不動産登記法に関する問題は、毎年1問出題されています。難易度は年度ごとにバラつきがあります。受験対策としては、細かい知識を問う難問まで追いかける必要はなく、基本的な知識を正確に押さえることによって「基本的な知識を正確に」を目標にしましょう。今回は、不動産登記法のうち、比較的に出題頻度が高く、正解率アップに結びつきやすい知識を押さえていきたいと思います。
本登記と仮登記
1. 登記申請の手続き
(1)申請主義の原則
原則 | 当事者の申請または官公署の嘱託がない限り、登記官が職権で登記することはない |
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例外 | 表示に関する登記は、登記官の職権により登記することができる |
(2)共同申請の原則
原則 | 登記の申請は登記権利者※と登記義務者※とが共同して行わなければならない |
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例外 | ①相続または法人の合併による登記 ②所有権保存登記 ③表示に関する登記 ④判決による登記 ⑤仮登記義務者の承諾があるとき、または仮登記を命ずる裁判所の処分があるときの仮登記 ⑥登記名義人の氏名(名称)・住所の変更・更正の登記は、単独で申請することができる |
※登記権利者とは、登記上、直接に利益を受ける者をいう。登記義務者とは、権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人をいう。例えば、売買により土地の所有権を移転する登記を申請する場合、買主は、登記簿上の権利を取得するという利益を得るので登記権利者、その反対となる売主が登記義務者となる。
2. 仮登記
(1)仮登記とは
通常行う本来の登記のことを本登記といいますが、その本登記を直ちに行うことができないときに行う仮の登記をいいます。次の2つの場合に仮登記ができます。
①登記すべき権利の変動は生じているが、登記申請に必要な情報を登記所に提出できないとき
②登記すべき権利の変動は生じていないが、将来、権利変動が生じる予定があり、その請求権を保全する必要があるとき
例えば、①は登記義務者が登記識別情報を失念して提出できないときなどであり、②は売買の予約や停止条件付き売買契約を締結している場合などである。
(2)仮登記の申請
仮登記の場合も共同で申請するのが原則ですが、1.(2) の共同申請の原則で述べたとおり、例外もあり、単独で申請することもできます。
(3)仮登記の効力
仮登記そのものでは第三者に権利を対抗することはできません。将来、本登記が可能になって仮登記を本登記にした時点で、初めて第三者への権利主張ができるようになります。また、その時点で、仮登記で押さえておいた登記の順位が生きてきます。すなわち、仮登記を本登記に改めたとき、その本登記の順位は仮登記の順位によることになるのです。
(4)仮登記を本登記にする場合の問題点
所有権の仮登記を本登記にする場合 | 順位が劣後することになる他の登記は抹消されるため、その登記名義人の承諾が必要 |
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所有権以外の権利を本登記にする場合 | 他の登記が抹消されることはないため、他の登記の登記名義人の承諾は不要 |
例えば、A→Bの所有権移転仮登記の後に、A→Cの所有権移転登記がされていた場合、A→Bの仮登記が本登記になると、これと矛盾するA→Cの登記は抹消されます。そこで、この場合は、Cの承諾がないと、仮登記を本登記にすることはできません。
これに対して、所有権以外の仮登記を本登記にする場合は、他の登記が抹消されることはありません。例えば、抵当権の仮登記があって、その後に別の抵当権の登記がされたとします。この仮登記を本登記にしたとしても、他の抵当権は一番抵当から二番抵当に順位が下がるだけで、抵当権そのものは否定されません。したがって、登記の抹消はないため、この者の承諾は不要です。
(5)仮登記の抹消
仮登記の抹消は、仮登記の登記名義人が単独で申請することができます。また、仮登記の登記名義人の承諾があれば、当該仮登記の登記上の利害関係人(その仮登記の設定をした仮登記義務者など)が単独で仮登記の抹消を申請することもできます。
3. 表示に関する登記の申請義務
所有権の移転などの権利変動が生じたとしても、その権利に関する登記を申請する法的な義務はありません。これに対し、表示に関する登記の必要が生じたとき(建物を新築した場合や、建物の増築、滅失などの場合)は、当事者は、1カ月以内に登記の申請をしなければなりません。
過去問を解いてみよう!
知識の定着を
- 【Q1】登記は、法令に別段の定めがある場合を除き、当事者の申請又は官庁若しくは公署の嘱託がなければ、することができない。(H30 問14)
- 【Q2】仮登記の抹消は、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。(H23 問14)
こう考えよう!<解答と解き方>
Answer1
【解説】申請主義の原則を述べた記述であり、正しい内容。
Answer2
【解説】登記の抹消は、登記権利者と登記義務者の共同で申請するのが原則だが、仮登記はあくまで仮の登記なので、仮登記名義人の単独申請による抹消が認められている。
植杉 伸介
宅建士・行政書士・マンション管理士、管理業務主任者試験などの講師を30年以上行う。『マンガはじめて建物区分所有法 改訂版』(住宅新報出版)、『ケータイ宅建士 2021』(三省堂)など。