Vol.28 宅建業者が税金に関する説明を誤ったため損害が生じたと主張されるトラブル
宅建業者が、取引者(売主・買主)より「不動産売買に関する税金の特例等について誤った説明をした」等と主張され、取引者の税金トラブルに巻き込まれるケースが見られます。取引者には「税金に関する調査・確認等は、取引者自身が税務署・税理士に行う必要がある」ことの認識をしておいてもらうことが重要です。
トラブル事例から考えよう
不動産適正取引推進機構相談事例より
〈事例1〉
仲介業者より「住宅ローン控除が利用可能」と説明を受けて 中古住宅を購入したが、実際には適用できなかったとして、 買主がその税負担分を仲介業者(売主業者)に求めるトラブルになった。
【適用できなかった理由】
・ 建物の登記記録に表示されている床面積(マンションの場合は専有面積)が50㎡未満だった。
・ 売主業者の「耐震基準適合証明書があるので適用がある」との説明を、媒介業者は鵜呑みにして買主に伝えたが、同証明書は家屋取得の日の2年より前に家屋の調査が終了したものだった。
・ 媒介業者の住宅ローン控除の適用期間に関する説明内容が間違っていた(媒介業者は「一応税務署にも確認してください」と言ったと主張するが、買主は言っていないと主張する)。 ・・・等
〈事例2〉
相続空き家を売却する際、「相続空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除を利用する」と媒介業者に話したが適用できなかったとして、売主がその税負担分を仲介業者に求めるトラブルになった。
【適用できなかった理由】
・ 住宅(昭和56年5月31日以前建築)の売買において、売主が建物を取り壊し、更地で引き渡す契約であれば適用があったが、買主業者が引き渡し後に建物を取り壊す契約であったため。 ・・・等
裁判例より
〈事例3〉
媒介業者には、非居住者等より不動産を購入した買主に対し、売買代金1割相当の源泉徴収義務がある旨の説明義務がある、とした買主の主張が棄却された事例
【東京地判 平22・10・18】
買主は、外国法人の売主より、売買代金1億6,000万円および売買代金3億円の各区分所有建物を購入する契約をした。不動産の売買代金を外国法人に支払う際、買主には、その1割相当の所得税の源泉徴収をして翌月10日までに納付する義務があったが、買主はこのことを知らないまま、平成19年8月、同年11月に各決済を行った。
平成21年5月、税務署より源泉徴収による納税義務を指摘された買主は、売主より所得税相当額4,600万円の返還を受けて納付したが、不納付加算税・延滞税、計674万円余の賦課決定を受けた。
買主は、媒介業者には源泉徴収義務の存在について告知義務があるとして、媒介業者に損害賠償を請求したが、裁判所は、「媒介業者に買主が負担すべき税金の内容や金額、源泉徴収義務の存否等についてまで調査報告すべき義務はない」として、買主の請求を棄却した。
〈事例4〉
過少申告加算税の賦課処分を受けた申告者が、税務署職員の電話相談が誤っていたとして、その録音を証拠に処分の取消しを求めたが棄却された事例
【東京地判 令4・10・17】
申告者が、「売却した住宅が居住用財産譲渡の特例の居住用財産に該当するか」について、税務署職員に電話相談で確認し申告をしたところ、税務署より「光熱費使用料が少ないので、居住用財産に該当しない」として修正申告を求められ、過少申告加算税の賦課決定処分を受けた。申告者は、過少申告は税務署職員の誤った指導のためとして、電話相談の音声録音を証拠に賦課決定処分の取消しを求める訴訟をした。
裁判所は、「音声録音によれば、申告者の質問は、住宅の具体的な取得経過や居住実態等について触れることなく、要件の一般的な判断方法を尋ねる内容にとどまっているものであり、居住実態がない場合に特例の適用が受けられないことは、職員の一般的回答の内容等からも明らか」として、その請求を棄却した。
01税務相談と税理士法違反
税理士法52条により、税理士資格を持たない者が税務相談等の税理士業務を行うことは、無償で行うものであっても禁止されており、違反には同法59条による罰則が、当該行為によって相手方に損害を与えた場合には民事上の責任が問われることになります。
したがって、税理士資格を持たない宅建業者は、売主・買主(以下、取引者)の税務相談に応じない(応じてはならない)はずですが、当機構のトラブル相談において、「宅建業者から、税金に関して誤った説明を受けた」とか、「宅建業者より税の特例に関する説明がなかったので、本来不要の税金が生じた」などとして、宅建業者に損害賠償を求めたいとするものが聞かれます。宅建業者が、このような取引者の税金トラブルに巻き込まれることにならないよう、次の基本対応は重要と思われます。
①取引者に対して、「税に関する相談や調査は、取引者自身が税務署・税理士に対して行うものであること、宅建業者に税に関する調査義務等はないこと」を説明し認識しておいてもらうこと。
②取引者からの税務相談(取引物件で特例が利用できるか等)の依頼は、決して受けないこと(宅建業者ができるのは、一般的な税の概要に関する資料の提示と概要説明まで)。
02事例1・4から学ぶこと
税金の特例は、その適用要件が1つでも満たされていない場合、利用ができません。また、宅建業者が、税理士等ではない者の「特例利用ができる」の言葉をそのまま相手方に伝えることは、トラブルの原因になるので不適切です。
宅建業者が「取引物件で住宅ローン控除の適用はあるか」等の照会を受けた場合は、特例利用の可否の確認は、取引者自身が税務署・税理士に、正確かつ具体的に(一般的な判断の確認では足りない)行う必要がある旨を明確に伝え、取引者に税務相談に必要となる確認書類の写し等の資料を提供することが適切です。
03事例2・3から学ぶこと
取引者が税金に関してトラブルを生じると、宅建業者に責任がないとしても対応を余儀なくされますし、その後の営業に影響が出ることが考えられます。
営業上の対応として、一般によく知られている
・ 居住用財産譲渡の特例
・ 住宅ローン控除
・ 空き家譲渡の特例
・ 非居住者等より不動産を購入した買主の源泉徴収義務
等については、その概要が記載された資料(国税庁HPに掲載されている内容を印刷する等)を取り寄せて依頼者に渡し、詳細については、依頼者自身が税理士・税務署に確認する必要があること(この時、宅建業者は取引者の代わりに税務署・税理士等に確認をする等の税務相談は行わないことを明確にしておく)をアドバイスしておくことが勧められます。
一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席研究員
不動産鑑定士
中戸 康文
一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/