Vol.33 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑨~
役所における不動産調査のガイドラインとは?
いろいろな不動産調査がある中で、役所調査の際には、宅建業法上の重要事項説明義務として、高度な法令知識を要求されることが多くあります。このため、役所調査の際にかかわる基本的な法令知識を整理しておくことが必要です。
宅建業法に定める条項数は145条項
令和3年9月25日、宅建業法施行令第3条改正施行の「踏切道改良促進法」に基づく「道路外滞留施設」の追加をもって、現在、宅建業者に重要事項説明を義務付けた法令条項は、145条項となりました。これらの法令条項は、業界の重要事項説明書書式に反映されますが、特に、「その他の法令制限59法令一覧」で記載すべきものと、「宅建業者の相手方等の利益の保護の事項」(施行規則第16条の4の3)で説明すべきものとの間には、同一法令が実質3法令あり、説明を混同しやすいので解説します。
間違いやすい重複法令の説明内容
(1)土砂災害警戒区域
「土砂災害防止法」の「土砂災害警戒区域内の有無」を説明せよ、というものがありますが、この条項は、「宅建業者の相手方等の利益の保護の事項」(施行規則第16条の4の3)で説明するものです。「土砂災害警戒区域内」にある場合、重要事項説明書書式の「その他の法令制限59法令一覧」の中の「土砂災害防止法」にチェックを入れるミスがあります。「その他の法令制限」での説明すべき法令は、あくまでも「土砂災害特別警戒区域内の有無」と「予定建築物の変更許可」に該当する場合です。
(2)津波災害警戒区域
「津波法」における「津波災害警戒区域内」の場合は、施行規則の「宅建業者の相手方等の利益の保護の事項」で説明をします。しかし、「その他の法令制限59法令一覧」の中にもある「津波法」にチェックをするミスがあります。「その他の法令制限」で説明すべき事項は、あくまでも「津波災害特別警戒区域内」に該当する場合です。
(3)水害ハザードマップ
全国の市区町村では盛んに作成され公開されている「水防法に基づく水害ハザードマップ」があるときは、施行規則の「宅建業者の相手方等の利益の保護の事項」で説明をします。しかし、「その他の法令制限59法令一覧」の中にもある「水防法」に、うっかりチェックを入れるミスがあります。「その他の法令制限59法令一覧」での説明すべき事項は、あくまでも「浸水被害軽減地区内」に該当する場合です。また、水防法に基づかない市区町村が独自に作成をした水害ハザードマップもあります。この場合、消費者からは、「ハザードマップがあるのに、ないといって説明をしなかった」といった苦情が発生していますので、マップがあるときは、水防法に基づく・基づかないにかかわらず、添付をして説明をするほうが安全でしょう。
法令の“該当の有無”と“適用の有無”の違い
役所調査の前に、ご自分の所在する市区町村には、建築物の建築や宅地を造成する場合などに、どのような法令が存在しているかを確認することが大切です。よく関係する重要法令を整理すると、次のようなものがあります。
- (1)景観法に基づく景観計画区域
- (2)宅地造成等規制法に基づく宅地造成規制区域
- (3)がけ条例
- (4)中高層建築物条例
- (5)ワンルーム形式の建築指導要綱
- (6)駐車場附置義務条例
- (7)屋外広告物条例
- (8)宅地開発指導要綱
- (9)都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画
これらの法令は、不動産売買における重要事項となり得ることが多いので、注意が必要です。調査のポイントは、その法令は「取引対象物件が所在する地域で該当するか否か」という調査と、「該当法令が存在しているが、取引対象物件は規制の適用対象か適用除外であるか」という調査がある、ということです。
例えば、「景観法に基づく景観計画区域は、市内全域に該当する」場合、この法令で、「建築物の高さが20mを超えるもの又は延べ面積5000㎡を超えるもの」を規制対象にした条例の場合、物件所在地が、「用途地域は第1種低層住居専用地域、絶対高さ制限は10m以下」である場合、重要事項説明の具体的内容は、「景観法に基づく景観計画区域の該当の有無」では、「該当あり」とし、「景観法の適用の有無」では、「建築物の絶対高さが10m以下のため、景観法は適用除外」という説明をします。
このように、「法令の該当の有無」と「法令の適用の有無」とは、しっかりと振り分けて記載説明をすることが大切です。
ポイント
令和3年9月25日、踏切における渋滞や交通事故による救急救命活動に支障が発生していることなどから、踏切道改良促進法が改正施行され、宅建業法施行令第3条に「道路外滞留施設」条項が追加されました。これにより、重要事項説明の義務項目は145条項となりました。 下表は、「その他の法令制限」の一覧です。
不動産コンサルタント
津村 重行
三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。