Vol.37 進化する地図テクノロジー


不動産業界では、日々大量の取引データが生み出されています。その中には、ビジネスに大きな価値をもたらす情報が眠っているかもしれません。データを適切に収集・分析し、活用することが、不動産ビジネスの発展につながります。

「不動産」という言葉に隠された動かない資産の特徴

「不動産」とはあまりになじみが深く、聞き慣れた言葉ですが、外国人には奇妙に映るそうです。中華系の投資家向けに日本のマンションを案内する際、営業社員が自社名を「○×不動産(○×ぷー・とん・ちー)」と紹介したところ、奇妙な顔をされたそうです。中国語で不動産は「房地产」と表記され、「家屋・土地・資産」といった意味になります。たとえば英語では「不動産」は「Real Estate」となり、「現物・資産」といった意味になるでしょうか。「不動産」をそのまま「動かない・資産」と直接に訳すことはできません。確かに、よく考えてみると、資産を「動く」か「動かない」かで分けるのは奇妙にも思えます。中国でも家屋や土地について動かない点を強調して分類することがないため、冒頭のリアクションになったのでしょう。

こうした歴史に詳しい方に聞いてみると、日本は明治時代中期の旧民法制定の際に参考にしたフランス民法の影響を受けているのではないか、とのことです。フランス語で不動産は「Immobiliers」(動かないもの)と表現されます。この言葉をそのまま日本語に翻訳したのが「不動産」という言葉の由来だと考えられています。

不動産がマネーや株などと違い、動かない財産であるがゆえに、ビジネスを進める上でとても大事なものがあります。それが地図です。本日は地図に関するテクノロジーについて紹介します。

地図テクノロジーの進化が不動産ビジネスを変える

かつては物件の位置や周辺環境を把握するために、実際に現地を訪れて確認する必要がありました。ほんの10数年前までは、地図を片手に現場付近をうろうろした経験があるはずです。しかし、今ではインターネットの普及により、物件情報を手軽に検索できるようになりました。Googleストリートビューを活用すれば現地に行かずとも、土地や建物の状態をかなり細かく理解できるようになっています。

近年ではさまざまな地図技術の発展により、より詳細で視覚的にわかりやすい不動産情報の提供が可能となっています。また、人工衛星を利用して地球上の現在位置を正確に特定するシステム「GPS」と、スマートフォンが連動することで、できることが飛躍的に増えています。「GIS」では地理的データの収集と管理、すなわち地図、衛星画像、統計データなどを取り込み、データベースに保存し、収集したデータを重ね合わせ、空間的な関係性を分析することができます。また、分析結果を地図上に表示し、わかりやすく可視化することができます。

GISは、都市計画、環境管理、防災、マーケティングなど、さまざまな分野で活用されています。たとえば、商圏分析や最適な店舗立地の選定、災害時の避難経路の策定などに役立てられています。そして、もちろん不動産ビジネスにもたくさんの応用事例が生まれています。

たとえば、一部の不動産管理会社においては、現場の保守員とオフィスのオペレーターがGISアプリを使って、管理物件のデータを地図上で閲覧・更新しています。保守員がスマホで物件の状況を報告すると、その情報がリアルタイムで地図上に反映され、オペレーターがすぐに確認できます。現場での操作は画面をタップするだけなので、不動産業務に詳しくない職員でも、現地の状況を的確に報告することができます。報告されたデータはデジタル化されているため、社内での共有や分析も容易です。このシステムにより、現場とオフィス間で情報共有がスムーズになり、物件オーナーからの問い合わせにも迅速に対応できるようになったと好評のようです。

また、物件の修繕履歴や入居者の属性などのデータも蓄積されるので、効率的な物件管理やマーケティングにも役立てられます。すでに売買仲介や不動産開発で重要な物件の仕入れについても、アプリを使って最新の情報を簡単に共有する事例が生まれています。営業担当社員ごとに、どの担当エリアをどれくらい回ったか、どの道を歩いたかも記録できるため、漏れがなく統一された情報管理が可能になります。物件の仕入れ活動のために、地場不動産会社の訪問履歴を蓄積して、いつ誰がどんな活動をしたかを地図に落とし込めば、エリアの偏りや漏れを防ぐ効果も期待できます。

このように、不動産ビジネスにおいてGISを活用することで、業務の効率化と顧客サービスの向上を実現することができます。

ビッグデータを解析し、不動産情報を可視化する

(株)トーラスでは、登記簿データを活用したビッグデータ解析により、不動産情報の可視化に取り組んでいます。たとえば、地図上で特定のエリアを指定することで、その範囲内にある不動産に設定された抵当権をもつ金融機関の情報をデータ化し、金融機関ごとに地図上にプロットすることが可能になりました。これにより、駅周辺や支店の営業範囲など、ビジネスの実態に合わせて登記簿データを活用できるようになっています。また、GPSとの連携により、不動産登記情報の利用がより機動的になりました。たとえば、金融機関の営業担当者が街中で気になる物件を見つけた際、その場でスマートフォンのSNSアプリ「LINE」を通じて登記情報をすぐに取得することができます。この迅速な情報確認により、ビジネスチャンスを逃すことなく、すぐに行動に移すことが可能となりました。

不動産ビジネスにおいて、情報は常に重要な役割を果たしてきました。近年のデジタル化やAIの登場により、扱うデータの量は飛躍的に増加しています。このような膨大なデータを効果的に活用することが、ビジネスの成功に不可欠になっています。しかし、専門的な知識がない人にとって、生のデータを直接扱うことは難しいかもしれません。そこで重要になるのが、GISや3Dマップを使ってデータを視覚的に表現する方法です。これにより、誰でもデータを直感的に理解し、ビジネスに活かすことができるようになります。

今後、3Dマッピング技術のさらなる進化と普及によって、不動産ビジネスはよりスピーディーに変革されるかもしれません。

地図テクノロジー

木村 幹夫

株式会社トーラス
株式会社トーラス
代表取締役

木村 幹夫

大学卒業後、東京大学EMP修了。三井住友銀行にて富裕層開拓、IT企画部門にてビックデータを戦略的に活用した営業推進、社内情報系システムの大部分をWebシステムで刷新するなど、大幅なコスト削減と開発スピードアップを実現。2003年に株式会社トーラス設立。登記簿を集約したビックデータを構築し、不動産ビックデータ、AIを元にしたマーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストなど受賞実績多数。東京大学協力研究員。情報経営イノベーション専門職大学、客員教授。