Vol.14 買主が売主の担保責任免責特約によるリスク分担を理解していないことによるトラブル


既存住宅の売買において、建物の不具合等が発見された場合のリスクを、買主が十分理解しないまま取引を行うと、いざリスクが発現したときに、買主が、売主に担保責任があるとか、媒介業者に調査責任がある等と主張し、裁判にまでなってしまうケースがみられます。

トラブル事例から考えよう

〈事例〉売主の瑕疵担保責任免責の既存住宅の売買で、建物構造の瑕疵を理由に買主が契約の無効等を求める訴訟になった

平成29年3月、買主A(個人)は、リフォーム後居住する目的で、木造2階建ての既存住宅(平成8年新築)について、代金4,100万円、売主は建物構造に関する瑕疵担保責任は負わない旨の特約(本件特約)を付した売買契約を、媒介業者の媒介により売主B(個人)と締結し、その後引き渡しを受けました。

本件建物には、建築確認済証、検査済証、耐震基準適合証明書(Aが登記費用の減額等を受けるため、Bに作成を依頼したもの)が交付されていましたが、本件建物の引き渡し後、壁に膨らみが見られたことから、Aが依頼したリフォーム会社Cが壁を剥がして調査をしたところ、壁内のエアコン配管による柱や筋交いの欠損、筋交いの規格不良があり、建築当時の耐震基準を満たしていないことが判明しました。

本件特約がありましたが、AはBに対して、耐震診断、耐震補強工事等の見積費用346万円余を請求、Bが「現状では支払うことはできない」と断ると、Aは、売買契約の錯誤無効、本件特約の錯誤無効、担保責任に基づく534万円余の損害賠償を求める訴訟を起こしました。

一審裁判所(東京地判 令2・7・2)は、Aの主張に理由がないとして請求を棄却しました。Aは控訴しましたが、Bが30万円をAに支払うことで和解しました。

(注)本件事案は、令和2年4月施行の改正民法前に売買取引がされた事案であり、改正後においては、瑕疵担保責任は契約不適合責任に、錯誤の効果は無効から取消しに変更されています。

事例の図
事例の図

01特約による瑕疵・契約不適合のリスクの分担

既存住宅の売買では、売主(個人)が、瑕疵・契約不適合※1の担保責任を負うことはできないとして、担保責任を負わないこと(あるいは、短期間しか負えないとして負担期間の限定)を売買条件とし、買主がそれを承諾して、売主の担保責任負担に関する特約を付して売買契約を行うことが一般に行われています。

この、売主は担保責任を負わないとする特約は、売買物件の引き渡し後に契約不適合が発見された場合のリスクは買主が負担するという、売主・買主間のリスクの分担に関する契約であり、売買に際して、当該分担リスクは売買金額に織り込まれて売買されることになります。

したがって、引き渡し後に「本件建物に耐震基準を満たしていなかった契約不適合」が発見されたことは、リスク分担の契約において買主が負担するとしたリスクが、まさに顕在化したものですから、それを売主に請求できるものではなく、一審裁判所の買主請求棄却は、相当と思われます。

本件買主の「確認済証・検査済証の交付があること、耐震基準適合証明書を取得したことを前提に売買契約を締結したから、本件建物が耐震基準を満たしていることは契約内容であった」との主張は、一審裁判所の判示のとおり、それらは本件建物が耐震基準を満たしていることを保証するものではありませんから、もし、買主において「本件建物の耐震性に問題がないこと」が購入条件なのであれば、買主は、建物状況調査および既存住宅売買瑕疵保険の付保を行うことを売買条件にすることなどにより、リスク回避を行う必要があったと思われます。

※1 旧民法の「瑕疵」と、改正民法後の「契約不適合」は同義です。本稿では、以降「契約不適合」に統一して記述しています。

02媒介業者は買主が負うリスクの十分な説明を

取引に際して予想されるリスクは、リスク回避を行わなかった者の負担が取引のルールです。

しかし、既存住宅を購入する個人の多くは、不動産取引が初めて、あるいは取引経験が浅い人で、自分が負うリスクについて十分理解がされないまま取引がされていることが、本件のようなトラブルの原因になっているのではないかと思われます。

専門性を生かしたトラブルのない取引を依頼者から求められている媒介業者においては、契約前において、買主に対し、買主が負うリスク(リスクの回避方法がある場合はその方法についても)の説明を、十分に理解を得るまで行うことが重要と思われます。

当機構へのトラブル相談では、下記についての買主の認識不足・誤りが紛争原因となっているケースがよくみられます。これらについても、買主が理解しているかの確認が望ましいと思われます。

  • ①買主自身が、購入判断に必要な情報を収集して検討し、契約締結の判断をするのが基本であること
  • ②売買交渉における情報の不公平解消の観点から、売主が知っている情報については告知がされるが、知らない情報については告知がされない(売主が調査し告知をする義務まではない)こと
  • ③契約不適合の担保責任は、引渡し時において、予定されていた性能・品質等が欠けていた場合に売主が担保責任を負うもので、将来において売買不動産に不具合等が発生しない保証をするものではないこと
  • ④媒介業者(売主業者)より、買主の購入判断に影響すると思われる重要な事項について重要事項説明がされるが、それは通常一般の不動産業者が行うレベルのものであること

一般財団法人不動産適正取引推進機構
調査研究部 上席主任研究員
不動産鑑定士

中戸 康文

一般財団法人不動産適正取引推進機構(RETIO)は、「不動産取引に関する紛争の未然防止と迅速な解決の推進」を目的に、1984(昭和59)年財団法人として設立。不動産取引に関する紛争事例や行政処分事例等の調査研究を行っており、これらの成果を機関誌『RETIO』やホームページなどによって情報提供している。
HP:https://www.retio.or.jp/