
2024年の不動産業界には多くの課題が顕在化しそうです。人手不足に金利上昇、そして、長く業界全体に影響を及ぼしそうな「2024年問題」に直面することが予想されています。それぞれの問題点とテクノロジーによる解決の可能性を紹介します。
2024年に不動産業界を襲う問題と解決のための不動産テック
2024年の不動産業界では、まず日本全体が陥っている慢性的な「人手不足」が大きなリスクとなりそうです。少子高齢化の影響で労働人口の減少が続き、現場を回す担い手が見つかりません。2023年11月の調査では、正社員の人手が足りないと答えた企業は52.1%(全業種)となっており※1、全企業の半数以上が人手不足を感じていることがわかりました。
また、高齢化と後継者不足も深刻です。不動産業の就業者のうち5割が60歳以上となっており、社長の年齢も平均62.5歳と全業種中1位となっています※2。
企業は採用プロセスのデジタル化や労働環境の改善、早期人材確保などを積極的に導入する必要があるでしょう。スキマ時間を活用したギグエコノミー※3やリモートワークなどを活用し、主婦や高齢者、外国人も含めて多様な人材登用も視野に入れておくべきかもしれません。
※1 2023年帝国データバンク・人手不足に対する企業の動向調査
※2 2022年帝国データバンク・全国「社長年齢」分析調査
※3 インターネット等を通じて単発の仕事を受注する働き方。また、これらによって成り立つ経済形態を指す。
もう避けられない、金利上昇が与える不動産市場への影響
「金利上昇の可能性」については昨年来からさまざまな形で言及されています。これは、長期にわたる低金利政策からの脱却と、世界的なインフレの影響を受けているためです。日本銀行は、ここ10数年はマイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール※4を用いて金利が低くなるようにコントロールしてきましたが、これらの政策には金融市場の調整機能の歪みや資産バブルのリスクなどの問題がありました。また金融機関の収益圧迫なども考慮されていて、昨年4月に就任した日銀総裁・植田和男氏は、これらの政策を正常化する役割を担っており、マイナス金利の解除は既定路線となっています。経済紙や専門家の間では、この4月にも何らかの動きがあることが予想されています。
※4 長期・短期の金利を操作し、景気を刺激することを目的として実施する金融政策。
金利上昇に関して、みずほリサーチ&テクノロジーズは2026年頃の住宅ローン金利が大幅に上昇すると予想しています。これは現在のインフレ率や株価が80年代後半から90年代前半の指標と相似してきており、仮にこうした指標に沿って金利も上昇していくなら、数年後には変動金利が4.0%、固定金利が4.8%になってもおかしくはない、という筋立てです(図表)。当時と現在では経済・社会環境が大きく違うため、経済指標だけでは多くは語れませんが、一つの見方としては参考になるかもしれません。
言うまでもありませんが、金利は不動産ビジネスに大きな影響を及ぼします。すでに現場からは、「低金利のうちに必要な投資(設備・人材教育)を検討すべきでは?」「ランニングコストを見直して、効率化を図ることも必要」といった対策が叫ばれています。
すでに、金利上昇は避けられない傾向であり、これに伴う不動産市場の変動に備えることが求められます。ビジネスシーンのランニングコストを見直しながら、行く末を注視しましょう。
際限なく上昇を続ける建築費用はどうなるのか
「2024年問題」は建設業界において、時間外労働の上限規制が適用されることにより生じると予想されている課題です(本号「2024年4月から建設業に適用される「時間外労働の上限規制」とは」参照)。この規制は、建築費の高騰や建築期間の長期化という形で不動産業界にも影響を及ぼすと考えられています。特に、建設作業に関与する不動産開発企業やハウスメーカーにとっては、すでに人材不足が問題になっているなか、さらなる試練となりそうです。
もちろん、建築現場の少人数化のためにテクノロジーを活用する動きは進んでいます。建設現場で働く人のためのアプリ「助太刀」では、職人と建設会社のマッチングを提供しています。また「スパイダープラス」は建設図面や現場管理アプリを提供するなど、さまざまな形で業務の効率化と人材活用の最適化を図っています。
しかし、現実には全く追いついていないようです。関係者によると、オフィス建築費がコロナ前に比べて7割以上も高くなった地域もあります。こうした建築費の増加に耐えられずに、再開発計画を縮小する動きも少なくありません。
前述した金利上昇はインフレを抑える効果があります。しかし、建築費高騰の要因である人手不足は構造的な問題であり、現在のところ建築費が下がる要因は少ないため、金利が上昇しているにも関わらず、不動産価格が上がっていく現象も考えられます。そうなれば、新築物件に比べて低価格な中古物件への関心が高まることも考えられます。また、住宅購入を諦めた人が賃貸住宅市場に目を向ける可能性もあるでしょう。
いずれにせよ、余波は広い領域に及ぶと考えられます。建築費を抑えるテクノロジーのさらなる登場と活用に期待したいところです。
おわりに
制作スケジュールの関係で、私にとっては、こちらのコラムが2024年最初の執筆となりました。実は新年早々にけがを負ってしまい、病室にて、こちらを執筆しています。読者の皆さまも、2024年、まずは健康に留意しながら過ごしてまいりましょう。
株式会社トーラス
代表取締役
木村 幹夫
大学卒業後、東京大学EMP修了。三井住友銀行にて富裕層開拓、IT企画部門にてビックデータを戦略的に活用した営業推進、社内情報系システムの大部分をWebシステムで刷新するなど、大幅なコスト削減と開発スピードアップを実現。2003年に株式会社トーラス設立。登記簿を集約したビックデータを構築し、不動産ビックデータ、AIを元にしたマーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストなど受賞実績多数。東京大学協力研究員。情報経営イノベーション専門職大学、客員教授。