宅建士講座
2024.11.14
宅建士試験合格のコツ

Vol.68 宅建業法自ら売主制限


本試験において、自ら売主制限からは例年2~3問出題されます。今回は、①自ら売主制限のうち、②自己の所有に属しない物件の契約制限、③割賦販売契約の解除等の制限、④所有権留保等の禁止の3つを学びます。③と④は、出題頻度が低い(10年に1~2度)ですが、出題されてあわてないよう、一度はしっかり押さえておくべきです。

❶自ら売主制限の種類

自ら売主制限に共通することとして、まず押さえておくべきことがあります。それは、自ら売主制限は、取引の相手方である買主が業者の場合(業者間取引)には適用がないということです。ただし、自ら売主の規制は、売主である宅建業者が、宅地建物の売却の代理・媒介を他の宅建業者に依頼したケースにも適用されることに注意してください。他の宅建業者に代理・媒介を依頼していても、宅建業者が自ら売主という立場で取引していることには変わりがないからです。

❷自己の所有に属しない物件の契約制限

自己の所有に属しない物件とは、売主以外の者の所有に属する物件(他人物)と、未完成の物件をいいます。他人物や未完成物件を取引した場合、買主が目的物を取得できないリスクがあるので、原則として売買契約を締結することができないとされています。しかし、これには例外があります。受験対策としては例外の内容を押さえることが重要です。

図 自己の所有に属しない物件の契約制限

まず、他人物の場合、売主である宅建業者が物件の所有者との間で、その物件を取得する契約(予約を含む)を締結していれば、ほぼ確実に所有権が移転すると思われるので、契約が許されます。ただし、所有者と売主との間の契約が停止条件付きである場合は、他人物売買はできません。停止条件付きの場合、条件が成就するまでは契約の効力が生じていません。しかも、条件とは、そもそも成就することが不確かなものをいいます。これでは、ほぼ確実に物件を取得できるとはいえないからです。 

もう1つの例外である「当該物件を取得できることが明らかなとき」とは、たとえば、売買の対象の宅地が、土地区画整理事業の保留地予定地である場合で、売主である業者が、換地処分の公告の日の翌日に、その施行者が取得する保留地予定地である宅地を、その施行者から取得する契約を締結しているときなどです。

次に、未完成物件の場合、売主である宅建業者が買主から受け取った手付金等について、保全措置をとっていれば、例外的に契約が許されます。未完成物件が完成せず、買主が取得できなかったとしても、買主が支払った手付金等は確実に返してもらえるので、買主のリスクは小さいと考えたのです。

❸割賦販売契約の解除等の制限

割賦販売契約の解除等の制限

契約を解除する場合、民法上は「相当期間」を定めて催告するとされているのを、具体的に「30日以上」という長期の期間を要求し、また、民法上は口頭の催告でもよいものを、必ず「書面」によることとして、条件を厳しくし買主の保護を図ったのです。なお、「書面」による必要があるのは「催告」であり、催告後に行われる「解除」は口頭でもかまいません。

❹所有権留保等の禁止(割賦販売契約の場合の規制)

所有権留保等の禁止(割賦販売契約の場合の規制)

割賦販売の場合、長期間にわたって代金が支払われていくので、途中で買主の経済状態が悪化して、支払いがストップする危険があります。そこで、売主は、その支払代金を担保するために、所有権留保(代金が完済されるまで、所有権登記名義を売主に留保して、代金の支払いを担保する方法)や譲渡担保(いったん買主に所有権移転登記をしたうえで、もう一度売主に所有権を譲渡した登記をして、代金の支払いを担保する方法)を設定しようとします。 

しかし、所有権留保や譲渡担保が行われると、登記名義が売主になっているため、売主が二重譲渡をしたり、倒産して債権者からその物件を差し押さえられたりして、買主が権利を取得できなくなる危険があります。そこで、原則として、業者が自ら売主となる割賦販売契約において、所有権留保または譲渡担保を設定することを禁止しました。

とはいえ、所有権留保や譲渡担保が禁止されると、売主である業者にもリスクがあります。たとえば、買主が賦払金を完済していない段階で、目的物を第三者に転売して金銭を得たうえで、姿をくらましたりすると、売主は大きな損失を受けます。

そこで、所有権留保・譲渡担保禁止の例外として、①受領合計額が代金の10分の3以下であるとき、または、②受領額が代金の10分の3を超えていても、残金について抵当権、先取特権、保証人等の担保措置がまったくないときは、所有権留保・譲渡担保が許されます。

問題を解いてみよう!

  • 【Q1】 宅地建物取引業者Aは、宅地建物取引業者ではないBが所有する宅地について、Bとの間で確定測量図の交付を停止条件とする売買契約を締結した。その後、停止条件が成就する前に、Aが自ら売主として、宅地建物取引業者ではないCとの間で当該宅地の売買契約を締結した場合、宅地建物取引業法の規定に違反する。(R1・問35)
  • 【Q2】 宅地建物取引業者Aが、自ら売主として宅地建物取引業者ではないBを買主とする土地付建物の売買契約(代金3,200万円)を締結した。割賦販売の契約を締結し、当該土地付建物を引き渡した場合、Aは、Bから800万円の賦払金の支払いを受けるまでに、当該土地付建物に係る所有権の移転登記をしなければならない。(R3・問42)

ic_kaisetsuこう考えよう!<解答と解説>

Answer1

【解説】自ら売主業者Aは、物件を取得する契約を締結していますが、停止条件付き契約なので、他人物売買禁止の例外には該当しません。

Answer2
×

【解説】所有権移転登記をしなければならないのは、800万円の支払いを受けるまでにではなく、代金の10分の3である960万円を超える支払いを受けるまでにです。


植杉 伸介

植杉 伸介

宅建士・行政書士・マンション管理士、管理業務主任者試験などの講師を35年以上務める。著書に『マンガはじめてマンション管理士・管理業務主任者』(住宅新報出版)、『ケータイ宅建士 2024』(三省堂)などがあるほか、多くの問題集の作成に携わり、受験勉強のノウハウを提供している。