Vol.65
従業員が知りたい不動産調査基礎編②
現地調査における疑問に感じる力!
「不動産トラブルの原因は現地にある」などと言いますが、現地で疑問に感じなかった場合は、その後の役所調査で、疑問に感じなかった項目の調査を実施することはありません。ここにトラブルの原因があります。現地にて“何か変だ”と疑問に感じる能力を向上させることが大切です。本節では、いくつかの「現地で疑問に感じる方法」について述べます。
緑地協定への疑問
不動産調査の対象物件が所在する地域の周辺環境が、「画一化された大規模分譲地」や「区画整理地」の場合があります。そのようなときは、街路に面した住宅地の庭先に目をやり、植栽の種類がどの住宅でも同じ場合は、この辺りは「緑地に関する協定」が結ばれている地域で、植栽を無許可で伐採すると罰則があるのではないだろうか、と疑問に感じる必要があります。この場合は、役所の緑地担当の部署へ行き、都市緑地法に基づく協定などがないかどうかを調べます。
田んぼのそばにある山林への疑問
山林に囲まれた丘陵地で、斜面地に隣接する宅地の過去の地目が“田”などというときは、田んぼに山林の倒木が倒れこみ、地中に倒木が埋まっていることがあります。山林と田が接する環境の場合は、法務局調査において、過去の土地利用で、地目の中に“田”や“池”などがないかを確認します。ある場合は、倒木が埋まっていて地中障害物にならないか、と疑問に感じて、法務局調査をする必要があります。
擁壁上のブロック塀への疑問
“丘陵地にある大規模分譲地”の場合、各宅地には擁壁が敷設されています。一般に、境界標の位置は擁壁の下に敷設されていますが、時折、設置場所が擁壁の上や中間の場合があります。一見するとブロック塀が境界線のように見えるため、境界標が設置されていても、見誤っていれば敷地利用面積が大幅に異なるかもしれない、と疑問に感じることが大切です。法務局で、地積測量図を取得して、現地と照合しながら、境界標の位置を探る必要があります。
旧河川の移設工事への疑問
“区画整理地”などで近隣に河川等がある場合、昔は、河川の形状が曲がりくねっていたところを、洪水対策等で人工的に真っすぐにした可能性があるため、この付近の宅地は、今は宅地でも、昔は河川敷だったかもしれない、と疑問に感じる必要があります。河川が敷地の真下にあった場合は、“ミズミチ”が影響して、その上の住宅は湿気ることになります。このように河川が絡む区画整理地では、過去の土地利用の履歴を可能な限り調査する必要があります。
浸水被害実績への疑問
周辺の住宅のブロック塀や建物の外壁に、横一線の茶色いシミがついていることがあります。このような場合は、過去に、水害などで、泥水がそのシミの線まで浸水した可能性があります。役所へおもむき、浸水被害対策担当の部署で“過去の浸水被害実績”を調べます。
道路の変形への疑問
車両の通行の影響で前面道路の表面にたわみができ、波打ったようになっている場合があります。このような住宅地の周辺は軟弱地盤かもしれない、と疑問に感じることが大切です。近隣の公園などを観察して、ブロック塀や擁壁などが傾いている箇所はないか、現地調査をします。
液状化現象への疑問
建物周辺のコンクリートのタタキが波打っていたり、ブロック塀が縦に折れていたり、汚水桝が浮き上がっていることがあります。このような場合は、3.11地震などによる液状化現象によるものかもしれない、と疑問に感じることが大切です。売主の告知書を作成する際に、売主から「地震の影響はなかったか」などと、聞き取り調査をする必要があります。
土砂災害警戒区域への疑問
住宅を背にした山があり、宅地に斜面が迫っていることがあります。隣接地の住宅とがけの高さを比較して、2階の窓の上辺あたりをはるかに超えているがけ斜面がある場合、5mを超えるがけに相当するため、急傾斜地の危険個所、土砂災害警戒区域や特別警戒区域内に入っているかもしれない、と疑問に感じて、役所で調べる必要があります。また、がけ条例による建築制限は大丈夫だろうか、と疑問に感じることが大切です。
浄化槽排水許可への疑問
前面道路のU字溝が壊れている場合は、浄化槽排水の許可が出ないかもしれない、と現地で疑問に感じることが大切です。下水道施設がまだ整備されていない地域で、個別浄化槽設備のある古屋付き土地を売買する場合は、浄化槽の排水流末施設が確保されていることが重要な鍵になります。前面道路のU字溝の一部が破損し、近隣の敷地に水があふれ出ていたり、U字溝に土砂が埋まっていて水が流れない、U字溝の先の河川では、水の流れがなく水たまり状態にあるなどの場合は、浄化槽の排水許可が出ない場合があります。このため、U字溝の破損がある場合は、浄化槽の排水許可が出ないかもしれないと、現地で疑問に感じることが大切です。これらのほか、ポイントも参照してください。
ポイント
初回の現地調査での“疑問の感じ方” 36語録
現地調査において現況を疑問に感じる力をつけるため、下記の点に注意して観察してみましょう。
不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。