中東情勢の緊迫化によって引き起こされた、いわゆる「ナフサショック」。多くのメディア等で、経済全般への影響が連日のように報じられています。
住宅・不動産業界においては、住宅価格や家賃相場にどう影響し、業界全体にどのような変化が起きるでしょうか。
ここでは、3人の専門家への取材を通じて、「不動産事業者における今後の留意点」とあわせてお伝えします。
※本稿は、2026年4月下旬から5月上旬に取材し、5月中旬に執筆したものです。
ウッドショックとの比較
「化学製品の原料」といわれるナフサの不足で、「塩化ビニル管」「断熱材」「塗料」などの住宅建設に不可欠な部材や素材の製造が滞るほか、「トイレ」「ユニットバス」といった住設機器の生産にも影響が及ぶことは、皆さんご承知のとおりでしょう。
住宅・不動産業界で、今回のナフサショックと比較されるケースに、「ウッドショック」があります。長年、業界動向をウォッチしてきた住生活ジャーナリストの田中直輝氏は、「今回は影響の度合いがまったく違う」と指摘します。コロナ禍での世界的な木材需要の急増で、外国産材が日本国内へ入りにくくなったウッドショックは、2021年から2022年頃に起こりました。住宅価格の上昇が問題視されましたが、それでも、対象範囲は「木材」でした。国産材への代替などで対処できましたが、今回は、代替が難しいとされるナフサが、住宅建設にまつわるあらゆる分野で利用されているといった違いがあります。このことが、田中氏の「影響の度合いがまったく違う」という発言のゆえんです。
納期調整も大きな問題に
今回のナフサショックでは、住宅価格の上昇はどの程度になりそうでしょうか。リクルート SUUMOリサーチセンター長の池本洋一氏は、「ヒアリングを基にした予測」と前置きしたうえで、「単価2,000万〜3,000万円ほどの戸建て住宅で100万〜200万円程度、大手ハウスメーカーの単価4,000万〜5,000万円の戸建て住宅の場合、300万〜400万円程度になるのではないか」と話しています。
また池本氏は、「納期調整も大きな問題になりそうだ」と指摘します。住宅建設に不可欠な資材等の不足で、住宅の引き渡し時期を後ろ倒しにせざるを得ない状況のなか、その影響をダイレクトに受けるのが、経営体力に乏しい中小・零細企業だと言います。実際、帝国データバンクの「景気動向調査(4月調査)」によると、特に「小規模企業」の景況観の悪化が顕著で、3年8カ月ぶりの低水準を記録しました。経済全体への影響はこれから本格化することを考えると、今後のさらなる悪化が懸念されます。
既存賃貸住宅の価値を見直す契機に
住宅価格の上昇が予測される一方、賃貸市場の家賃相場への影響はどうでしょうか。アットホームラボ執行役員でデータマーケティング部部長の磐前(いわさき)淳子氏は、「直接的な影響は小さいのではないか」としながらも、着工の遅れなどで新築賃貸住宅の供給が減少すれば、中古賃貸住宅への需要が高まり、中古の家賃相場が上がる可能性はあると見ています。その意味でも、「中古賃貸住宅の価値が見直され、既存ストックの維持・活用の重要性が一層高まると思う」と話します。
この「中古物件の価値向上」は、売買市場にも当てはまるのでしょうか。リクルートの池本氏は、「中古住宅もリフォームを行う場合、ナフサショックの影響は受ける」と指摘しますが、「フルリノベーションを行うような買取再販物件を除けば、やはり新築住宅のほうが受ける影響は大きい」とし、「中古住宅にスポットが当たり、新築需要が中古に流れる可能性はある」と分析します。また、住生活ジャーナリストの田中氏は、「価格の上昇で、特に東京エリアでの新築住宅の購入は、多くのサラリーマンにとってさらに難しくなるだろう」と話しています。
ナフサショックを機に、中古住宅市場がさらに活発化すれば、住宅の価値が落ちにくくなり、物件によっては価値が上がるような市場の形成が今よりも進む可能性があるかもしれません。
短期的なコストだけで判断しない
ナフサショックのなかで事業を進めるにあたり、不動産事業者はどのような点に留意すべきでしょうか。アットホームラボの磐前氏は、賃貸事業者に対するアドバイスとして、「短期的なコスト上昇だけにとらわれず、長期的な資産価値を意識すること」を挙げます。利回り確保の観点から物件の企画内容を見直す場合でも、過度なコストダウンは将来的な競争力低下につながる可能性があるといった内容です。「賃貸住宅は長期保有資産。『将来的な価値の維持』を第一に考えるべき」としています。
売買事業者に対しては、リクルートの池本氏は、「消費者に、ナフサショックにまつわる状況をしっかり説明できるようにすること」が何よりも大切だと言います。そのためには、情報の真偽の見極めが重要になるでしょう。また、「新築の仲介だけでなく中古物件を扱う体制を、いま以上にしっかり構築したほうがいい」といったアドバイスも寄せています。
住宅・不動産業界では、これまでもさまざまな「ショック」を乗り越えてきた実績があります。今回のナフサショックも、状況を見定めた対応を行うことで、必ず乗り越えられると信じています。
図表:ナフサショックによる業界への影響

執筆
福島 康二
HFオンウェイ合同会社 代表社員。1974年、鹿児島県生まれ。「住宅新報」元編集長。大学卒業後、新築分譲マンションの営業に携わった経験がある。2024年4月に編集プロダクションのHFオンウェイ合同会社を設立。経済・ビジネス動向からスポーツ領域まで、幅広いジャンルの執筆活動を行っている。
