私傷病休職制度を設けていますが、現在は試用期間中の者なども利用できてしまうことから、入社1年未満の者を適用除外とする内容に変更しようと考えています。あわせて、3年以上の勤務者に対する休職期間を、最長1年6カ月から最長1年に短縮しようと考えていますが、変更する際にどのような点に留意すべきでしょうか。
Answer
当該変更は労働条件の不利益変更に該当することから、原則として労働者の個別同意を得る必要があります。個別同意を得ずに就業規則の改定により変更する場合には、変更の合理性を考慮し、経過措置を設けることが有効と考えられます。
はじめに
労働条件の不利益変更には、①労働者の個別同意を得ての変更、②就業規則の改定による変更、③労働協約の締結・改定による変更の3つの方法がありますが、今回は①および②について解説します。
労働条件の不利益変更の方法
労働条件の変更については、労働契約法(以下、労契法)で規定しており、そこでは「労働条件の変更は、労使の個別同意により変更することが できる」としています(労契法第8条)。
また、就業規則による不利益変更も認めており、「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」としています(労契法第9、10条)。
このように労契法では、不利益変更は労働者の同意を得ること(同意のない労働条件の変更は認めないこと)を基本としつつ、就業規則の変更に合理性が認められる場合には、例外的に個別同意を不要としています。
就業規則の「変更の合理性」
不利益変更に際し、労働者の個別同意が得られればよいのですが、全員から同意を得ることは容易ではなく、現実的ではありません。従来から、就業規則によって労働条件を統一的に設定していることもあって、実務上は就業規則による変更が多く用いられていますが、そこで問題になるのが「変更の合理性」であり、図表で示した要素を総合考慮のうえ、有効性が判断されます(図表参照)。
就業規則の変更による労働条件変更に関する裁判は複数行われており、定年制の新設・変更、休暇日数の削減、退職金制度の変更、賃金・人事制度の変更、成果主義の導入などさまざまです。特に賃金・賞与・退職金といった、労働者にとって重要な労働条件・権利の変更については、高度の必要性が求められます。
長期雇用・終身雇用を前提とした休職制度の場合、無給休職に入るまでの数カ月間を有給扱いとしていたり、休職期間が3年など、長期に設定されていたりすることが珍しくありません。このように手厚い制度は、がん患者など一部の労働者にとってはありがたいものですが、傷病の性質を問わず休職制度が利用できてしまうことから、他の労働者や現場への影響が大きいものとなります。
近年は精神疾患を理由に欠勤する者が増え、休職制度の重要性が増しているといえますが、欠勤を断続的に繰り返す者、休職・復職を繰り返す者、業務遂行が不完全であるにもかかわらず復職する者など、企業を悩ませる事案が多数発生している状況です。
このように休職制度利用者が急増しているなかでは、現代にマッチした制度に見直す必要性があるものと考えますが、復職要件を厳格化した裁判例(アメリカン・エクスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件)では、休職中の社員に対し、「従来の業務を健康時と同様に通常どおり遂行できる状態の勤務を行うこと」という要件を追加したことについて、「復職を著しく困難にするものであって、その不利益の程度は大きい」と判断して当該変更を無効としています。したがって、変更の必要性を掲げつつ、労働者が被る不利益の程度を勘案した対策を講じるなど、変更の合理性について十分に検討のうえ取り組む必要があります。
本問への回答
休職制度の適用対象者の変更について、すでに入社している1年未満の社員や採用内定者に関しては、現状どおり休職制度の適用を認める。また、休職期間の短縮について、既存社員に関しては、一定期間経過後(たとえば1年後)の制度利用者から短縮した期間を適用するなどの経過措置を設けることが、変更の合理性を判断するうえで有効と考えられます。
配偶者手当の見直し
最後に、内容は異なりますが、労働力不足の解消と財政改善を理由に、国が配偶者・扶養手当等の見直しを推奨しています。これを受け、配偶者・扶養手当等を廃止または減額する企業が増えていますが、これも不利益変更に該当することから、法的には容易ではありません。
職務能力や業績・貢献度等にかかわらず、家族・扶養状況により支給される手当は、同一労働同一賃金の観点からすると不公平なものであり、変更の必要性を感じるところではあります。とはいえ、手当を受けている労働者にとっては月数千円から数万円の給与減額になるため、見直しをする際は不利益の程度を勘案し、複数年かけて徐々に減額するような経過措置を設けたり、削減する財源を子ども手当に振り替えるといった代替措置を設けたりすることが、当該変更を有効にするうえでのポイントと考えます。
社会保険労務士法人
大野事務所代表社員
野田 好伸
(特定社会保険労務士)
大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在は代表社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。