法律相談
2020.11.13
不動産お役立ちQ&A

Vol.55 売主の担保責任の期間制限


Question

2020年4月に施行された新民法では、売主の担保責任の期間制限について、仕組みが変わったと聞きました。売主の担保責任の期間制限は、どのような定めになっているのでしょうか。

Answer

1.知った時から1年以内の通知

売主の担保責任については、①買主が目的物のキズ(不適合)を知ったときから1年以内に通知をしなければ買主の権利は失効する(失権効)、つまり、1年以内に売主に通知をすれば、売主に対する契約不適合責任を追及する権利は保全される、②ただし、売主が悪意・重過失である場合には、買主が通知を怠っていても失権効は生じない(権利は失われない)とされています。また、③1年以内に通知したとしても、その後売主に請求をすることなく所定の期間(5年または10年)が経過すれば、買主の権利は時効によって消滅します。

2.売主の担保責任の期間制限

(1)1年以内に通知をすること

売主の担保責任については、民法改正によって、瑕疵担保責任から契約不適合責任に改められたのに加え、期間制限も見直されています。

改正前には、買主が瑕疵を知ったときから1年以内に請求をしなければなりませんでしたが(改正前の旧民法566条3項)、改正後には、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合(契約不適合の場合)において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない」と定められ(改正後の新民法566条本文)、キズを知ったときから1年以内に通知をすればよいものとされました。新しいルールでは、目的物のキズについては、買主に通知の義務を負わせ、1年以内に通知をしなければ契約不適合責任を追及する権利は失われますが、1年以内に通知をしておけば、1年以内に請求までしなくても、権利は失われません(「買主の通知義務+通知懈怠(けたい)→失権効」のルール)。請求については、1年経過の後でも差し支えはなく、例えば中古住宅に雨漏りがあった場合でいえば、雨漏りを知ったときから1年以内に雨漏りの事実を通知しておけば、修補請求や損害賠償請求などは、知ったときから1年後以降であっても可能です。

(2)売主の悪意・重過失

もっとも、新民法566条は、上記の本文に続けて、「ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない」と定めました(同条ただし書き)。目的物のキズを知っている売主などを、通知がないという理由で免責することは相当ではないと考えられることから、失権効に例外を認めています。売主が悪意・重過失である場合には、買主が通知を怠っていても失権効は生じないということになります。中古住宅に雨漏りがあったケースでは、売主が引渡しの時に雨漏りがあることについて悪意・重過失があれば、買主が雨漏りを知ったときから1年以内に通知をしなかったとしても、買主は修補や損害賠償を請求することができます。

(3)消滅時効

改正後の新民法では、消滅時効についてもルールが改められ、 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または、権利を行使することができる時から10年間行使しないときには、債権は時効によって消滅するとされました(同法166条1項)。

売主の担保責任についての買主の権利は、「買主の通知義務+通知懈怠→失権効」のルールによって消滅することがありますが、たとえ1年以内に通知を行って権利を保全していても、その後権利を行使することなく、5年または10年が経過したときには、買主の権利は時効消滅することになります。

3. 移行期における民法の適用関係

新民法の附則には、施行日前に売買契約が締結された場合におけるこれらの契約および契約に付随する買戻しその他の特約については、「なお従前の例による」と定められており(附則34条1項)、売買契約について改正後の民法による売主の担保責任の期間制限についてのルールが適用されるのは、2020年4月以降に締結された売買契約です。

<民法改正前と改正後の期間制限の比較>

画像 民法改正前と改正後の期間制限の比較

今回のポイント

  • 引き渡された売買の目的物にキズがあるときには、買主は、キズを知ったときから1年以内に売主に対してこのことを通知しなければならない。1年以内に通知をしなければ契約不適合責任を追及する権利は失われる。
  • 買主は、目的物のキズを1年以内に売主に通知をすれば、契約不適合責任を追及する権利が保全される。補修や損害賠償を請求する時期は、1年を経過した後でもかまわない。
  • 売主が引渡しの時に目的物のキズを知り、または重大な過失によって知らなかったときは、買主が1年以内に通知をしなくても、契約不適合責任を追及する権利は失われない。
  • 買主は、1年以内に通知しても、その後権利を行使することなく、権利を行使することができることを知った時から5年(または、権利を行使することができる時から10年)の間権利を行使しなかったときには、買主の権利は時効消滅する。

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

1980年一橋大学卒業、三菱地所入社。1989年司法試験合格。1990年に三菱地所退社。1992年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。マンション管理士試験委員。近著に『民法改正の解説』(2017年6月、住宅新報出版)など多数。