労務相談
2025.09.12
不動産お役立ちQ&A

Vol.43 外国人技能実習生を受け入れる際の社会保険加入について


Question

弊社では近いうちに外国人技能実習生を受け入れる予定があります。実習生は3年後には帰国する予定ですが、それでも社会保険に加入しなければならないのでしょうか。加入が必要な場合、将来の厚生年金給付はどうなるのでしょうか。

Answer

外国人が日本で働く場合、日本の社会保険制度に加入する必要がありますが、社会保障協定締結国から5年以内の見込みで派遣される外国人については、加入が免除されることがあります。なお、日本の年金制度に10年以上加入した場合には老齢年金を受給できますが、受給要件を満たさない外国人が日本を出国した場合、脱退一時金を請求できます。

社会保険の加入要件

外国人が社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用事業所で働く場合、日本人と同じように社会保険に加入する必要があります。正社員、契約社員、パート・アルバイト等の雇用形態にかかわらず、社会保険の加入要件に該当する者(1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の者など)は被保険者となります。

二重加入と年金受給資格

原則として、外国人労働者は、母国と日本の社会保障制度に加入しなくてはならず、二重に社会保険料を負担しなくてはなりません。また、短期間の就労で、その期間だけ日本の社会保障制度に加入しても10年に満たない場合、老齢年金の受給資格を得られないという問題があります。このような二重加入・年金受給資格の問題を解決するため、日本との間で社会保障協定を締結している国々(中国・フィリピン・インド他20カ国)があります(図表1)。

図表1 :社会保障協定の仕組み

図表1 :社会保障協定の仕組み

社会保障協定

社会保障協定とは、日本での就労期間が5年を超えない見込みの場合、当該期間中は日本の社会保障制度加入を免除し、母国の社会保障制度のみを適用することで、両国の年金制度への二重加入(保険料の二重負担)を防止することを目的としたものです。なお、当初5年を超えない見込みだったものの、業務都合等により5年を超えた場合でも延長申請が認められれば、日本の年金制度に加入する必要はありません(図表2)。

図表2 :加入する社会保障制度のまとめ

図表2 :加入する社会保障制度のまとめ
社会保障協定により日本の社会保障への加入を免除されるのは、基本的には年金制度が対象です。協定相手国によって健康保険も対象になるなど、その内容が異なりますので、詳細については「日本年金機構HP(社会保障協定)」をご覧ください。

厚生年金の脱退一時金

厚生年金保険は、主に老齢厚生年金の受給を目的にしていると考えられますが、滞在期間が短く、保険料納付が老齢給付に結びつきにくいという外国人特有の事情を踏まえ「脱退一時金制度」が用意されています。これは老齢厚生年金の受給資格期間(保険料納付・免除期間10年以上)を満たさずに日本を離れる場合に請求することができるものですが、脱退一時金の支給要件は以下のとおりです。

【脱退一時金支給要件】

✔︎日本国籍を有していないこと

✔︎公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でないこと

✔︎厚生年金保険(共済組合等を含む)の加入期間の合計が6月以上あること

✔︎老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていないこと

✔︎障害厚生年金(障害手当金を含む)などの年金を受ける権利を有したことがないこと

✔︎日本国内に住所を有していないこと

✔︎最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していないこと)

厚生年金保険の脱退一時金の支給額は、被保険者であった期間に応じ、図表3の計算式のとおりとなります。また、計算例もご確認ください。

図表3 :脱退一時金の支給額

脱退一時金支給額=平均標準報酬額×支給率

※この支給上限に関しましては、法改正により8年(96月)になることが決まっています。(開始時期未定)

脱退一時金計算例

厚生年金保険料納付済期間
2019年1月~2021年12月(36月)

平均標準報酬額(円)
300,000 支給率:3.3

脱退一時金 300,000×3.3=990,000円

参考
報酬月額30万円だった場合の3年間の厚生年金保険料負担額(月額保険料を会社・本人がそれぞれ半分ずつ負担)

本人負担額 27,450×36=988,200円

外国人労働者への説明

これまで説明してきたとおり、日本の社会保険制度は、企業や従業員の希望により加入するものではありません。社会保障協定の締結も現時点では23カ国となっていますが、全ての外国人労働者・技能実習生に適用できるものではありません。また、脱退一時金といった外国人労働者のための救済措置が設けられていますが、外国人労働者が日本の社会保障制度になじみがないことは事実です。給与額から保険料を控除されることに不満を持つこともあるようですので、社会保険加入について外国人労働者に説明する際のポイントを列挙します。

◯社会保険料(健康保険・厚生年金保険料)の半分を会社が負担すること

◯病院・歯科医院で治療を受けたときの窓口負担が原則医療費の3割と低額になること

◯健康保険で認定された扶養家族の医療費が保険料の追加負担なくカバーされること

◯就労ビザ変更の条件に社会保険の加入が含まれること

◯厚生年金保険には、保険料の掛け捨てを防止するため脱退一時金制度があること


木村 彩

社会保険労務士法人
大野事務所

木村 彩
(特定社会保険労務士)

前職ではアウトソーシング会社に所属し、工場や店舗に直接出向いて労務管理の効率化を検討していた。その際、労働法や社会保険制度への理解の必要性を感じ、大野事務所に入所。時代にあった『働きやすい職場づくり』を目指して考える毎日である。