法律相談
2026.03.13
不動産お役立ちQ&A

Vol.119 管理組合の工作物責任


Question

マンションの2階の1部屋を所有し、居住しています。先日、共用部分である外壁コンクリート躯体部分および床下スラブ部分などに亀裂が生じて漏水事故が発生しました。そのため家具が水浸しになって使えなくなり、天井の亀裂を補修し、クロスも張り替えなければならなくなりました。管理組合に工作物責任による損害賠償を請求することができるでしょうか。

事例について

Answer

管理組合に工作物責任による損害賠償を請求することができます。管理組合は共用部分の占有者であり、工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、その損害を賠償する責任を負うからです。

工作物責任

民法には、『土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う』と定められています(民法717条1項本文)。この条項による責任が工作物責任です。

マンションの躯体や配管などの共用部分の設置または保存に瑕疵があって、それによってマンションの専有部分に損害が生じた場合に管理組合が工作物責任を負うかどうかについては、これまで考え方が分かれていましたが、このたび最高裁から、管理組合の責任を認める判決が出されました(最判令和8.1.22最高裁ウェブサイト)。

最判令和8.1.22

1.事案の概要

(1)Y管理組合は、東京都練馬区に所在する1棟の区分所有建物(平成2年5月新築、総戸数27戸。本件区分所有建物)の区分所有者の団体である。 Xは、本件区分所有建物の専有部分である203号室の共有者である。

(2)Y管理組合の規約には、共用部分の管理については、Y管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする旨の定め(区分所有法20条)、Y管理組合は、Y管理組合が管理する共用部分の保全および保守ならびに修繕を行う旨の定め(同法31条)がある。

(3)本件区分所有建物においては、平成25年10月から平成27年3月にかけて、4回にわたって、外壁コンクリート躯体部分および床下スラブ部分(本件外壁部分等)の亀裂等により、203号室への漏水事故が発生した。この亀裂等は、工作物の設置または保存の瑕疵にあたり、また亀裂等が生じた本件外壁部分等は、本件区分所有建物の共用部分にあたる。

(4)XはY管理組合に対して、工作物責任に基づいて損害賠償を求めて、訴えを提起した。

東京高裁(原審)は、管理組合は、本件外壁部分等について、民法717条1項本文にいう占有者にあたらないとして、XのY管理組合に対する損害賠償請求を棄却した。

(5)これに対してXが上告した。最高裁(上告審)は、原審の判断を覆して管理組合が占有者にあたると判断し、工作物責任を認めた。

2.裁判所の判断

『民法717条1項本文の趣旨は、工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって損害が生じた場合、このように通常有すべき安全性を欠く状態にある工作物を支配管理して損害の発生を防止すべき地位にある者に損害賠償責任を負わせることにあると解される。

区分所有法によると、区分所有者は、全員で、区分所有建物等の管理を行うための団体を構成し(3条前段)、区分所有建物の共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決するとされている(18条1項)。これら区分所有法の規定に照らすと、区分所有建物の共用部分については、基本的に、区分所有者の団体がこれを支配管理して通常有すべき安全性を確保していくことが予定されているものというべきである(このことは、区分所有法25条及び26条に管理者の選任及び権限等についての定めがあるからといって、左右されるものではない)。そうすると、区分所有者の団体は、特段の事情がない限り、区分所有建物の共用部分を支配管理してその設置又は保存の瑕疵による損害の発生を防止すべき地位にあるということができる。

また、区分所有者の団体は、区分所有者からその持分に応じて共用部分の管理のための費用を徴収しているのが通例であるところ(区分所有法19条参照)、共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって損害が生じた場合には、区分所有者の団体の財産からその賠償をすることが、区分所有者の通常の意思に沿い、損害を被った者の保護にも資するものといえる。

以上によれば、区分所有者の団体は、特段の事情がない限り、区分所有建物の共用部分について、民法717条1項本文にいう「占有者」に当たるというべきである』。

まとめ

宅建業者は、マンションの売買や賃貸借の仲介を行って、購入者や賃借人の生活をサポートするのがその役割です。契約上の責任としては、売買契約や賃貸借契約の締結がなされれば、役割を果たし終えたことになりますが、購入者や賃借人が想定どおりマンションでの暮らしを営んでいるかどうかにも、関心をもたなければなりません。今般公表されたケースは、マンションで起こった事故について、管理組合に責任を問えるかどうかという重要なテーマに関する最高裁の判断であって、宅建業者のみなさまも、十分に理解をしておく必要があります。

今回のポイント

  • 土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。この責任が工作物責任である。
  • 占有者の工作物責任は、工作物の設置または保存について、通常有すべき安全性を欠く状態にある工作物を支配管理して、損害の発生を防止すべき地位にある者に損害賠償責任を負わせるものである。
  • マンションの管理組合が工作物責任を負うかどうかは、これまで考え方が分かれてかれていたが、今般最高裁において、管理組合について、占有者の工作物責任における占有者にあたり、共用部分の設置または保存の瑕疵によって専有部分に損害を生じさせた場合には、管理組合が工作物責任を負うと判断された。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所
弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動 産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『不動産最新判例100』『不動産登記請求訴訟』(日本加除出版)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。