父が死亡し、貸地を相続しました。どの土地も古くから貸しているので普通借地です。私としては、借地人の了解を得て、普通借地を定期借地に切り替えていきたいと思っています。そのようなことはできるのでしょうか。
Answer
普通借地から定期借地への切替えは可能です。しかし、相応の合理的理由があり、その中で、当事者間で真に合意されたといえる場合でなければ、有効に切り替えることはできません。普通借地から定期借地への切替えには、相応の合理的理由と、当事者間での真の合意が必要です。
1.定期借地の制度
土地を借りて建物を建築し、建物を利用するというスタイルは、古くから人々の生活や営業を支える重要な仕組みとして機能しており、わが国では借地については、利用者が厚く保護されてきました。
しかし、借地人の保護が行き過ぎていて、本来活用されるべき土地が活用されないという社会的な弊害が生じたことから、借地借家法の制定(平成3年10月公布、平成4年8月施行)に際し、期間満了時に確定的に借地関係が終了し、土地が返還される契約形態が新設されました。これが、定期借地権の制度です。存続期間を50年以上として借地権を設定する場合においては、書面をもってするならば、契約の更新および建物の築造による存続期間の延長がなく、買取請求をしないこととする旨の特約を定めることができるという定めが設けられました(一般的借地権。借地借家法22条1項)。
2.定期借地の制度
ところで、普通借地権として設定された借地権について、借地契約を合意解除したうえで、新たに借地契約を締結して定期借地権を設定すること(普通借地権から定期借地権への切替え)が検討されることがあります。切替えは借地借家法上否定されるわけではありません。しかし、借地権者にとってみると、更新が認められる普通借地権を失い、更新されない定期借地権を取得するという不利益が生じます。この点について、普通借地権から定期借地権への切替えが問題とされたのが、東京地判 平成29.12.12-D1-Law29047642です。
3.東京地判 平成29.12.12-D1-Law29047642
[1] 事案の概要
(1)借地人Aは、地主Xの土地上に借地権を有しており(本件借地契約)、昭和29年3月には、本件土地上に木造建物(本件建物)を建築した。
(2)Xは多くの貸地を所有する地主であるが、借地権を定期借地権に切り替えるため、住民を集めて説明会を行ったうえ、普通借地を定期借地に切り替えようとしている。Aは、Xの求めに応じて、建物所有目的の定期借地契約を締結するという契約書(本件定期借地契約)に署名し、これをXに交付した。
(3)YはAの相続人である。本件借地契約の借地人の地位を承継した後、本件定期借地契約は無効であると主張し、Yの借地権が普通借地権であることの確認を求め、訴えを提起した。裁判所は、Yの主張を認めて、Yの借地権が定期借地権ではなく、普通借地権であると判断した。
[2] 裁判所の判断
判決では、本件定期借地契約は、本件借地契約とは別途、新たに締結されたものと考えられなくもないが、『仮に、そのように解することができるとしても、更新が認められる借地権と、たとえ50年以上とはいえ期間満了後の契約更新が認められない定期借地権とでは、一般には後者の方が賃貸人にとって有利な制度であり、従前から借地関係が存在している当事者間においては、相応の合理的理由があり、その中で、当事者間で真に合意されたといえる場合でなければ、別途契約を締結し直すことにより定期借地権に切り替える旨の合意が有効とはならない』として、切替えの有効要件を示したうえ、本件定期借地契約における定期借地権部分の合意の効力を検討し、『本件においては、XないしXの関係者は、周辺の住民と古くから土地の利用関係を定め、土地を利用させてきたという経緯があり、従前からの借地権者(その相続人を含む)との関係では、原則としては、今後も従前と同質の利益を享受できるような契約関係が求められているというべきである。その上で、説明会が行われ、その後一定期間経過後に本件定期借地契約書の署名押印がなされたという事実が仮に認められたからといって、借地権者において保護される上記利益を上回るような合理的理由があったということはできない』として、本件定期借地契約における定期借地権であるとする合意について、無効としました。
今回のポイント
- 存続期間を50年以上として借地権を設定する場合においては、期間満了によって必ず借地契約が終了する定期借地権を設定することができる。
- 定期借地権を設定するには、書面によって、契約の更新および建物の築造による存続期間の延長がなく、買取請求をしないこととする旨の特約(3点セットの特約)を定めることが必要である。
- 普通借地から定期借地への切替えについては、借地人にとって不利な変更となるから、相応の合理的理由があり、当事者間で真に合意されたといえる場合であってはじめてその効力が認められる。相応の合理的な理由がないか、または当事者間で真に合意されたといえる場合でなければ、普通借地から定期借地への切替えは無効となる。
山下・渡辺法律事務所 弁護士
渡辺 晋
第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。