Vol.21 不動産物件調査技術の基礎 ~役所調査編~
土砂災害警戒区域等の法令の調査方法


全国における土砂災害の危険箇所は67万2,000件(「全国における土砂災害警戒区域等の指定状況」令和2年6月30日、国交省)と公表されました。そのうち、指定された土砂災害警戒区域は約62万件、土砂災害特別警戒区域は約49万件という基礎調査結果です。

平成29(2017)年の土砂災害防止法の改正

平成29(2017)年度の土砂災害の9割は土砂災害警戒区域内等で発生しており、土砂災害警戒区域は、土砂災害のリスクを示す重要な情報として把握されています。そこで、平成29(2017)年6月19日、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(略称・土砂災害防止法)が改正され、土砂災害警戒区域内の要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対し、避難確保計画の作成及び避難訓練の実施を義務付け、施設利用者の円滑かつ迅速な避難の確保を図ることとされました。

土砂災害特別警戒区域内の建築の許可

一方、都道府県知事は、基本指針に基づき、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に住民等の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、当該区域における土砂災害を防止するために警戒避難体制を特に整備すべき土地の区域を、土砂災害警戒区域として指定することができます。また、警戒区域のうち、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、一定の開発行為の制限及び居室を有する建築物の構造の規制をすべき土地の区域を、土砂災害特別警戒区域として指定することができることができます。特別警戒区域内において、都市計画法に規定する開発行為で当該開発行為をする土地の区域内において建築が予定されている建築物をしようとする者は、あらかじめ、都道府県知事の許可を受けなければなりません(土砂災害防止法10条1項)(ポイント1・2)。また、この許可を受けた者は、予定建築物の用途及びその敷地の位置、土砂災害を防止するため自ら施行しようとする工事の計画、対策工事以外の特定開発行為に関する工事の計画の変更をしようとする場合においては、都道府県知事の許可を受けなければならない(同法17条)とされ、それぞれ、宅建業法の重要事項説明義務項目となっています。

土砂災害の言葉の意味とは?

土砂災害とは、「急傾斜地の崩壊」「土石流」「地滑り」「河道閉塞による湛水」の4種類の自然現象を指しており、急傾斜地の崩壊とは「傾斜度が30度以上である土地が崩壊する自然現象」、土石流とは「山腹が崩壊して生じた土石等又は渓流の土石等が水と一体となって流下する自然現象」、地滑りとは「土地の一部が地下水等に起因して滑る自然現象又はこれに伴って移動する自然現象」をいい、これらを総称して「急傾斜地の崩壊等」といいます。また河道閉塞による湛水とは「土石等が河道を閉塞したことによって水がたまる自然現象」をいいます。これら4つの自然現象を発生原因とする被害を“土砂災害”といいます。

急傾斜地崩壊危険区域での行為の許可

急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(略称・急傾斜地法)において、都道府県知事は、崩壊するおそれのある急傾斜地で、その崩壊により相当数の居住者に危害が生ずるおそれのある土地のうち、立木竹の伐採や土石の採取又は集積等の行為が行なわれることを制限する必要がある土地の区域を、急傾斜地崩壊危険区域として指定しています(ポイント3・4)。

ポイント1

下記のように、駐車場手前が「土砂災害警戒区域」に指定されていますが、駐車場の約2分の1より奥の山寄りの敷地と背後の山は「土砂災害特別警戒区域」に指定されるため、区域内での建築物の建築等の際には許可が必要となります。

ポイント2

ポイント1の写真(おおむね下図の円内)のように、「土砂災害警戒区域等」の指定がある場合、黄色の区域は「土砂災害警戒区域」、その中の赤色の区域は「土砂災害特別警戒区域」で、建築規制等が行われます。この指定は、廃止や追加で毎年変化することがあるので、指定状況については、細心の注意が必要です。

土砂災害警戒区域等の指定の公示に係る図書(その2-1)より

ポイント3

下記の斜面地は、「急傾斜地崩壊危険区域」に指定されており、写真のような標識の設置が義務付けられているので、標識を探すようにして現地を確認することができます(事例地は国立千葉大学付近)。

ポイント4

ポイント3のように「急傾斜地崩壊危険区域」の標識がある場合、立木竹の伐採や土砂の採取又は集積の行為は、急傾斜地法に基づく許可が必要になります。


不動産コンサルタント

津村 重行

昭和55年三井のリハウス入社。昭和59年に不動産物件調査業(デューデリジェンス業)に注目し、消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とする有限会社津村事務所を設立。研修セミナーや執筆活動等を行っている。著書に『不動産調査入門基礎の基礎4訂版』(住宅新報出版)などがある。