Vol.62 売主情報の確認編②~
付帯設備表から残置物状況一覧表へ!


最近の不動産取引において、売買契約時の必須書類となっているものに「売主の不動産情報告知書」(以下、売主の告知書)があります。しかし、この「売主の告知書」の中の「付帯設備表」をめぐって、不動産トラブルが発生しています。そこで本節では、この「付帯設備表」の取り扱いについて、主な重要ポイントを提案したいと思います。

仲介業者は売主の履行補助者!

こんな事件がありました。

「平成9年当時、東京都中野区の宅地細分化防止に関する指導要綱があった。土地の属する用途地域では宅地分割計画による敷地最低面積が60㎡以上必要だったところ、その事実を仲介業者が買主に説明をせずに、3,200万円で売却したため、買主は建替えができなかった」として、損害賠償訴訟となりました。判決では、「売主・個人は不動産売買については素人であるから、説明義務はない」旨を主張するが、「仲介業者に本件売買契約の成約に向けて委任している以上、仲介業者は売主の履行補助者であるから、仲介業者の不履行の責めは売主も負うこととなる」として、「売買契約解除に基づく原状回復として手付金300万円の返還および説明義務違反による損害賠償として、約定に基づく640万円の支払い請求」(平成9年1月28日、東京地裁裁判長・玉越義雄)が認められました。

「売主の告知書」に代筆はトラブルに!

「売主の告知書」について、「宅建業法の解釈・運用の考え方」(令和5年12月28日)では、次のように明記されています。

『宅地または建物の過去の履歴や性状など、取引物件の売主や所有者しかわからない事項について、売主等の協力が得られるときは、売主等に告知書を提出してもらい、これを買主等に渡すことにより将来の紛争の防止に役立てることが望ましい』『売主等が知り得る範囲でこれらを記載してもらうこととなる。なお、売主等の告知書を買主等に渡す際には、当該告知書が売主等の責任の下に作成されたものであることを明らかにすること』としています。「決して、仲介業者が代筆しないこと!」「手伝っても見本作成まで!」と心がけておくことが大切です。仲介業者の調査ミスによる損害賠償請求は、売主にも及びます。

付帯設備表から残置物状況一覧表へ!

既存住宅の不動産売買において、「築1~3年の既存住宅」と「築5~10年以上の既存住宅」とでは、住宅設備の品質性能が大きく異なります。

築1~3年の既存住宅の場合は、住宅設備の保証期間中のものが数多くあり、「付帯設備表」において、「保証書あり。〇年〇月〇日まで」と記載して告知します。

一方、築5~10年以上と年数が経過すると、保証期間も過ぎメーカー保証もありません。しかし、外壁塗装や庭師による庭の手入れなど、所有者の維持管理が行き届いている住宅では、買主から見れば、住宅設備の品質性能に対する期待度は高く、期待感が高いほど住宅設備の故障に敏感になります。そのような場合に、「付帯設備表」に故障の有無を記載していなければ、「故障していた」というトラブルに発展します。

このようなトラブルを防止するためには、5~10年以上の既存住宅の売買では、「付帯設備表」ではなく「残置物状況一覧表」を活用して、「すべての住宅設備は残置物」として告知するという方法があります。そうすることにより住宅設備の品質性能への期待度が低くなり、付帯設備に品質性能があるような過度の期待感をなくします。「残置物状況一覧表」に記載された諸設備は、「品質保証なし、いつ故障してもおかしくない」と、より明確に告知できます。その結果、各品目のうち、「半年前に取り換えたエアコン、保証期間〇年〇月〇日」などと、いくつか、メーカー保証付きの設備が存在するという表現になります。

買主の実地点検義務と売主の協力義務!

既存住宅に付随する付帯設備や残置物に対する個人的満足度は、人それぞれに異なるため、「買主の実地点検義務と売主の協力義務」について、以下のような特約が有効です。

「次に記載する残置物のうち、売主が品質性能を保証するもの以外は、何らかの損傷・欠陥等の不具合が内在もしくは顕在化しています。残置物の品質性能に対する個人的満足度は、人それぞれに異なるため、買主は、その品質性能を実地で点検して現況確認を行うこととし、売主は、電気・ガス・水道等を買主の内覧時に点検できる状態にして、買主の実地点検に協力することとします。売主は、撤去の意思表示をしなかった物品は、引き渡し時、すべて残置することとし、残置物の価額は0円とします」(ポイント参照)。

ポイント

 永年、居住していた売主と購入予定の買主とでは、既存住宅に付帯する住宅設備の品質性能への期待感や満足度が異なるため、「買主の実地点検と売主の協力」を明記した書類が必要です。そのため、「付帯設備表」よりも、「残置物状況一覧表」を積極的に活用することにより、品質性能に対する期待感を低くし、不動産トラブルの防止に役立つ場合があります。 ◽️住宅設備の修繕履歴も開示を!  住宅設備の修繕履歴についての告知事項は、「残置物状況一覧表」と重なって、買主の購入判断に大きく影響する場合があります。たとえば、「給湯器は10年以上、従来のまま」「エアコンは3年前に交換」「換気扇は1年前に交換」「排水管清掃は2年前に実施」といった情報があれば、買主は「故障するかもしれないが、まだしばらくは使えそうだ」と自分なりに判断ができます。このような修繕履歴の情報は、将来のトラブルを防止するためにも、貴重な情報となります。

残置物状況一覧表

住宅設備の修繕履歴も開示を!

住宅設備の修繕履歴についての告知事項は、「残置物状況一覧表」と重なって、買主の購入判断に大きく影響する場合があります。たとえば、「給湯器は10年以上、従来のまま」「エアコンは3年前に交換」「換気扇は1年前に交換」「排水管清掃は2年前に実施」といった情報があれば、買主は「故障するかもしれないが、まだしばらくは使えそうだ」と自分なりに判断ができます。このような修繕履歴の情報は、将来のトラブルを防止するためにも、貴重な情報となります。


津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。