Vol.16 海外の市況と賃貸・売買・投資状況 マレーシア編②
クランバレーの住宅エリアと不動産マーケットの状況


4月号で述べたとおり、マレーシア(クアラルンプール首都圏)は公共交通網の充実、温暖な気候、穏やかな国民性などから、個人投資家の海外での不動産投資やリタイアした方々のロングステイ先として候補に挙がるエリアです。今回は、クランバレー※1の主な住宅エリアを紹介しつつ、コンドミニアムマーケットの状況についてご説明します。

1.クランバレーの主な住宅エリア

KLCC※2・ブキビッタンは、マレーシアの首都クアラルンプールの中心エリアで、観光名所でもある「ペトロナスツインタワー」や「パビリオン」などの商業施設があり、非常に繁華性の高いエリアです。利便性も高いことから、ハイクラスの外国人駐在員から人気があり、コンドミニアムだけでなく、清掃やリネン交換等のサービスを伴うフルサービス型のサービスアパートメントも立地しています。

アンパンはKLCC・ブキビッタンの東側にありますが、このエリアには各国の大使館が立地しているので、昔から高級住宅地域として認知されており、中低層で住戸面積が広いコンドミニアムが多いエリアです。

モントキアラはクアラルンプール中心から北西方に位置する新興の高級住宅地域です。エリア内には著名なインターナショナルスクールがあるほか、エリア内の多くはクアラルンプール日本人学校への送迎バス路線に該当することから、日本人駐在員が多く居住しています。

バンサーはKLセントラル駅の西方に広がる住宅エリアで、国内富裕層や欧米人を中心に人気があるエリアです。高台にあり、中低層のコンドミニアムのほか、大規模な邸宅も建ち並んでおり、国内でも屈指の高級住宅エリアとなっています。

タマンデサは、大型商業施設「ミッドバレーメガモ-ル」の南方に広がる住宅エリアで、日本人駐在員がモントキアラに集まる以前は、最も多く日本人が住んでいたといわれるエリアです。上記の他の住宅エリアと比較すると相対的に物価水準が低めとなっています。

プタリンジャヤとスバンジャヤはクアラルンプールのベッドタウンおよび工業団地として発展したエリアで、日系の製造拠点が集まるシャーアラム(プタリンジャヤの西側)にも近いことから日系製造業の駐在員も多いエリアです。両エリア内には大型ショッピングセンターもそろっているので生活利便性は高く、現地の中華系マレーシア人も多く居住するエリアとなっています(図表1)。

※1 クアラルンプール連邦直轄領に10の地方自治体を加えて構成されたエリア。
※2 クアラルンプール市内中心部に位置する開発地区。

図表1 クランバレーの主な住宅エリア

2.クランバレーのコンドミニアムマーケット状況

図表2とともに、クランバレーにおけるコンドミニアムマーケットを振り返ってみます。

2011年、資源価格の上昇と世界金融危機の影響から脱したことで、住宅に対する投資が盛り上がりました。2014年には資源価格もピークに達し、さらに住宅投資が進んだことで投資・投機対象としてのコンドミニアムが大量に計画されました。政府は住宅市場の過熱感を抑えるために、外国人が購入可能な住宅の最低購入金額の引上げ、不動産譲渡益税の税率の引上げなどの各種規制を打ち出しました。2015年に入ってからはこれらの規制に加え、資源安の進行、6%のGST(消費税)が導入されたことによる消費マインドの落ち込みと金融機関の住宅ローン貸出審査基準の厳格化などが相まって、住宅マーケットは停滞期に入り、2016年以降今日に至るまでこの停滞期が続いています。この間、2015年以前に計画されたプロジェクトが竣工を迎え、賃貸マーケットではオーバーサプライ(供給過剰)の状態に陥ったことで賃料は下落を続け、賃貸目的の投資需要はさらに停滞するという厳しい局面を迎えました。2018年の政権交代によるGSTの実質的な廃止やその後の住宅需要刺激策により、一部の実需が戻ってはいるものの、いまだ盛り上がりに欠けるマーケットが続いているといえます。

実需が伸び悩む理由としては、2011年以降、投資用コンドミニアムの偏重供給が続いたことから一般的なマレーシア人が購入できる物件が少なく、マーケットでの価格需給ギャップが拡大していることが挙げられます。2019年末時点のクアラルンプール連邦直轄領におけるコンドミニアムの在庫数(図表3)を見ると、一般的なマレーシア人が購入検討を避けるとされる40万リンギット以上の価格帯の在庫数が全体の60%以上を占めており、価格面における需給ギャップが問題となっています。

図表2 クランバレーにおけるマンション(コンドミニアム)の価格賃料指数の推移

出典:日本不動産研究所「国際不動産価格賃料指数」

図表3 クアラルンプール直轄領におけるコンドミニアム在庫数(2019年末時点)

出典:マレーシア国家不動産情報センター

3.今後の見通し

このように現在のクランバレーのコンドミニアムマーケットは軟調な状態が続いていますが、政府による相次ぐ住宅需要刺激策や2015年以降の大量供給の竣工がようやく落ち着き始めたことから、2020年には底打ちするという期待がありました。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大によるマクロ経済に対するセンチメント(市場心理)の悪化が、2020年に持ち直すと予測されたコンドミニアムマーケットにも水を差す可能性が指摘されています。また、2020年2月末に、国民からの人気が高かったマハティール首相が突如退任し、野党と連合したムヒディン氏が首相に任命されたものの、すぐさま不信任案が提出される見込みとなるなど、現在マレーシアでは政治的な混乱が続いています。これにより、住宅需要刺激策をはじめとする各種政策の継続性などについても不透明感が生まれており、コンドミニアムマーケットに対しても向かい風となる可能性があります。

次回以降はクアラルンプール(クランバレー)で投資物件を購入する際に留意すべきことについてご説明します。


松浦 康宏

松浦 康宏

一般財団法人日本不動産研究所国際部主席専門役。不動産鑑定事務所を経て、当研究所入所。東東京支所、東京事業部、本社事業部で国内の不動産に係る業務を担当後、資産ソリューション部企業資産評価室にて国内外の企業評価、動産評価、インフラ事業に係る各種業務を経て、現職。不動産鑑定士、不動産証券化協会認定マスター、米国鑑定士協会Senior Member。