ここのところ、テレビなどで物価上昇が著しく報じられています。家賃が上がっているニュースを見たオーナーから「うちも家賃を上げられないか」という相談がたびたび来るようになりました。当社としては、家賃を上げて募集することはできますが、決まらなかったときにお叱りを受けるのではないかと思い、二の足を踏んでいます。このような場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
Answer
物価上昇には順序があります。資材が上昇、製品が上昇、安定化すれば賃金の上昇、そして最後に家賃の上昇となります。日本は長引いたデフレと、人口減少による需要の低下により、家賃が上がるという感覚を持っている人が少ないように感じます。
入居率が高いエリアでは、需要が供給よりも高いため、家賃を上げることは可能でしょう。ただ、入居率が低いエリアでは、供給が本来上がるべき家賃上昇を吸収してしまうため、難しい場合もあります。いずれにしても市場調整を見極め、現状の家賃査定をしっかり行うべきです。
市場調整を見極め、現状を把握する
長引く「デフレ下での常識」では、家賃は毎年下落か、よくても現状維持でした。しかしそれは「人口が減っていく」「物件が供給過剰である」という前提のもとで成り立ってきました。現在のように物価上昇が大きい場合には、「4年間住んだ入居者が退去したから、2,000円下げて募集をしよう」というやり方には注意が必要です。賃貸住宅の需要が上がったり、景気が継続的によくなり賃金が上昇すれば、それに合わせて家賃が上がっていくことは、むしろ当然といえます。
また、最近では不動産価格が高騰しており、物件を買いたくても買えない人も出ているため、より一層、賃貸住宅の需要は高くなるといえます。本来、物価が3%上昇したとき、家賃も3%上がらなければ、オーナーが受け取る「実質家賃」が低下するわけですから、物価と同じ価値で家賃も上がるのが当然といえるのです。
家賃を下げて募集するマインドを取り払う
ある首都圏の中堅管理会社によれば、コロナ禍で94%程度だった入居率は、現在は98%台後半となり、状況は一転しました。こうなると、強気の家賃で募集しても入居者が決まるため、家賃を上げてもよいといえるでしょう。賃貸需要が高まっている要因として考えられるのは、人々の「都市部回帰」が一つの理由ですが、外国人労働者の入居の増加も挙げられるでしょう。外国人の入居は今後も増え続けていくため、都市部を中心にますます賃貸入居率が高まっていくエリアがあると考えられるでしょう。
ただ、いくら近隣の家賃が上がっていると聞いても、管理会社の立場からすれば、「家賃を上げて募集しても、決まらなければ自分の責任になるから、上げたくない」というマインドが働いてしまうため、特段オーナーから指示がなければ数千円下げて募集するか、あるいは現状維持で募集するのがよいところでしょう。しかし、家賃をしっかり再査定しなければ、最後に述べますが、オーナーの資産価値を低下させることになってしまいます。
退去時には、再査定をする
手間はかかりますが、本来は退去時に家賃を再査定すべきです。インフレが強い市場では、物件を買えない人たちが賃貸物件へと流れることもあるため、現在の市況をしっかりと認識し、最新の相場をアップデートすることが重要だといえます。家賃査定のステップは下記のようになります。
①当該物件とライバル物件の選定
②お部屋の現状の平米単価を算出する
③立地、駅からの距離、設備、築年数などを項目として書き出す
④アイテムを一つずつ比較しながら金額差を書き出す
⑤誤差を修正して、新しい平米単価を設定する
⑥現在の家賃を修正する
入居率が高い状況下では、需給バランスが大幅に変わっている可能性があります。このようなエリアでは、常に市場家賃が変動していることもあります。極端なことをいえば、今月の家賃と来月の家賃が異なることも大いにあり得ます。その場合、頻繁に家賃査定をしなければ、オーナーは機会損失を起こしてしまうことになります。
収益還元での価値を意識する
たとえば、賃貸住宅が6%で売買取引されている市場を想定してみましょう。家賃が1,000円上がった場合、1,000円×12カ月=12,000円と、年間で12,000円家賃が上がることになります。多くの不動産物件は、収益還元法で考えられるため、下記の公式「物件の価値=家賃/市場の利回り」に当てはめてみます。
12,000円(家賃上昇)/6%(市場利回り)
=200,000円(価格の上昇分)
家賃が1,000円上昇したことで、取引価格が20万円上がったということになります。家賃を高める必要がある理由は、「物件の資産価値を高める」ということ。この関係をしっかりと理解すれば、なぜ家賃を高める必要があるのかがおわかりになるはずです。最適な家賃設定をすることは、「オーナーの機会損失を防ぐ」ということがわかったと思います。仮に、数年後に売却を……と考えた場合、特に家賃設定にシビアになるオーナーも増えるはずなので、管理会社としてしっかりと市場性を見極めて、最適な家賃の提案を心がけるようにしましょう。
みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役
今井 基次
賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®︎、CFP®︎、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。