「ひと」と「くらし」の未来研究会が始動
新たな地域価値創出へ
国土交通省は、業種を超えた地域の新たな価値や可能性を創造するため、「『ひと』と『くらし』の未来研究会」を立ち上げ、5月10日に第1回会合をオンラインで開催した。全国賃貸不動産管理業協会(全宅管理)、日本賃貸住宅管理協会(日管協)、全日本不動産協会(全日)の3団体のほか、地域コミュニティデザインを担う3氏らで構成する。6月中に中間報告を目指す。
同研究会では冒頭、国交省不動産・建設経済局の青木由行局長が同研究会立ち上げの経緯について説明した。戦後の国土交通行政において官民プレーヤーの連携による一定の成果を評価する一方、「人口減少化の現代の日本では地域の場、空間の価値・機能がウェルビーイングな状態とは言えない」と指摘。将来起こると想定していた課題がコロナ禍で前倒しになっていると分析した上で、「木を見て、森を見る視点が必要。空間をビジネスにしてきた不動産業だからこそ、暮らしに関わるプレーヤーと連携し、地域コミュニティデザインの核となる取り組みができる」と展望した。
その後、各団体から同研究会への意気込みが語られた。全宅管理の佐々木正勝会長は「〈『住まう』に、寄りそう。〉のスローガンの下、人、地域、物件に寄り添う活動を続けている。微力ながら同研究会の役に立ちたい」、日管協の塩見紀昭会長は「管理を買える時代が求められている。管理会社としてどんな責任やリスクが取れるか考えたい」、全日の原嶋和利理事長は「当協会では年に一度全国の都市を訪れながら空き家・空き地等を地域経済にどう再登場させていくか議論している。人と暮らしの将来像をいかにくみ取れるかが重要」と述べ、同研究会へ積極的に参加する姿勢を示した。
初会合では地域コミュニティデザインに取り組む青木純氏((株)nest代表取締役)、川人ゆかり氏(合同会社ミラマール代表社員)、古田秘馬氏((株)umari代表取締役)の3氏らを中心に、実務における課題などについて議論した。
青木氏は東京都豊島区の南池袋公園のリニューアルや自身が運営する「大家の学校」の取り組みを例に、日常の中にある価値や境界線の見直しの必要性を訴えた。また、「暮らす」「働く」「ウェルビーイング」に関するプロジェクトを手掛けてきた川人氏は、「介護と不動産業」という文脈の中で街ぐるみ福祉という視点を持つことの必要性を指摘した。プロジェクトデザイナーの古田氏は「高付加価値ではなく、他付加価値の時代。全方位ではなく、誰にとって面白い価値をつくれるかを明確にして進めるべき」とした上で、「その地域の土地の値段を上げることがゴールではなく、オリジナリティを持続していく取り組みが重要」と指摘した。
自由討論の中で、今後議論していくテーマ案として「高齢社会」「複数居住」「ベーシックインフラ」などが浮上した。更に従来の垣根を越えていくために、地域コミュニティデザインの実践者が抱えるジレンマを聞きながら、ボトルネックとなる制度や課題の整理を進めると共に、「何を変えればどんな暮らしの未来を描けるか、具体的な再現性の議論が必要」(川人氏)という認識を共有した。
(『住宅新報』2021年5月18日号より抜粋・編集)