Vol.15 AIと人間の関係性
AIによってできることが増えるにつれ、AIは人間の仕事を奪うのではないか、営業マンは将来いらなくなってしまうのではないか?そんな疑問が出てきます。
AIが進化するにつれて、AIと人間の関係性はどのように変わっていくのでしょうか。
IT分野を中心とした調査・助言を行う企業であるガートナー ジャパンが2019年に発表したレポートによれば、AIは日本において「幻滅期」に入ったとのことです。
■ テクノロジーが社会に浸透するステップ
同社は各種のテクノロジーを、市場に登場した後にそのテクノロジーに対して期待が急上昇する「黎明期」、期待に見合った成果を生み出さないまま過熱気味に評価される「過度な期待のピーク期」、幻想が無くなり期待が幻滅へと変わる「幻滅期」、幻滅を乗り越えた後に再度市場全体への浸透が始まる「啓蒙活動期」、成熟したテクノロジーとして市場に認識される「生産性の安定期」という5つのステップに分類されるとしています。
確かに、数年前におけるAIブームでは「AIでこんな未来もありえます!」と一方的に喧伝され、「過度な期待」があったといえます。一方、日本におけるAIが「幻滅期」に入ったということは、今後市場全体への浸透が始まる「啓蒙活動期」、成熟したテクノロジーとして市場に認識される「生産性の安定期」が来るといえます。
■ 過去のAIブーム
実は、AIブームが起きるのはこれが初めてではありません。過去に2回、AIブームがあったのです。第一次AIブームは1950年代から1960年代にかけて起きました。今から60年以上前にAIブームがあったことは驚きですが、当時は大型コンピューターの時代。処理能力の不足から、AIを適用できる範囲は、ルールとゴールがはっきり決まっているごく限られた問題だけでした。第二次AIブームは1980年代から1990年代にかけて起きたもの。第一次AIブームに比べて処理できる問題の幅は増えましたが、都度処理のためのルールを人間が考えなくてはいけないこともあり、仕事の仕方を大きく変えるところまではいきませんでした。そして現代の第三次AIブームでは、いわゆる「ムーアの法則」に従ってコンピュータ性能が以前とは比べものにならないほど向上したこと、WEBやスマートフォンの一般化によってAIに学習させるためのデータが圧倒的に増大し入手しやすくなったことが、これまでのAIブームとの違いを生み出しています。
■ AIはどのような仕事を奪うのか
現代のAIは、大量のデータから特徴や傾向を分析し、人間と同じような経験則的に基づいて高い精度で予測を行うことができる点が、過去のAIと異なります。それでも、AIが得意な分野とそうでない分野があります。
Apple、Microsoft、Googleなどで活躍した後、現在は投資家として活躍するAIのパイオニアKai-Fu Lee氏の著作『AI Superpowers』によると、人間が行う仕事は4つの種類に分けられると言います。
- ・人との関わりが必要で、創造性が求められる仕事
- ・人との関わりが必要だが、創造性が求められない仕事
- ・人との関わりは必要なく、創造性が求められる仕事
- ・人との関わりは必要なく、創造性も求められない仕事
この4種類の仕事で、最もAIに取って代わられやすいのは、4つ目の「人との関わりは必要なく、創造性も求められない仕事」だとKai-Fu Lee氏は指摘します。例えば、工場の労働者、ファーストフードの料理人、レジ係などです。人との関わりが必要なく、創造性を求められない仕事は、データから最適な結論を導き出すAIが最も得意とする分野だからです。
■ 不動産営業とAI
それでは不動産営業はどの種類の仕事に分類されるのでしょうか? Kai-Fu Lee氏によると、不動産営業などのエージェント業務は「人との関わりが必要で、創造性が求められる仕事」だと定義しています。不動産営業は、顧客の状況を深く理解し、顧客が今後どんな人生を送るかを一緒に形作っていく仕事です。それゆえ、創造性や仕事の緻密さ、構造化されていない問題への対処、人間関係の構築力が求められるのです。
不動産営業はAIに取って代わられる仕事ではなく、どのようにAIを使いこなすかが今後重要になってくる仕事といえるでしょう。
次回は、中小企業におけるAI活用方法についてお伝えしたいと思います。
株式会社Housmart
代表取締役
針山 昌幸
一橋大学卒業後、大手不動産会社で不動産仲介等を担当。楽天株式会社を経て、2014年に株式会社Housmartを設立。テクノロジーとデザイン、不動産の専門知識を融合させ、売買仲介向けの顧客自動追客サービス「プロポクラウド」を展開。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』等がある。