ポスト五輪、分譲4,000戸超に熱視線
選手村レガシーマンション「HARUMI FLAG」展望


新型コロナウイルス感染拡大により1年先延ばしにされた「東京2020五輪・パラリンピック」。
感染爆発により開催に批判が集まったものの、日本勢のメダルラッシュが空気を和らげて五輪・パラともに無事に日程を終えました。
そしていま、住宅・不動産業界でポスト五輪として注目を集めているのが、五輪のメーン会場近くに登場した選手村です。
ここでは、いよいよ販売が本格化する注目のプロジェクトの今後を展望します。

はじめに

中央区晴海5丁目に開発された東京五輪・パラリンピックの選手村は、五輪後、分譲マンションとなります。このプロジェクトは、「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」と名付けられており、分譲マンションの販売センター「HARUMI FLAGパビリオン」は2019年4月27日にオープン。その後、コロナ禍を受けてストップしていた販売活動がいよいよ本格化します。分譲住宅市場は販売価格が高止まりしていますが、その中で晴海フラッグは割安感が強いことで消費者からの引き合いが強いようです。

新たな街「晴海フラッグ」の誕生

晴海フラッグは、約18haに及ぶ広大な敷地に東京都と三井不動産レジデンシャルなど開発大手11社が一丸となって取り組んだプロジェクト。東京湾が一望できる立地に分譲4,145戸のほかに賃貸住宅1,487戸も建設され、商業施設や保育施設なども整備して新たに約1万2,000人が入居する一つの街が誕生します。分譲街区は「シービレッジ」(686戸)、「サンビレッジ」(1,822戸)、「パークビレッジ」(1,637戸)に分かれ、選手村の役割が終了したことで改修を2023年の秋ごろまでに終わらせて2024年3月下旬に引渡しの予定です。
販売価格がすべて開示されているわけではありませんが、都有地を活用しての事業であるため、東京都心や東京23区の新築相場に比べると安い値段設定になっているのが特徴。晴海周辺の新築が高額なだけに、晴海フラッグの割安感がさらに強まりそうです。

不動産経済研究所の調査によると、首都圏の新築マンションの平均価格は直近8月で7,452万円となり、東京カンテイの調査では、東京23区の中古マンション価格が6,427万円と14か月連続で上昇して、1年前の同じ月との比較では1割以上も上がっています。

駅遠も価格と都心距離の見合い、資料請求が増加傾向に

東京湾岸の新築分譲の1坪当たりの単価は平均350万円とされ、個別にみていくと400万円超えも珍しくはありません。晴海フラッグは、例えばコロナ前のパビリオンオープンのときの値付けでパークビレッジB棟をみると、17階で専有面積85㎡の住戸は1億100万円台と坪単価が392万円、同じB棟でも5階で専有面積78㎡は6,100万円台となって坪単価258万円となっています。

一方、現在のサンビレッジの第1期の予告物件概要では、販売価格は4,900万円台~2億2,900万円台とし、最多販売価格帯は6,400万円台です。その間取りは2LDK~4LDK(61.06~116.58㎡)を用意していますが、ここの最高価格2億2,900万円は坪651万円ほど。晴海フラッグは、大規模なだけに個々の販売価格の幅も広いですが、全体をならすと平均300万円を切る水準と想定されています。

こうした市場環境に鑑みれば、晴海フラッグが最寄りの駅から歩いて20分以上かかるとはいえ、これから販売を再開する開発サイドとしては、「資料請求の反応をみると、銀座という日本一のブランド力を持つエリアが近いという立地特性が、駅遠物件イメージを払拭しているようだ」と鼻息も荒くなっています。11月中旬の販売開始を前に、8月28日からモデルルームの予約案内会を始めたところ、資料請求が五輪前から急速に伸びているようです。人員の輸送能力は未知数であるものの、次世代バスシステムの東京BRT(バス高速輸送システム)や都営バスのほか、コミュニティサイクルといったさまざまな交通手段の結節拠点となるマルチモビリティステーションの整備に対する期待が消費者の背中を押しています。

専門家の市況展望

緩和マネー流入で底堅い値動きだった株式市場は、企業各社の2021年4~6月期決算の発表が予想以上に悪いことで軟調が続いていましたが、菅義偉首相が自民党総裁選から離脱し、岸田新総裁が誕生したことで、新たな経済政策への期待とコロナ感染者数が下げに転じて緊急事態宣言が解除されたことも相まって、経済の正常化に期待する動きから株価が急速に回復しています。
「現在のところ不動産市場が悪化する要因は見当たらない」というのが大方の専門家のコンセンサスです。景気悪化による資産効果の低下は杞憂となり、そうした中で、晴海フラッグの販売見通しについて、4,000戸を超える大規模マンションなだけに予想はしづらいものの、供給サイドとしては販売状況を見ながらコントロールして売り切るのはそう難しくないとの見方が広がっています。

“レガシー”という資産

1期当たりどの程度の販売戸数を出すのかにもよりますが、前述の東京カンテイによれば、「仮に売れ行きが今ひとつだったとしても、値下げをせずにじっくり時間をかけて値崩れしないように販売する発想になるのではないか」と見立てています。東京五輪・パラリンピックの選手村として、世界の五輪選手が使ったというプレミアムが付いたことが最も大きく、「もし、東京五輪が中止になっていたらレガシー物件ではなくなっていた」と言います。単なる駅から遠い分譲マンションという評価を避けられたことが、今後の販売にプラスに作用するとの分析がもっぱらです。

「かつて、ここで東京2020五輪・パラリンピックが開催されて世界中のトップアスリートが使っていたんだ」という他の物件では得られない〝資産価値〟が付き、購入者にとっては将来的な再販まで描きやすくなった可能性があります。いわゆるレガシー物件として、中古流通市場にどのように反映されるかなど将来を断定できないものの、マイナスに働く可能性は限定的との見方も広がっています。

HARUMI FLAG完成予想
HARUMI FLAG完成予想