Vol.72
従業員が知りたい不動産調査基礎編 ⑨
敷地現況寸法図の作成のしかたについて!


2024年3月末現在で、昭和26年6月1日から始まった国土調査法に基づく全国の地籍調査実施の進捗状況は、70年を経過しても人口集中地区における宅地では27%にとどまり、公図と現況のずれは修正されていません。このため、敷地現況寸法図の作成交付をしなかった状態での不動産売買には、不動産トラブルに巻き込まれる可能性が存在しています。本編では、敷地現況寸法図の作成のしかたについて述べます。

敷地の簡易計測の方法について

宅建業者が行う簡易計測には、さまざまな方法があります。①歩測による簡易計測。この方法は、たとえば10m程度の位置にラインを引き、その間を自分の歩幅で歩くことによって「自分の1歩の歩幅は約80cm」などと記憶し、この歩幅寸法と歩数を掛け合わせることで、概略寸法を算出するという方法。誤差が大きいです。②巻き尺による簡易計測。この方法を一人で行う場合は、巻き尺の先端を鉄棒のようなものを杭にして固定させ、ゼロ位置を境界点に合わせてから、巻き尺を伸ばして、その反対側の境界点までを簡易計測するという方法です。③レーザー計測。この方法は、室外用のレーザー距離計を使用し、反対側の境界点の上に置いたレーザー反射板までの距離を簡易計測するもので、比較的、精度は高いです。

敷地現況寸法図の図柄の作成のしかた

敷地現況寸法図を作成するには、公図や地積測量図をスキャンして「jpg画像」に「保存」し、「編集」で敷地部分を「トリミング」し、白紙の「Excelファイル」を開き、「画像」の「挿入」で、トリミングをした「画像」を「選択」します。次に、「挿入」―「図形」から「フリーフォーム」を選択し、画像の敷地形状の線をなぞるように描画をします。図形を描き終えたら、トリミング画像を削除し、あとは、「図形」から「直線」を選択し、2本線の道路を図形に合わせて記入します。そして、描画した道路部分と敷地部分を「Shiftキー」を押しながら続けてクリックし「選択」をした状態で右クリックで「グループ化」を選択して1つの画像にします。本ページの中で、ちょうどいい大きさになるように「拡大・縮小」をして、敷地現況寸法図を完成させます。

敷地寸法図の数値の記載のしかた

敷地現況寸法図の図柄ができたら、そこに地積測量図に記載の数値を、「挿入」―「テキストボックス」―「横書きテキストボックスの描画」を選択して、数値をボックス内に記入します。この作業によって、現地で計測した現況寸法と地積測量図に記載の寸法とを照合しやすくなります。この作業を「現地照合確認調査」とも言います。

“計測の誤差”とは?

現地照合では、「照合一致の有無」が大切なポイントです。専門の測量士の場合でも、測量誤差は必ずあります。そこで、国土調査法施行令第15条の「誤差の限度」の定めでは、甲一は大規模な市街地、甲二は中規模な市街地、甲三はその他の市街地に分類され、乙一、乙二、乙三などは農家地域、山林、原野などに分類されます。法令に定める別表第四の「誤差の限度」は、「甲一は2cm」、「甲二は7cm」、「甲三は15cm」と定めています。

宅建業者による簡易計測の誤差の範囲について

宅建業者の現況調査での「誤差の限度」は、法定の「誤差の限度」以上となりますが、市街地では、少なくとも、10cmから15cmが、誤差の許容範囲と思われます。敷地現況寸法図には、「数値はすべて概算。計測道具は、スチールメジャー。作成年月日」などを記載しておくことが大切です。計測道具を表示することで、万一、係争になった場合に、裁判官に誤差の限度の推定をしてもらうときに役立ちます。

敷地現況寸法図と地積測量図との照合のしかた

完成後の敷地現況寸法図を、地積測量図と照合した結果、市街地の場合で、約10cm未満であれば、「照合一致」とし、大きな相違がある場合は、「相違の状況」を地積測量図に記載し、記載済みの地積測量図を交付するという方法もあります。一方、「照合一致」の場合、地積測量図が「確定測量図」のときや道路境界確定図面がある場合は、確定寸法を記載する方が、消費者にはわかりやすいでしょう。

座標値から2点間距離を算出する方法とは?

座標値が記載されている地積測量図なのに、道路幅員が記載されていない図面の場合があります。座標値とは、境界点をX座標、Y座標で記されており、座標値の間の2点間の距離は、計算をして算出することができます。たとえば、「Keisan CASIO」というWebアプリケーションを利用します(ポイント参照)。

アプリを開き、2点のX座標、Y座標を記入して、計算ボタンを押すと、瞬時に、距離計算した数値結果が表示されます。この数値を利用して、道路幅員を記載する際は「下4桁以下」を切り捨てにして、「下3桁まで」の数値を、敷地現況寸法図に記載します。このようなアプリはほかにも数多くありますが、下4桁で四捨五入するものもあるので、アプリの選択には注意してください。慣れれば便利なアプリケーションです。

不動産の現況有姿売買における「敷地現況寸法図」の作成交付は、不動産トラブル解消のために、必須の業務といえるかもしれません。

ポイント

座標値の記載はあるが、道路幅員の記載がない地積測量図では、困ります。Webの公開アプリには、たとえば、「Keisan CASIO」があります。下記の「2点間の距離」で、X座標1,Y座標1に座標値を記入、X座標2,Y座標2に座標値を記入し、「計算」ボタンをクリックすると、2点間の距離の計算結果が表示されます。数値結果は、下4桁を切り捨てた数値を使用します。

生活や実務に役立つ計算サイト

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。