まちの紹介
2022.04.14

あの“にぎわい”を再び
最終局面を迎えた徳山駅周辺の再開発
〜山口県周南市〜


北口駅前広場
北口駅前広場

周南市の徳山駅前で、再開発ビルの建設が本格化しています。
2018年、新しくなった駅ビルに続き、2023年春の完成を目指します。
百貨店を失い、中心街復活の鍵を握る注目プロジェクトもついに終盤。
官民の力でまちの進化を実現できるか関心が高まっています。

消費者ニーズの多様化で商店街は空洞化が進行

本州最西端・山口県の東南部に位置する周南市は、2003年に2市2町(徳山市、新南陽市、熊毛町、鹿野町)の合併によって誕生し、県内で5番目に大きい656.29平方キロメートルを有する市です。市の中心を担う徳山は瀬戸内海に面し、海軍燃料廠の跡地に石油化学コンビナートが形成された重化学工業のまちとして発展してきました。また、JR徳山駅東側の6つの中心商店街(徳山みなみ銀座商店街、徳山銀座商店街、中央街、銀南街商店街、徳山糀町通商店街及びPH通り)は、かつて山口県東部を代表する商業地として栄えていました。当時のにぎわいを知る住民に聞くと「週末になると幅広い世代の買い物客が訪れ、肩をぶつけ合いながらでないと歩けないほど混雑していた」そうです。

しかし時は流れ、周南市郊外への大型店舗の進出や消費者ニーズの多様化等により、商店街は空洞化が進行。その後、2013年2月に山口県東部唯一の百貨店・近鉄松下百貨店が閉店。大きな集客を担っていた施設を失ったことで、中心市街地のにぎわいは徐々に見られなくなったといいます。

そこでかつての活気を徳山に取り戻そうと“にぎわい”の拠点創出のため、徳山駅周辺整備事業が始まったのです。

山口県周南市の位置
山口県周南市の位置
臨海部には全国有数のコンビナートが広がる。2005年から工場群を観光資源にした観光ツアーを開始。
臨海部には全国有数のコンビナートが広がる。2005年から工場群を観光資源にした観光ツアーを開始。
旧徳山市の市制25周年を記念し、1960年3月に開園した動物園。約100種の動物を飼育している。
旧徳山市の市制25周年を記念し、1960年3月に開園した動物園。約100種の動物を飼育している。
商店街の活気を演出してきた銀座商店街
商店街の活気を演出してきた銀座商店街
商店街の活気を演出してきた中央街
商店街の活気を演出してきた中央街
夜間の明かりをともす電力は、地域エネルギーであるコンビナートの自家発電による電力を活用
夜間の明かりをともす電力は、地域エネルギーであるコンビナートの自家発電による電力を活用

南北自由通路の開通が整備事業の扉を開く

まず着手されたのは、徳山駅の南北自由通路の開通です(2014年9月)。徳山駅の線路は立体化されていないため、駅周辺の市街地は線路を挟んで北側と南側が分断されていました。そのため、歩いて南北を往来するときは、線路下の地下道を渡る必要がありました。しかし、整備事業によって南北への移動ルートが一新され、線路を上からまたぐ形の南北自由通路へと変わったのです。加えて、それまで利用されていた地下道は幅4メートルでしたが、新設された通路の幅は8メートルと倍の広さになり、天井も高く、開放感のある快適な南北移動ルートへと変わります。そして南北自由通路の開通に伴い、駅舎も橋上化へと変わります。これによって徳山駅の1階にあった在来線の切符売り場や改札口が自由通路と直結。新幹線改札口はもともと橋上にあったので、在来線改札口、新幹線改札口、自由通路がすべて同フロアに並ぶことになったのです。

徳山駅の駅ビル再建は2015年度から始まることが決定していましたが、旧駅ビルを取り壊す必要がありました。ところが1階には改札口や切符売り場があり、取り壊すことは困難。しかし、駅舎が橋上化し改札口等も移動されたことで駅ビルを取り壊せる状況となり、環境が整ったといいます。こうして南北自由通路の完成によって徳山駅周辺の整備事業は加速していくことになります。

人々のにぎわいを創出する拠点施設がついに完成

南北自由通路の開通を経て、2018年2月に完成したのが旧徳山駅ビル跡地に整備された「徳山駅前賑わい交流施設」です。同施設は3階建てで、2階と3階に張り出した長さ約120mのデッキが特徴的。特に2階は、幅5mで広々とした空間を創り出します。また施設の西側には、約125台が収容できる駐車場棟も整備。施設全体の運営は、指定管理者であるカルチュア・コンビニエンス・クラブが担い、図書館などを展開。本の貸し出し等の機能に加えて、1、2階では蔦屋書店など物販も行われ、1階にはスターバックスコーヒーも入居し、コーヒーを飲みながら本を読むことも可能だといいます。また、キッズライブラリーや勉強・ビジネスに活用できるコーナーのほか、会議やイベント会場として利用できる交流室も備えています。この施設は365日開館され、夜10時までオープン。駅利用者だけでなく、さまざまな世代、さまざまな目的の人々が日常的に集る施設となり、年間120万人の来館を見込んでいた初年度に、入館者は200万人を超えたといいます。

そのほか、徳山駅北口駅前広場、南口広場整備工事の完了をもって、徳山駅周辺整備事業は完了することになります。

徳山駅前賑わい交流施設の2階には大きなデッキを配置。解放感あふれる設計が話題を呼んだ
徳山駅前賑わい交流施設の2階には大きなデッキを配置。解放感あふれる設計が話題を呼んだ
周南市立徳山駅前図書館の館内にある高さ約9m、幅約18mの吹き抜けを利用して作られた本棚アート
周南市立徳山駅前図書館の館内にある高さ約9m、幅約18mの吹き抜けを利用して作られた本棚アート

民間主導による再開発事業がついに始動

駅周辺整備事業の完了に呼応するように、現在も進行しているのが民間主導による「徳山駅前地区市街地再開発事業」です。総事業費はおよそ112億円。市や国からの補助は約30億円だといいます。既存建物の解体工事がすでに始まっており、2022年度の一部施設の開業を前に、市民の関心は高まっています。

この事業の足跡を振り返ると、2013年10月に徳山銀座・みなみ銀座地区再開発準備組合(2016年4月、徳山駅前地区市街地再開発準備組合に改称)が設立され、2018年3月に再開発基本計画が発表されます。2020年2月に準備組合は解散し、徳山駅前地区市街地再開発組合へ権利義務が継承。2021年2月に権利変換計画の認可を経て、解体工事がスタートします。再開発の場所は、徳山駅前賑わい交流施設の東側、閉店した近鉄松下百貨店の跡地なども含まれています。2018年3月に作成された基本計画を見ると、駅、駅前、商店街が一つの活気あるゾーンへと展開できるように配慮され、計画では、住宅棟、ホテル棟、駅前棟、駐車場棟、商業棟の5つの施設が新たに建設される予定。特に、住宅棟は18階建てで、完成すれば周南市内で最高層のタワーマンションとなる見込みです。

実は徳山駅周辺における商業系の市街地再開発構想は、近郊の市に大型店舗の立地計画が浮上した1990年代初頭以降、郊外店舗に対抗する意味合いもあり、複数の大型再開発構想が持ち上がっていました。しかし構想は実現せず、2000年代以降も徳山駅周辺整備事業に民間が連動する意味合いもあっていくつかの再開発構想が浮上しましたが、実現には至りませんでした。こうした流れを見ると、徳山駅周辺の中心市街地の“現状”については、以前から描かれていたことが長い時を経て、実現したということがわかります。

地元で不動産業を営む人の話を聞くと「周南市は県内で昔から元気のあるまちだったから今後も活気のあふれるまちであり続けて欲しい。仕事上、他県の人から周南市の人口について聞かれることがありますが、30~40万人と思っている人が多くいます。しかし、実際は14万人ほど。よほど大勢の人が住んでいる地方都市といったイメージを持っているのでしょうね。徳山駅は、「のぞみ」や「さくら」も停車する新幹線駅です。山陽自動車道、中国自動車道には、計4つのインターチェンジがあります。これだけ交通インフラが整っているのだから多くの人を呼び込む要素はむしろそろっているんです」と話します。

いつしか「通過」する駅となってしまった徳山は、この度の再開発によって「人が集う場所」へ再び生まれ変わります。間もなくその答えが披露されることになります。

再開発が行われている徳山駅前賑わい交流施設の東側の近鉄松下百貨店跡地
再開発が行われている徳山駅前賑わい交流施設の東側の近鉄松下百貨店跡地
再開発が行われている徳山駅前賑わい交流施設の東側の近鉄松下百貨店跡地
再開発が行われている徳山駅前賑わい交流施設の東側の近鉄松下百貨店跡地
推古天皇の時代に宇佐八幡宮の分霊社として建立された遠石八幡宮。多くの参拝客が訪れる神社。
推古天皇の時代に宇佐八幡宮の分霊社として建立された遠石八幡宮。多くの参拝客が訪れる神社。
中国地方を一手に掌握していた大内氏の祈願所として、1374年に建立された漢陽寺。
中国地方を一手に掌握していた大内氏の祈願所として、1374年に建立された漢陽寺。

時代とともに変わるべきまちの在り方とは

長年の構想を経て着手された徳山駅周辺の再開発について、地元で不動産業を営む人はどのような眼差しを向けているのでしょう。オフィスK代表の原田和彦氏に話を伺いました。

ビジネス法務エキスパートや相続診断士の資格も保有する原田氏
ビジネス法務エキスパートや相続診断士の資格も保有する原田氏

独自の活動「実家見守り隊」を実施

―まずは事業内容を教えてください。

主に、土地の売買からアパート・テナントの賃貸および管理等を行っています。実は、不動産業を始めたのは日が浅く、先日、最初の免許更新を終えたところなんです。不動産業のほか、ファイナンシャル・プランナーの資格を保有していることもあって、任意売却の相談等も行っています。宅建免許の取得は、知人や友人から勧められたことも大きいですが、競売の際に自分が入札するケースもあると思い、一念発起して挑戦したんです。

―「実家見守り隊」という活動を行っているとお聞きしました。詳細を教えてください。

「事業承継や葬儀後の相続手続きの悩み」「実家が将来空き家になるかもしれない」と不安を抱えている人たちの相談を受けています。行政書士や司法書士等の専門家でメンバーは構成されています。その相談会に私も宅地建物取引士、ファイナンシャル・プランナーとして参加しています。年に数回、周南市の公共施設等で開催し、予約制かつ相談は無料で行っています。

―周南市の空き家問題も深刻ですか。

そうですね。全国でも問題視されていますが、ここ山口県も同様です。

両親が残した戸建てが市内にあるけど、子ども夫婦は県外に出てしまって「実家に戻る予定はない。でも管理は大変だし、税金を払い続けなければならないから悩んでいる」。そういった相談が多く見受けられますね。相談次第ですが、そういった物件を私たちが預かる場合もあります。売却できれば相談者も喜んでくれますからね。

―話を伺っていると「実家見守り隊」の認知度は高そうです。

見守り隊が誕生してから数年が経ちますが、それなりに認知度はあると感じています。発足当初は、地道にチラシを配ったりしていましたが、活動を地元メディアが取り上げてくれることもあって周知されたと思います。裏を返せば、不動産に関して多くの人が悩みや不安を抱えているということです。

時代の流れに乗らなければ淘汰されてしまう時代

―徳山駅周辺では再開発が行われています。どんなことに期待しますか。

昔のように活気のあふれるまちになってほしいですね。

8年ほど関西で過ごしていた時期はありますが、私はこの地で生まれ育ってきました。徳山駅周辺の商店街には飲食店も多く、昼夜を問わず、多くの人でにぎわっていましたから。現在のようにシャッターが閉まっている店舗はありませんでした。地方都市の中でも元気のあるまちだったと思いますよ。

―では、なぜ徳山は活気を失ってしまったのでしょう。

消費者のニーズが変わったんだと思います。以前は中心市街地に行かなければ、購買意欲を満たすことは出来ませんでしたが、いまは郊外でもアウトレットがあります。好きな時にインターネットで買い物もできます。時代が変わったということですよ。

時代の流れにうまく乗ることが出来なければ淘汰されてしまいます。その点は不動産業に関しても同じことがいえるかもしれませんね。


オフィスK

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