Vol.79
従業員が知りたい不動産調査基礎編⑯
宅地擁壁の簡易チェックポイント!
日本の国土の70%が山や丘陵地であるため、多くの住宅は、高い擁壁に接近して建築されており、擁壁の築造年代も50年を経過しているものもあります。しかし、擁壁工事の専門家ではない宅地建物取引士は、「擁壁の危険度情報開示業務は媒介業務の範囲外」とされていますが、擁壁に関する情報は知っておきたいところです。
擁壁は法令調査の仕方から!
擁壁が取引物件の境界付近に存在する場合、最初にしなければならないことは、「その擁壁が法令に適合し、工事の検査を終了しているかどうか」ということです。ここでまず思うのが、「いったいどこに行けば、調べられるのだろうか?」という疑問です。法令調査では、建築基準法か宅地造成および特定盛土等規制法(通称:盛土規制法)の技術基準により擁壁工事が施工されているため、
- ・第1に、建築確認担当課で、「工作物の確認がありますか」と質問をします。「確認がある」ときは、「検査済み証はありますか」という質問をします。
- ・第2に、宅地開発担当課で、「宅造許可(宅地造成等工事許可)はありますか」と質問をし、「許可がある」ときは、「完了検査はありますか」と質問をします。
- ・第3に、都市計画担当課で、「開発許可はありますか」と質問をし、「許可がある」ときは、「完了検査はありますか」と質問をします。
最も大切なことは、「工事の許認可があっても、完了検査がない擁壁」は、「擁壁工事が存在しない状況」とされ、新たに擁壁新設工事や擁壁補強工事が必要な”崖斜面”ということになります。
平成12年から擁壁の設置に関する技術的基準が変更!
阪神淡路大震災の際の数多くの擁壁倒壊事故を受けて、平成12年6月1日、政府は擁壁の技術基準を見直しました。
(1)盛土規制法の擁壁の技術基準
令和7年6月1日、盛土規制法施行令第8条第1項第2号は、擁壁の設置に関する技術的基準を、次のように定めました。
「擁壁は、鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造または間知石(けんちいし)練積み造その他の練積み造のものとすること」。
(2)建築基準法の擁壁の技術基準
建築基準法施行令第142条第1項第1号・第2号・第3号は、擁壁の構造基準を、次のように定めました。
- ① 鉄筋コンクリート造、石造その他これらに類する腐食しない材料を用いた構造とすること。
- ② 石造の擁壁にあっては、コンクリートを用いて裏込めし、石と石とを十分に結合すること。
- ③ 擁壁の裏面の排水を良くするため、水抜き穴を設け、かつ、擁壁の裏面の水抜き穴の周辺に砂利その他これに類するものを詰めること。
このように、擁壁の種類や構造物をコンクリート等で一体化させることにより、より安全性を高めることとされています。
宅地擁壁の危険度を示すサインの発見!
国土交通省の「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」(ポイント)では、以下のような状態の「水抜き穴」と「排水状況」がある場合、宅地擁壁の健全度が低下していることになります。
[倒壊危険度の高い水抜き穴]
- ① 雨の日にも、水抜き穴から水が流れ出してこない場合
- ② 雨の日には、上部にある水抜き穴からは水が出ているが、下方にある水抜き穴から水が出てこない場合
- ③ 水抜き穴があっても、穴が詰まっている場合
- ④ 擁壁に、水抜き穴が存在しない場合
[倒壊危険度の高い排水状況]
- ① 擁壁の天端にU字溝が存在しないため、擁壁上部の宅盤表面に落ちた雨水がすべて、地盤に浸透し、崖側に流出している場合
- ② 擁壁の表面が雨も降らないのに、常時、湿っている場合
- ③ 擁壁の水抜き穴からは、晴れた日にも水がしみ出している場合
- ④ 擁壁の天端のU字溝に土砂が堆積している場合
- ⑤ 擁壁の天端のU字溝が壊れている場合
- ⑥ 擁壁の天端上部の宅盤の表面に亀裂が入っている場合
- ⑦ 擁壁の天端上部の宅盤の表面が地盤沈下している場合
[その他]
宅地擁壁の危険度を示すサインは、次のような箇所にも潜んでいます。
- ① 擁壁の表面の平らな面が膨らんでいる
- ② 擁壁の表面が波打っている
- ③ 擁壁の表面に亀裂が入っている
- ④ 亀裂した箇所が上下、左右にずれている
- ⑤ 擁壁に破損、陥没穴が開いている
以上のような異変が存在するときは、「擁壁の倒壊の危険度が高い」と判断することができます。このような事象がある場合は、販売価格にも影響するため、売主は、異常が存在することを告知することが大切です。
今述べたような擁壁の状況について、崩れる可能性や危険度などを調べることが、「擁壁の危険度情報開示業務」となり、トラブル抑止にもなります。
ポイント
国内の擁壁の種類について、国土交通省は、「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」(令和4年4月)において、「擁壁の種類」を次のように、7分類しています。④~⑦は倒壊危険度が高いとされます。
擁壁の種類


不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。