貸主と借主、双方の不安解消へ!
「改正住宅セーフティネット法」3つの柱


賃貸住宅への入居を断られる高齢者や障害者などを支援する住宅セーフティネット法等が、本年5月に改正されました。宅建業者として、これから深くかかわっていくこの法について、その背景や概要を専門家が解説します。

はじめに

健康で文化的な生活を営むことは、すべての人がもつ権利ですが、それには、安全で快適な住まいが欠かせません。しかし、高齢者や障害者など社会的に弱い立場の人々は、住宅の賃借を拒まれることが多く、住まいの確保が容易ではないという現実があります。

そこで、社会的に弱い立場の人々の安全で快適な住まいを確保するために制定されているのが、住宅セーフティネット法(正式名称「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」)です。

住宅セーフティネット法は2024(令和6)年5月に改正されました(以下「令和6年改正」という)。その施行日は1年6カ月後などですが、施行前に経過措置として、その内容は実施されていきますので、本稿では、改正住宅セーフティネット法(以下「改正法」という)の概要を確かめたうえで、改正内容を解説し、宅建業者として新たな制度にどのように取り組んでいくべきかを考えます。

住宅セーフティネット法の概要

住宅セーフティネットとは、社会的に弱い立場にある人々が安心して暮らせる住宅を確保するための仕組みを指す言葉です。住宅セーフティネット法では、高齢者、子育て世帯、低額所得者、障害者、被災者などが、住宅確保要配慮者とされ(同法2条1項。以下、住宅確保要配慮者を「要配慮者」という)、これまでも、要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度、登録住宅の改修や入居者の経済的な負担軽減への協力、居住支援協議会や居住支援法人等の事業に対する支援などの施策が講じられてきました。

令和6年改正の3つの柱

加えて令和6年改正では、住宅セーフティネットをより充実させるために、さらに新たな制度が設けられました。改正法は、下記および図表のA~Cの3つが柱となっています。

図表:住宅セーフティネット法の令和6年改正の全体像

住宅セーフティネット法の令和6年改正の全体像

A. 大家が賃貸住宅を提供しやすく、要配慮者が円滑に入居できる市場環境の整備

賃貸住宅の所有者は、居室内での死亡事故等への不安から、高齢者との賃貸借契約をためらう傾向があります。令和6年改正では、賃貸住宅の所有者の不安を払拭するために、①終身建物賃貸借(賃借人の死亡時まで更新がなく、死亡時に終了して相続人に相続されない賃貸借。高齢者の居住の安定確保に関する法律52条)の利用を促進し、②居住支援法人による残置物処理を推し進め(改正法62条5号)、③家賃債務保証業者の認定制度が設けられました(改正法72条)。

B. 居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅の供給促進

さらに令和6年改正では、居住サポート住宅(正式名称は「居住安定援助賃貸住宅」。改正法40条2号)の制度が創設されました。居住サポート住宅は、居住支援法人等が、要配慮者のニーズに応じて、安否確認、見守り、適切な福祉サービスへのつなぎを行う住宅です。福祉事務所を設置する自治体によって認定がなされます。

居住サポート住宅に生活保護受給者が入居する場合には、住宅扶助費(家賃)を、保護の実施機関が賃貸住宅の賃貸人に直接支払うことも、特例として認められます(改正法53条)。認定家賃債務保証業者が入居する要配慮者については、家賃債務保証を原則として引き受けることとなります(改正法72条)。

見守りイラスト

C. 住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化

新たな住宅セーフティネットの制度を構築し、これを運用していくには、地域社会の支援体制の強化が必要です。令和6年改正のもとでは、国土交通大臣および新たに厚生労働大臣が加わって共同で基本方針を策定し(改正法1条、4条)、市区町村による居住支援協議会(地方公共団体の住宅部局・福祉部局、居住支援法人、不動産関係団体、福祉関係団体等を構成員とした会議体)設置の促進が、努力義務として図られることになっています(改正法81条)。

居住サポート住宅に対する取組み

居住サポート住宅では、賃貸住宅に安否確認、見守り機能が付加されるので、居住者が安心して穏やかな生活を送ることができます。賃貸住宅の所有者にとっても、孤独死の発生を防止できるというメリットが期待できます。居住サポート住宅は、これからの高齢化社会において、広く活用されるべき制度です。

もっとも、居住サポート住宅の普及には、官民の協力が必要です。民間において住宅を供給する役割を担うのは宅建業者ですから、宅建業者は、居住サポート住宅を普及させるために尽力しなければなりません。

これから不動産業界団体や地域社会において、居住サポート住宅普及のためのさまざまな取組みが実施されることになりますが、まずは居住サポート住宅の社会的な意義を十分にご理解いただきたいと考え、本稿において、令和6年改正および居住サポート住宅を紹介した次第です。


執筆

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所
弁護士

渡辺 晋