私の所有する賃貸アパートでは、必ず保証人をつけてもらっていますが、契約更新時期を迎え、保証人の方が高齢になられたので、新たに家賃保証会社と契約したいと思っています。ただし、現在の保証人の方は、賃借人に影響力のある方なので、その方にも保証人を続けていただきたいと考えています。
契約更新時に現在の保証人と格別の契約をしなかった場合でも、保証契約は継続していると考えてよいのでしょうか。また、更新の際に新規に保証会社に入ってもらった場合には、従来の保証人との契約は解除されたことになるのでしょうか。
Answer
賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後に生ずる賃借人の債務も、保証人は保証責任を負うというのが判例の見解です。
ですから、賃貸借契約を更新した場合には、保証人との間で何も契約をしていなくとも、原則として、保証人の責任は継続します。ただし、賃借人に滞納が発生しているのに、その事実を保証人に告げないまま、賃貸借を更新した場合は、保証人の責任はその更新がなされるまでの期間に限定されることになります。
また、新たに保証会社をたてた場合に、従前の保証人との保証契約が当然に解除されたものとみなされるわけではありません。単なる保証人の追加と考えることになります。なお、連帯保証人ではなく、単なる保証人となります。保証人が複数になった場合には、保証人の責任額は、保証人の頭数で分割されることになるので、保証人は必ず連帯保証とすべきです。
1.更新後の期間における保証人の責任
新規に賃貸借契約を締結する際には、賃貸借契約書に賃借人と保証人がともに押印しますが、更新の際には賃貸人と賃借人との間で更新契約が交わされることが多いと思われます。この場合、更新後の賃借人の債務について、更新後の契約に押印していない保証人は責任を負うのでしょうか。
最高裁の判例は、「期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないものというべきである」との判断を示しました(最高裁平成9年11月13日判時1633号81頁)。この最高裁の判例によって、特に一定期間だけ保証責任を負うという特約がない限り、更新後の契約書には賃貸人と賃借人が署名押印しただけで、保証人は何ら署名押印していないときでも、保証人の責任は継続するという解釈が確立しました。
2.更新後に保証人の保証責任が認められない場合
裁判所は、「保証人は更新後に生じた本件賃貸借に基づく債務についても責任があると解されるが、1回目の合意更新の後、賃借人が賃料を滞納しているのに、保証人に何らの連絡もなしに賃貸借契約が2回も合意更新されることは、社会通念上ありえず、保証人に予想外の不利益を負わせるものであることを理由に、保証人の責任を、賃料不払いのときから、2回目に合意更新をする時まで(約400万円の限度で請求が認められています)」との判断を示しています(東京地裁平成6年6月21日、判例タイムズ853号224頁)。
3.保証人の追加
契約の更新時に保証会社と新たに契約しても、それにより、従前の保証人との保証契約が解除されたことになるわけではありません。保証人は1人でなければならないとの制限があるわけではないからです。したがって、既に保証人がいる場合に、新たに別の保証人を立てることは有効に行うことができ、単なる保証人の追加であると考えることになります。
なお、連帯保証人ではなく、単なる保証人がいる場合に、同じく単なる保証人を追加した場合には、民法456条により、それらの保証人がそれぞれ別個に保証契約を締結した場合でも、各保証人の責任額は頭数で割った金額しか責任を負わないことになりますので、必ず、保証は連帯保証とすべきものと考えられます。
今回のポイント
- ●保証人は、特段の事情のない限り、原則として更新後の期間に生じた賃借人の債務についても保証責任を負う。
- ●ただし、賃借人が賃料を滞納しているのに、保証人に何らの連絡もなしに賃貸借契約を漫然と更新した場合には、2回目以降の更新後の期日については、保証人は保証人としての責任は負わないと解されている。
- ●更新時に保証会社と新たに契約しても、それにより、従前の保証人との保証契約が解除されたことにはならず、単なる保証人の追加である。
- ●保証人の追加は、連帯保証人ではなく、単なる保証人が追加され、複数となったのが単なる保証人である場合には、各保証人は責任額を頭数で割った金額しか責任を負わない。
海谷・江口・池田法律事務所
弁護士
江口 正夫
東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』『大改正借地借家法Q&A』(ともに にじゅういち出版)など多数。