法律相談
2026.05.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.121 クーリングオフ

law121

Question

宅建業者である売主から、代金1億9,220万円で土地を購入しました。S銀行に行って融資を受け、その場で売買契約を締結して、売買代金の約8割を支払いました。
しかし、後になって考え直し、売買契約を解除したいと考えています。売主からは、クーリングオフができるとの説明は受けていません。契約を解除することができるでしょうか。なお、私は宅建業者ではありません。

Answer

買主である非宅建業者が、売主宅建業者との間で、宅建業者の事務所等以外の場所で申込みを行って、契約を締結していますから、クーリングオフによって契約を解除することができます。

クーリングオフの制度

不動産は重要な財産であり、売買代金も高額です。慎重に検討することなく、一時的な感情で行った購入申込みについて、買主に契約上の義務を負担させることは、適切ではありません。そこで、宅建業法上、購入申込みや契約締結が、冷静な判断を行うには不適当な状況で行われたときには、購入後一定期間、買主・申込者から申込みを撤回し、または契約を解除することができるものとされています。この仕組みを「クーリングオフ」といいます(宅建業法37条の2第1項はしら書き前段)。クーリングオフによる申込みの撤回または契約を解除しないという特約は無効です(宅建業法37条の2第4項)。

クーリングオフが認められる場合

(1)当事者

宅建業者自らが売主で、宅建業ではない者(非宅建業者)が買主となる場合の売買契約。売買契約のうち、売主が宅建業でない場合の買主や、賃貸借契約の借主にはクーリングオフは認められません。

(2)要件

申込みや契約が、宅建業者の事務所店舗以外の場所においてなされた場合。自宅や勤務先、旅行先、飲食店、銀行などで申込みや契約がなされた場合がクーリングオフの対象です。

(3)適用除外

次の①〜③の場合はクーリングオフの規定は適用されません。

  • ① 申込者・買主から、自宅または勤務先で契約に関する説明を受ける旨を申し出た場合の、自宅または勤務先での申込みまたは契約(宅建業法37の2第1項はしら書き前段、同法施行規則第16条の5第2号)。
  • ② 申込者・買主が、クーリングオフができる旨およびクーリングオフを行う方法を告知された場合において、告知日から8日を経過したとき(同法37条の2第1項1号)。告知がなされなければ、8日の期間は開始せず、申込や契約から8日が経過した後にもクーリングオフの権利行使が可能です。
  • ③ 買主が、宅地または建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払ったとき(同法37条の2第1項2号)。売買契約が決済されて終了した場合にまで契約解除を認めるのは、取引の安全を害すると考えられることから、クーリングオフはできません。

権利行使の方法

申込撤回や契約解除の通知は、書面によって行う必要があります。契約解除・申込撤回は、書面を発した時に、その効力を生じます(同法37条の2第2項)。

クーリングオフの権利行使がなされた場合、売主宅建業者は損害賠償または違約金の支払いを請求することはできません(同法37条の2第1項はしら書き後段)。申込撤回・契約解除が行われた場合には、速やかに、手付金などを返還しなければなりません(同法37条の2第3項)。

裁判例

東京地判令和2.11.20.2020 WLJPCA11208006は、平成28年8月28日にS銀行渋谷支店で代金1億9,220万円として締結された土地の売買契約が、翌平成29年11月13日に、クーリングオフによって解除されたケースです。売主は宅建業者、買主は非宅建業者です。クーリングオフに関する説明はなされていませんでした。買主は、売買契約の3日後の平成28年8月31日に、S銀行から融資を受けて、売買代金のうち1億6,540万円を支払い、土地の引渡しもなされたあと、契約解除を申し出ました。

売主は、売買代金が1億6,540万円に減額され、売買代金全額が支払われていたからクーリングオフは認められないと主張しましたが、判決では、「売買契約締結の3日後に代金額の約14%に相当する大幅な値引きをしたとは考え難く」、売買代金が全額支払われていない以上は、「買主は、売主に対し、宅建業法37条の2第1項に基づき、売買契約の解除をすることができるのであり、売買契約は、解除の意思表示により解除されたというべきである」として、買主によるクーリングオフを認めました。

図表:クーリングオフの可否チャート

図表:クーリングオフの可否チャート

今回のポイント

  • 宅建業法上、購入申込みや契約締結が、冷静な判断を行うには不適当な状況で行われたときに、クーリングオフの定めによって、購入申込みの撤回または売買契約の解除が認められる。
  • クーリングオフは、宅建業者が売主、宅建業ではない者が買主となる場合に認められる制度である。申込みや契約が、宅建業者の事務所店舗以外の場所においてなされた場合に適用される。
  • クーリングオフは、①申込者・買主から、自宅または勤務先で契約に関する説明を受ける旨を申し出た場合、②申込者・買主が、クーリングオフができる旨およびクーリングオフを行う方法を告知された場合において、告知日から8日を経過したとき、③買主が、宅地または建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払ったときには、適用されない。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所
弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動 産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『不動産最新判例100』『不動産登記請求訴訟』(日本加除出版)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。