ここ最近、「空き家(戸建て)の管理をお願いできませんか?」という依頼が増えてきました。当社ではこれまで賃貸管理は行ってきましたが、空き家管理は未経験です。手間がかかりそうですし、本当に取り組むべきかどうか悩んでいます。アドバイスをいただけますか。
Answer
たしかに空き家管理は通常の賃貸管理とは異なり、入居者対応がない代わりに「巡回・点検・報告」といった手間が発生します。ただし、ここで一歩踏み出すことには大きな意味があります。空き家管理は、将来的に「売却」や「賃貸運用」「建て替え」などに発展する可能性が低くなく、所有者と早い段階で接点を持つことができるのです。つまり、単なる管理業務にとどまらず、将来の仲介や管理受託の入口として大きなチャンスになります。
空き家の現状
近年、全国で空き家の増加が大きな社会問題となっています。令和5年発表の住宅・土地統計調査によれば、国内の空き家数はすでに900万戸を突破しています。しかも問題なのは、単なる売却用や賃貸用の住宅ではなく、かつて実際に人が住んでいた「実需の住宅」の空き家が増えていることです。いわゆる「実家」や相続で受け継いだ住宅が、利用されないまま放置されるケースが増加しており、直近5年で349万戸から385万戸へと36万戸も増えています。
こうした状況を受け、空き家対策特別措置法も改正されました。従来は「特定空き家」、すなわち倒壊の危険があるなど、著しく管理不十分な物件だけが自治体の「指導・勧告」の対象となり、固定資産税の軽減措置から除外されてきました。ところが令和5年の改正で、その対象が拡大し、壁や窓の破損、庭木の繁茂など生活環境に悪影響を及ぼす「管理不全空き家」も指導・勧告の対象となったのです。つまり、これまで以上に空き家の放置が許されない時代になってきたといえるでしょう。
空き家の5つの方向性
空き家の扱い方には、大きく分けて5つの方向性があるのではないでしょうか。
① 売却してすっきり
もっともシンプルなのが売却です。維持管理の手間や費用をゼロにできます。ただ、先祖代々受け継いできた不動産を売ることに抵抗があることも少なくありません。
② 貸家として運用する
リフォームや修繕によって貸家として再生できれば、安定収入を生む資産に変わります。築年数や立地条件によっては、最小限の手直しで、そのまま賃貸に出せるケースもあります。
③ 建て替える
立地によっては、アパートや賃貸住宅に建て替える選択肢も考えられます。ただし、相続で空き家を受け取った人の多くはすでに持ち家があるため、自宅用としての需要は乏しいのが現実です。
④ 現状維持で何もしない
「とりあえず放置する」というケースも少なくありません。しかし、これは問題の先送りにすぎず、建物の劣化や近隣トラブルのリスクを高めます。
⑤ 空き家のまま管理を依頼する
現状維持と似ていますが、専門業者に管理を委託することで、雑草や破損などの問題を防ぐことができます。根本解決ではないものの、将来の選択肢を残しつつリスクを抑える手段といえます。
図表 空き家戦略の5類型と比較

思い出との葛藤が足かせに
しかし実際には、多くの所有者がすぐには売却や活用に踏み切れません。その背景には「思い出との葛藤」があります。生まれ育った家や家族との記憶が詰まった住まいを手放すことに、良心の呵責を覚える人は少なくありません。また、相続人が複数いる場合には意見が割れ、結論を出せずに時間だけが過ぎてしまうこともあります。
こうした感情面のハードルがあるからこそ、「とりあえず管理をする」という選択肢が重要になってきます。草木を整え、建物を定期的に見守るだけでも、近隣への迷惑や「管理不全空き家」への指定を避けられます。管理を通じて所有者の不安を解消し、将来の売却や賃貸活用へと自然にステップを進められるのです。
空き家管理から始まる顧客接点
不動産会社にとって、空き家管理は単なる「延命策」ではなく、新たな顧客接点の創出手段です。管理をきっかけに所有者との信頼関係を築くことで、将来的に売却や賃貸、建て替えなどの本格的な取引へとつながります。
特に「管理不全空き家」のリスクが高まっている今、所有者は何らかの対応を迫られています。しかし、多くの人は「何をどうすればいいかわからない」状態にあります。そこで、まずは管理という入り口を用意してあげることが、顧客にとっても、事業者にとっても価値のある第一歩となるのです。
空き家問題は一朝一夕には解決できません。しかし、放置すればするほど深刻化します。不動産会社が空き家管理をサービスとして提供することで、所有者の悩みを解きほぐし、将来の大きなビジネスへとつなげていくことができるのです。
空き家の増加は止まらず、法制度もますます厳格化していくはずです。その中で、空き家管理は「問題先送りの手段」ではなく、「顧客との接点づくりの第一歩」として位置づけることが重要です。管理を通じて信頼を得られれば、いずれ訪れる売却・賃貸・建て替えといった局面で、確実に選ばれる存在となるでしょう。

みらいず
コンサルティング株式会社
代表取締役
今井 基次
賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®︎、CFP®︎、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。
