当社は、平成30年5月にY社と建物賃貸借契約を締結し、Y社の社長の友人であるZが連帯保証人となり順調に推移しておりました。令和2年5月に当社とY社との間で賃貸借の更新契約を締結しましたが、連帯保証人のZとは格別の更新契約は交わしていませんでした。
令和2年8月分からY社の賃料が支払われなくなったので、令和2年8月から同年10月までの3カ月分の賃料不払いを理由にY社との賃貸借契約を解除し、Y社と連帯保証人のZに対し3カ月分の未払賃料を請求したところ、Y社は経営不振で支払い能力がなく、連帯保証人のZからは、「連帯保証契約を更新した覚えがないので、令和2年5月以降は連帯保証人の責任はない。また、令和2年4月から改正民法が施行されており、個人の連帯保証契約は極度額を書面等で定めていない場合は無効であるから、いずれにしてもZには連帯保証債務の履行義務はない」との回答が届きました。Zに連帯保証人としての責任は追及できないのでしょうか。
Answer
賃貸借を更新する際、賃借人とは更新契約を交わしますが、連帯保証人には更新契約に署名押印を求めていないというケースが少なくないようです。そのため、賃借人が賃料不払い等を起こした場合に、連帯保証人の履行義務を拒むことがあります。しかし、判例では、連帯保証契約の更新手続きを行っていなかったとしても、賃借人の債務について連帯保証責任を免れないと判断されています。
また、本件では、改正民法施行後に保証契約の更新契約が締結されていませんので、改正民法は本件の連帯保証契約には適用がありません。したがって、極度額の定めがなくとも連帯保証契約は有効ですので、貴社はZに対し、Y社の3カ月分の未払賃料を請求することができます。以下でくわしく見ていきましょう。
賃貸借契約の更新後の連帯保証人の債務の存続
期間を定めた建物賃貸借契約書に賃借人と連帯保証人とが署名(記名)押印すれば、その期間中、連帯保証人が連帯保証債務を負うことは当然のことです。そして賃貸借の更新の際に、賃借人と連帯保証人がともに更新契約書に署名(記名)押印すれば、更新後の期間中、連帯保証人が連帯保証債務を負うことも明らかです。しかし、実際には、更新契約は賃貸人と賃借人との間では締結しているものの、連帯保証人は何ら更新契約には関与していないという場合も少なくありません。
このような場合、連帯保証人との間の連帯保証契約は更新手続きが行われていないのであるから、連帯保証人は更新後の賃借人の債務には責任がないのではないかという点が問題になります。
しかし、最高裁判所は、「期間の定めのある建物の賃貸借においては、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないものというべきである」との判断を示しています(最判平成9年11月13日)。
したがって、当初の賃貸借の連帯保証人は、連帯保証契約の更新手続きを行っていなかったとしても、更新された賃貸借契約における賃借人の債務については連帯保証責任を免れないことになります。
改正民法施行後は、極度額の定めがなければ連帯保証人に請求ができなくなるのか
Zは、本件連帯保証契約に基づいて、改正民法施行後の令和2年8月分~10月分の責任が問われるというのであれば、本件連帯保証契約には極度額の定めがないので、本件連帯保証契約は無効であると主張しています。
しかし、改正民法は、改正民法施行後に新規に契約を締結するものに適用されるのが原則です。本件連帯保証契約は平成30年5月に締結されたものですので、改正民法施行後に、直ちに改正民法が適用されるわけではありません。改正民法施行後に連帯保証契約を更新した場合に、新規契約が締結された場合と同様に、改正民法が適用されるかについては見解が分かれています。しかし、本件連帯保証契約は、改正前民法の時代に締結されただけで、改正民法施行後に賃貸借契約は更新されましたが、本件連帯保証契約の更新手続きはなされていません。このように、改正民法の施行日(令和2年4月1日)より前に締結されたもので、その後、同保証契約が更新されることもなかった場合には、改正民法の適用がないことは争いようがありません(附則21条1項)。
今回のポイント
- ●賃貸借の保証債務は、賃貸借が更新された場合には、保証契約を更新していなくとも、特段の事情のない限り、更新後の賃借人の債務について保証責任を負う。
- ●民法改正前に締結された連帯保証契約は、改正民法施行後に当然に改正民法の適用を受けるわけではなく、極度額規制の適用はない。
江口・海谷・池田法律事務所
弁護士
江口 正夫
東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』『大改正借地借家法Q&A』(ともに にじゅういち出版)など多数。