Vol.38 売買重要事項の調査説明 ~ガイドライン編⑭~
心理的瑕疵となる人の死の具体的事例について


人の死がすべて心理的瑕疵ではないということは、誰もが理解できます。しかし、実際に人の死があった不動産に遭遇した場合、その死因が、心理的瑕疵なのかどうかの判断は難しい。このため、心理的瑕疵といわれる死因の具体的事例を解説します。

心理的瑕疵となる死因

厚生労働省の死亡診断書記入マニュアルによると、人の死因は、以下のような病死および自然死など12種類があります。

1.病死および自然死は、疾病による死亡および老齢、老化による自然死をいいます。通常、社会のどこにでも起こりえる日常生活の一コマのため、亡くなった場所が自宅でも不動産売買において心理的瑕疵が問題になることはないでしょう。

2.交通事故死は、運転者、同乗者、歩行者のいずれかを問わず、交通機関の関与による死亡をいいます。交通機関には、自動車、自転車、鉄道、船、航空機等があり、水上交通機関の事故による溺水死は交通事故死に含まれています。これらの死因は、通常は、道路上や海上での出来事ですので、不動産売買には影響しないと考えられます。

3.転倒・転落死は、同一平面上での出来事は転倒死といい、階段やステップや建物からの転落による死亡は転落死といいます。大雪で雪下ろし中に起きた転落死や、浴室で足を滑らせる転倒死があります。これらは、日常生活上での一コマのため、不動産売買においては、心理的瑕疵が問題になることはないでしょう。

4.溺水死は、溺水による死亡をいいます。海洋、河川、池、プール、浴槽等で場所は問いません。浴槽以外は住宅外でのことですが、家庭用プールで子どもが溺水死した場合は、少なくとも心理的瑕疵としての告知が必要とされそうです。一方、同じ溺水死でも、浴槽の中で眠ったまま溺水死した事故は、不動産売買では心理的瑕疵とは考えにくいでしょう。

5.煙・火災および火焔による死は、火災による死亡と火焔による火傷での死亡をいいます。火災による死亡では、火傷、熱傷、一酸化炭素中毒、窒息を含みます。これらは、他の死因と比べても、心理的瑕疵と判断されるものです。この場合は、悲惨な事件といわれます。この場合、自宅においてCPA(心肺停止)状態で発見され、救急車で来院時死亡確認のみを行った場合は、死亡したところは自宅となりますが、救急車で搬送中にCPA(心肺停止)状態に陥り、到着後CPR(心肺蘇生)に反応せず、死亡確認を行った湯合は死亡したところは到着した病院となりますので、診断書の記載内容の確認が必要です。

6.窒息死は、頸部や胸部の圧迫、気道閉塞、気道内異物等による窒息死をいいます。おもちや食べ物をのどに詰まらせる窒息死や、地震等で家具の下敷きとなり、窒息死することがあります。これらは突然の事故のようなもので、心理的瑕疵とは考えにくいでしょう。

7.中毒死は、薬物またはその他の有害物質への接触、吸入、服用、注射等による死亡をいいます。工場等での有害物質への接触や吸引による死因の場合は、住宅での心理的瑕疵とは無関係です。一方、自殺ではなく、自宅で禁止薬物を自己の意思でうっかり大量に使用して中毒死した場合は、事故的な要素があり、心理的瑕疵とは考えにくいでしょう。

8.その他の外因死は、異常な温度環境への曝露、潜函病、感電、機械による事故、落下物による事故、落雷、地震等による死因をいいます。熱射病や凍死も含まれます。多くは屋外での事故と考えられ、機械による事故は作業場が考えられ、落下物による事故は住宅以外での事故です。これらは心理的瑕疵とは考えにくいでしょう。

9.自殺は、死亡者自身の故意の行為に基づく死亡をいいます。手段、方法を問いません。自殺と判断された死亡診断書では、自殺をした場所、方法、時間などができるだけ詳細に記載され、心理的瑕疵として重要です。飛び降り自殺では、自殺の発生場所は、がけの上、ビルの屋上、バルコニーなどと記載され、納屋で首つりをして、生きているうちに病院に運ばれ、病院で息を引き取っても、自殺の発生場所は、納屋と記載されます。

10.他殺は、他人の加害による死亡をいいます。手段、方法を問いません。他殺と判断された死因の場合、風評が地元に残りやすいので、注意が必要です。心理的瑕疵として重要な情報となります。

11.その他および不詳の外因死は、刑の執行、戦争行為による死亡をいいますが、この場合は住宅では起きないので、不動産の心理的瑕疵とはなりません。一方、外因死であることは明確であっても、不慮の外因死か否かの判別がつかない場合で事件性が考えられる場合は、心理的瑕疵として告知をすることが大切です。

12.不詳の死は、病死および自然死か外因死か不詳の場合をいいます。この場合も、事件性が考えられるときは、心理的瑕疵に含めて、告知対象と考えておくことが大切です。

以上の12種類の死因では、明らかな心理的瑕疵に該当するものは、5・9・10の火災死亡・自殺・他殺の3種類です。

事件性がある不詳の死因の場合は、心理的瑕疵に含めます。病死・自然死・転倒死・溺死・窒息死・中毒死等であっても、遺体発見が死亡後7日以上経過し、遺体の腐食が始まっていた場合は、建物にも相当の臭気が浸透し、時には建物の損傷が考えられます。事件性のある死因や遺体放置事故は、心理的瑕疵として告知すべき事項であると考えておきましょう。

ポイント

下図のように、令和2年の自殺者数は21,081人となり、対前年比912人(約4.5%)増。男女別にみると、男性は11年連続の減少、女性は2年ぶりの増加となっています。また、男性の自殺者数は、女性の約2.0倍となっています。

心理的瑕疵の対策には、心理的瑕疵の説明方法基準について、売主は買主との間で合意している事実が必要です。

自殺者数の年次推移
(資料:「自殺者数の年次推移」警察庁自殺統計原票データより厚生労働省作成)

津村 重行

不動産コンサルタント

津村 重行

三井のリハウス勤務を経て有限会社津村事務所設立。2001年有限会社エスクローツムラに社名変更。消費者保護を目的とした不動産売買取引の物件調査を主な事業とし、不動産取引におけるトラブルリスク回避を目的に、宅建業法のグレーゾーン解消のための開発文書の発表を行い、研修セミナーや執筆活動等により普及活動を行う。著書に『不動産物件調査入門 実務編』『不動産物件調査入門 取引直前編』(ともに住宅新報出版)など。