マンションの敷地の登記簿を見ていると、敷地権という言葉が出てきます。敷地権とはどういう意味なのでしょうか。
Answer
敷地権は、マンションの敷地利用権のうち、(1)登記がなされ、(2)専有部分と一体化された権利です。マンションの敷地利用権であっても、登記されていないもの、または専有部分と一体化されていないものは、敷地権ではありません。
敷地利用権
マンションが存立するには、敷地を利用する権利(敷地利用権)が必要です。敷地利用権は、マンションの所有者(区分所有者)が、専有部分を所有するための敷地に対する権利です(区分所有法2条6項)。
敷地利用権は所有権に限られません。地上権、賃借権、使用借権の場合もあります。区分所有者は通常複数ですので、敷地に対する権利が所有権であれば、区分所有者の共有持分が敷地利用権となり、敷地に対する権利が地上権、賃借権、使用借権であれば、区分所有者の準共有持分(所有権以外の権利を複数が共同で持つ場合の割合的な権利)が敷地利用権となります。
敷地権
敷地権は、敷地利用権のうち、(1)登記された権利であって、(2)専有部分と一体化された権利です。
(1)登記された権利であること
所有権、地上権、賃借権は登記をすることができます(不動産登記法3条1号・2号・8号)。したがって、敷地利用権には、所有権、地上権、賃借権の3つがあります。使用借権は登記をすることができませんから、敷地利用権が使用借権の場合には、敷地権にはなりません。
(2)専有部分と一体化された権利であること
敷地利用権は、区分所有者が1人か複数か、敷地利用権が共有か単独所有かという観点から、A、B、Cの3つのパターンに分類できます(図表1、2のとおり)。
図表1 専有部分と敷地利用権の一体化

図表2 敷地利用権と敷地権の関係

A:区分所有者が複数で、複数の区分所有者が敷地の所有権を共有し、あるいは、地上権・賃借権を準共有する場合。区分所有建物における最も一般的なケースです。
区分所有法には、敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができないと定められています(分離処分の禁止。区分所有法22条1項本文)。Aの場合には、専有部分と敷地利用権を分離して処分することが禁じられ、専有部分と敷地利用権が一体化します。ただし、専有部分と敷地利用権の分離処分を認める規約の定めがあれば、分離処分は禁じられず、敷地利用権は専有部分と一体化しません(同法22条1項ただし書き)。
B:区分所有者が1人で、その区分所有者だけが敷地の権利を持つ場合。分譲業者が、分譲マンションを建築したが、まだ1住戸も分譲していない未分譲の段階です。
区分所有法には、建物の専有部分の全部を所有する者の敷地利用権が単独で有する所有権その他の権利である場合には、Aの定めを準用するものとされています(同法22条3項)。Bの場合も、専有部分と敷地利用権が一体化します。
C:区分所有者が複数で、敷地については複数の筆に分かれており、区分所有者それぞれが、自分の専有部分の底地の筆について、単独で所有権・地上権・賃借権を持っている場合。このような形式は、分有といわれます。タウンハウス、棟割長屋などといわれる区分所有建物の場合は、多くの場合、分有の形式が採られています。Cの場合には、敷地利用権と専有部分は一体化しません。敷地利用権と専有部分を分離して処分することができます。
以上から、Aの場合とBの場合には、敷地利用権が専有部分と一体化して敷地権となり、分離処分は不可、Cの場合には敷地利用権が専有部分と一体化せず、敷地権にはならないから分離処分可、ということになります。
まとめ
宅建業者が重要事項として、建物が区分所有権の目的であるときは、「建物を所有するための一棟の建物の敷地に関する権利の種類および内容」を説明しなければなりません(宅建業法35条1項6号)。敷地権というのは簡単に理解できる概念ではありませんが、宅建業者のみなさま自らが十分に理解し、お客様にマンションの権利の内容を正しく伝えることは、宅建業者の重要な職責です。
今回のポイント
- 区分所有者が敷地を利用する権利がマンションの敷地利用権である。
- 区分所有者が複数、かつ複数の区分所有者が敷地を共有(または準共有)する場合には、敷地利用権は専有部分と一体化する(敷地利用権を専有部分と分離して処分することは原則不可)。
- 区分所有者が1人で、その区分所有者だけが敷地の権利を持つ場合も、敷地利用権は専有部分と一体化する(同じく、分離処分は原則不可)。
- 区分所有者が複数で、敷地については複数の筆に分かれており、区分所有者それぞれが、単独で所有権・地上権・賃借権を持つ場合(分有の場合)、敷地利用権は専有部分と一体化しない(敷地利用権を専有部分と分離して処分することが可能)。
- マンションの敷地利用権のうち、専有部分と一体化し、かつ登記された権利が、敷地権である。

山下・渡辺法律事務所
弁護士
渡辺 晋
第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。