コロナ時代における賃貸管理会社の対応
– 感染者が出た場合の告知や営業自粛による契約解約 –
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、賃貸管理会社は、入居者に感染者が出た場合や感染予防について、どのようにすべきか悩まれることが多いかと思います。そこで、管理会社がとるべき対応を紹介します。
1.管理物件で感染者が出た場合の管理会社の対応
(1)部屋・共用部の消毒義務
管理物件の入居者が新型コロナウイルスに感染した場合、部屋および共用部を消毒する義務はあるでしょうか。
新型コロナウイルスは、感染者が触れたドアノブなどにウイルスが付着し、ドアノブなどを介して他者に病気をうつす可能性があるとされています。賃貸人(オーナー)には賃借人が安全に建物を使用できるようにする義務がありますので、部屋および共用部を消毒する義務があると解されます。
では、賃貸人が消毒を行わない場合、管理会社において消毒を行う義務はあるでしょうか。
例えば、管理物件の手すりが外れそうになっていて、管理会社がこれを認識していながら事故が発生した場合、管理会社は土地工作物責任として損害賠償責任を負う可能性があります。これと同様に、管理会社が管理物件で新型コロナウイルス感染者が発生したことを知りつつ、適切な消毒を行わなかったことにより、他の入居者が新型コロナウイルスに感染した場合は、管理会社は土地工作物責任として損害賠償責任を負う可能性があると考えられます。ただし、管理会社の受託している業務が、集金管理のみで、建物管理を一切行っていない場合には、土地工作物責任の「占有者」には該当せず、消毒義務はないと判断される可能性はあります。
なお、具体的な消毒の方法は、令和2年2月5日に厚生労働省から通知された「旅館等の宿泊施設における新型コロナウイルス感染症への対応について」(以下「厚生労働省通知」という)によれば、「保健所の指示に従って実施することが望ましいが、緊急を要し、自ら行う場合には、感染が疑われる宿泊者が利用した区域(客室、レストラン、エレベータ、廊下等)のうち手指が頻回に接触する箇所(ドアノブ、スイッチ類、手すり、洗面、便座、流水レバー等)を中心に、『感染症法に基づく消毒・滅菌の手引き』(厚生労働省健康局結核感染症課)、『MERS感染予防のための暫定的ガイダンス(2015年6月25日版)』(一般社団法人日本環境感染学会)を参考に実施すること」とされています。
(2)賃貸人や他の入居者への通知義務
管理物件で感染者が出た場合、管理会社は賃貸人や他の入居者に通知すべきでしょうか。
まず、賃貸人に対しては、感染拡大防止の観点から、管理物件を適切に消毒するために報告する必要性が認められますが、個人情報およびプライバシー保護の観点から、管理物件で感染者が出たという報告に限定すべきであり、感染者の同意がない限り、詳細な感染者情報は提供すべきではありません。
また、他の入居者に対しては、厚生労働省通知において、宿泊施設にて新型コロナウイルスへの感染が疑われる宿泊者が発生した場合の対応として、他の宿泊者への通知には触れられていないことからしても、管理物件が適切に消毒されている限り、他の入居者への通知は不要と考えられます。
(3)次の入居者への告知義務
感染者が退去した場合、次の入居者に対して、前入居者の感染事実を告知する義務はあるでしょうか。
仮に、新型コロナウイルスが消毒をしたとしても死滅しないウイルスであったとすれば、前入居者の感染事実は告知義務に該当するでしょう。しかしながら、新型コロナウイルスは適切に消毒することで死滅することが確認されている以上、適切に物件の消毒を行っている限り物理的瑕疵は存在せず、また、自殺物件とは異なり心理的瑕疵にも該当しないとして、次の入居者への告知義務は否定的に解されるのではないかと考えられます。
厚生労働省通知も、宿泊施設にて新型コロナウイルスへの感染が疑われる宿泊者が発生した場合の対応として、次の宿泊者への告知には触れられておらず、告知義務について否定的に解しているものと思われます。
2.営業自粛による賃貸借契約への影響
(1)借主からの解約
解約違約金の定めのある事業用賃貸借契約において、新型コロナウイルスに伴う営業自粛の影響を理由として借主から解約の申出があった場合、賃貸人は賃貸借契約の定めに従い、解約違約金を請求することが可能でしょうか。
借主としては、新型コロナウイルスに伴う営業自粛が不可抗力に該当すると主張して、解約違約金の請求を拒むものと考えられます。確かに、新型コロナウイルスは、自然災害と同様、借主の帰責事由に基づくものではありません。しかしながら、震災により物件が倒壊したような場合とは異なり、物件自体は使用できる以上、賃貸人の使用収益義務が履行不能になっているわけではありません。
新型コロナウイルスの影響で事業継続が困難となった場合に、借主が早期解約の違約金を免れるという法的根拠はなく、借主が早期解約する場合には、賃貸人が賃貸借契約書の定めに従って違約金を請求することは法的に可能であると考えられます。ただし、借主側の事情に配慮して、十分協議することが適切でしょう。
(2)賃料の免責・減額
事業用賃貸借契約において、新型コロナウイルスに伴う営業自粛の影響を理由として借主から賃料の免責・減額の要請があった場合、賃貸人はこれに応じる義務があるでしょうか。
この点についても、新型コロナウイルスによって物件自体が使用できなくなっているわけではなく、賃貸人の使用収益義務の全部または一部が履行不能になっていない以上、当然に賃料が免責されたり、減額されたりするわけではありません。ただし、国土交通省から、飲食店等のテナントの賃料の支払いについては柔軟な措置の実施を検討するよう要請が出ており、借主側の事情に配慮して、支払い猶予等の対応が望ましいでしょう。また、家賃支援給付金の制度(図表参照)が開始されましたので、この制度の利用を促すのがよいでしょう。
ことぶき法律事務所
弁護士
塚本 智康
(つかもと ともやす)
2008年に中央大学法科大学院卒業後、新司法試験合格。2009年に東京弁護士会登録、ことぶき法律事務所入所。2015年から賃貸不動産経営管理士試験作問委員。