Vol.17 海外の市況と賃貸・売買・投資状況 シンガポール編②
シンガポールのコンドミニアムの市場と日系企業の動向


前号で述べたとおり、シンガポールは小さい国土ながらも、東南アジア諸国において随一の安定した社会経済基盤を有しており、個人投資家の方々が海外での不動産投資の候補先にするとともに、多くの多国籍企業がアジアの拠点を同国に置くなど、ビジネスのハブとしても成長を続けています。今回は、シンガポールのコンドミニアム市場および日系企業の動向について紹介します。

1.シンガポールの主な住宅エリア

はじめに、シンガポールにおける代表的な住宅エリアについて図表1とともに紹介します。①のCBD(Central Business District:経済の中心地)エリアは、東南アジアの経済のハブであり、また寺院や国立博物館が多く集積する文化的中心地でもあります。②のオーチャード・リバーバレーエリアのうち、オーチャードエリアは国内随一のショッピング街であり、高級住宅が立ち並んでいます。リバーバレーエリアはCBDに近接する準高級住宅街として知られています。③のイーストコーストエリアは、CBDとチャンギ国際空港の間に位置し、利便性が高く、近年はコンドミニアムおよびオフィス開発が盛んに進んでいます。CBDでのオフィス賃料と比べて相対的に割安なので、オフィス移転する企業も近年増加しています。④のチャンギエリアは、東南アジアの玄関と名高いチャンギ国際空港に隣接しており、交通利便性が高く、また日本人学校があることから日本人も比較的多く住んでいます。⑤のウェストコーストエリアは、日本人学校やインターナショナルスクールなど、外国人向けの学校が多く集積しており、従来から発展してきたことから古いビルも多く、再開発が進んでいます。⑥のジュロンイーストエリアは、シンガポールとマレーシアとを結ぶ高速鉄道網構想のシンガポール側ターミナルになると想定されており、西部の交通ハブとして都市機能の集積が進んでいます。⑦のウッドランズエリアは、シンガポール北部における経済のハブとして政策的に開発が進められていて、複合施設の開発も盛んになっています。

同国における近年の都市開発に係る特徴として、開発用地が多い西部や東部においてインフラ整備やコンドミニアム開発が積極的に進められていることが挙げられます。また市場参加者の傾向として物件選別への慎重な姿勢が認められ、今後は都心部のみならず、価格が割安かつ質の良い周辺部のコンドミニアムへの需要が増加していくことが予想されます。

図表1 主な住宅エリア

地図データ©︎2020 Google,Urban Redevelopment Authority

2.コンドミニアムマーケット状況

次に、日本不動産研究所の国際不動産価格賃料指数(図表2)とともに、コンドミニアム市場の市況について追っていきます。シンガポールの賃料指数の推移をみると、2013年以降は外国人雇用政策の転換に伴う就労ビザの規制強化等の影響により長らく下落基調にありました。2018年頃からは需給バランスの改善により賃料が上昇に転じる動きがみられますが、これまでに外国人雇用規制の緩和は行われておらず、賃貸市場における外国人を中心とした基礎的需要は依然として厳しい状況にあります。

シンガポールの価格指数については、2017年頃から上昇基調に転じつつあったものの、2018年7月に追加印紙税率の引上げおよび住宅ローン融資比率の規制強化が施行されたことから、価格の上昇ペースは緩やかなものに抑えられています。また実需層による物件選別の意識も成熟してきており、その後も価格上昇ペースの顕著な加速は見られません。足下では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響も顕在化しつつあり、短期的に価格および賃料は再び弱含みに転じると予測されます。しかし中長期的には、COVID-19が終息すれば投資家の関心が戻ってくるとするポジティブな意見もあります。2019年5月頃から始まった香港の民主化運動に伴う政治的混乱の影響から、シンガポールの住宅市場に対する投資家の関心が一段と高まるとの期待も聞かれ、今後の市場動向に注視が必要です。

図表2 シンガポールにおけるコンドミニアムの価格賃料指数の推移

出典:日本不動産研究所「国際不動産価格賃料指数」

3.日系企業の動向

最後に、ビジネス環境が良好な同国における日本企業の不動産関連事業の動向について紹介します。主要な事例としては三井不動産、積水ハウス、三菱地所、東京建物などが挙げられます。これらの企業による不動産開発の共通点は、現地の有力不動産開発業者と共同していることです。

三井不動産は、1972年からシンガポールでホンレオン・グループとの合弁会社(TID社)を通じて住宅分譲事業等を行っています。昨年もTID社がシンガポール中央部で住宅用地を落札し話題となりました。

また、積水ハウスは、現地デベロッパーのフレイザーズ社やファーイースト社等との合弁による住宅開発事業の実績があります。同社が参画する最新のプロジェクトとしては、複合開発案件の「One Holland Village」が挙げられます。

2008年に同国に進出した三菱地所アジア社はアジア有数の不動産リーディングカンパニーであるキャピタランド・グループ等との共同事業でコンドミニアム開発事業のほか、オフィス開発事業に参画しています。既に竣工・稼働中の「CapitaGreen」のほか、現在開発中のオフィスビルである「CapitaSpring」は2021年の竣工を予定しています。

オフィスビル開発では、東京建物が現地アセンダスシンブリッジ社、三井物産との共同事業でオフィスビル再開発事業に参画するなど、日系企業の存在感も高まってきています。

次回は、シンガポールにおける投資物件の留意点などについて説明します。

ショッピングセンターが建ち並ぶオーチャード通り
ショッピングセンターが建ち並ぶオーチャード通り

鈴木 祥華

鈴木 祥華

一般財団法人日本不動産研究所国際部兼業務部。2018年サセックス大学大学院国際学修士課程環境開発公共政策専攻修了。国内および海外の不動産調査・評価・分析業務を担当。