今月のテーマは、売主の担保責任です。本試験では、3年に2回ぐらいのペースで出題されており、重要論点です。今回の民法改正において、担保責任に関する基本的な考え方が改められた結果、規定内容が大幅に変更されました。それゆえ、今年の本試験に出題される可能性は非常に高いと思われます。
売主の担保責任
(1) 全部他人の物の場合
Aが、C所有の土地をBに売却する契約を締結した場合、売主AはCからその土地の権利を取得して買主Bに移転する義務を負います。売主AがCから権利を取得して買主Bに移転できなかった場合、売主は契約上の義務に違反したとして債務不履行責任を負います。具体的には、買主は売主に対して、損害賠償請求および契約の解除をすることができます。
(2) 一部他人の物の場合
AがBに土地を売却する契約を締結したが、その土地の一部がCの所有だった場合、売主AはCから権利を取得して買主Bに移転する義務を負います。売主が権利を取得して買主に移転できなかった場合、売主は債務不履行責任を負います。具体的には、買主は売主に対して、損害賠償請求、契約解除のほか、追完請求(権利を取得して移転するよう請求すること)、代金減額請求(移転できなかった他人物の部分に見合った代金を減額せよという請求)をすることができます。
(3)目的物の種類・品質が契約不適合の場合
A所有の建物をBが購入したが、その建物の柱の中がシロアリに食われてぼろぼろになっていた(目的物が通常備えるべき性質を欠如しており、目的物の種類・品質が契約に適合しなかった)場合です。この場合の買主は売主に対して、追完請求(契約不適合箇所の修補や代替物の引渡し請求)、代金減額請求、損害賠償請求および契約解除をすることができます。
(4)目的物の数量が契約不適合の場合
たとえば、1㎡あたり10万円、面積100㎡という計算で代金を設定して、AがBに土地を売却する契約を締結したが、調べてみると面積が90㎡しかなかったというように、契約の当事者が当該契約において目的物の数量に特別の意味を与え、それを基礎として売買がされたが、数量が不足していた場合も、買主は売主に対して、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求および契約解除をすることができます。
(5)移転した権利が契約不適合の場合
たとえば、建物を建てる目的でAの土地をBが購入する契約を締結したところ、その土地にCの地上権が設定されていたというように、売買の目的物の上に占有を妨げる権利が存在していた場合です。この場合、買主は売主に対して、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求および契約解除をすることができます。
(6)目的物に抵当権等が存在していた場合
たとえば、Aの土地をBが購入する契約を締結したところ、その土地にCの抵当権が設定されていたような場合です。購入した不動産に設定されていた抵当権の実行により不動産の所有権を失った場合、買主は、売主に対して債務不履行責任(損害賠償および契約解除)を追及することができます。また、抵当権の実行を免れるため、買主が費用を支出した(抵当権消滅請求または被担保債権の第三者弁済)ときは、買主は売主に対してその費用の償還を請求することができます。
(7)買主の権利の期間制限
追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除などの買主の権利は、権利行使できることを買主が知った時から5年、または権利行使できる時から10年を経過すると、時効により消滅します。
また、目的物の種類・品質に関する契約不適合を買主が知った時から1年以内に、その旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除をすることができなくなります。ただし、売主が引渡しの時にその不適合について悪意または善意重過失の場合は、この期間制限は適用されません。
以上をまとめると、下のようになります。
予想問題を解いてみよう!
知識の定着を
※法改正の程度が大きく、適切な過去問がないため予想問題を出題します。
- 【Q1】Aを売主、Bを買主として甲土地の売買契約を締結したが、甲土地の一部をCが所有しており、AがCから権利を取得してBに移転しない場合、Bは、当該契約の解除及び損害賠償請求をすることができるが、追完請求及び代金減額請求をすることはできない。(予想問題)
- 【Q2】A所有の甲建物をBに売却する契約を締結し引き渡したが、甲建物は品質に関して契約の内容に適合しないものであった。Bは、甲建物の引渡しを受けた時から1年以内に、不適合があった旨を通知しなければ、契約不適合に関する担保責任を追及することができない。(予想問題)
こう考えよう!<解答と解き方>
Answer1
【解説】一部他人の物の場合、買主は、契約解除、損害賠償請求のほか、追完請求、代金減額請求をすることもできる。
Answer2
【解説】不適合があった旨の通知は、「引渡しを受けた時から」ではなく、「不適合を知った時から」1年以内に行えばよい。
植杉 伸介
早稲田大学法学部卒業。宅建士、行政書士、マンション管理士・管理業務主任者試験等の講師として30年以上の実績がある。『マンガはじめて建物区分所有法 改訂版』(住宅新報出版)など、これまでに多くのテキストや問題集の作成に携わり、受験勉強のノウハウを提供している。