Vol.25 「不動産×テクノロジー」がもたらすビジネスの変革を探る


不動産テック時代の到来 進む!業界のIT化

不動産ビジネスを大きく変革するといわれる「不動産テック」は、まだ全容が計り知れないほど大きな可能性を秘めています。不動産テックによって、何が変わるのか、変革の本質を紹介していきます。

■ AIによってビジネスが大きく変わる

不動産テックが単なるIT化と一線を画すのは、その技術的な中心部に人工知能(AI)が関わっているからです。このAI自体は約70年前には研究が始まっていた技術であり、特に目新しい概念ではありません。しかし、近年のインターネットとコンピュータ性能の飛躍的な向上で、AIにも技術的な障壁突破がもたらされました。それが、「機械学習」と「ディープラーニング」です。

「機械学習」とは、ネットを介して集められる膨大な量のデータをコンピュータが機械的に学習してくれる技術体系のことです。人間では到底処理できないほどの膨大なデータを分析することで、さまざまな事象における特徴や予測を発見します。その機械学習の手法として最も効果的とされるのが「ディープラーニング」です。

現在のAIは人間がやっていたことを素早くこなすのではなく、人間ができなかったことを可能にする技術となっています。例えば、健康診断などで血液検査をすると、血液の成分の数値から、コンピュータが健康状態を教えてくれます。これは過去の膨大な医療記録から、血液中のこの数値が高い人はこういう健康状態にあり、こういった病気にかかりやすいと予測しているわけです。さらに、最新のAI研究はそこから一歩進み、血液検査によって世界の誰も知らない未知の病気を見つけることを目指しています。まさに、未知の病原体である新型コロナウイルスの感染対策やワクチン開発にはAIが使われました。新型コロナワクチンは史上最も早く開発されたワクチンとされていますが、その成果にはAIが大きな役割を果たしました。

AIはすでに人々の生活レベルでも変化をもたらせています。例えば、スマートフォンなどに搭載された音声入力は、AIによる音声認識と自然言語処理によって機能しています。またルンバなどの自動掃除機は、AIの空間認識技術によって、部屋の構造を理解して動いています。

このようにAIが社会や生活を変革していく大きな渦の中に、不動産テックもあるのです。

■ 広範で複雑な影響をもたらす不動産テックとは何か?

不動産テックという言葉が使われる以前から、この20年で不動産ビジネスには大きな変革がありました。中心にあったのはインターネットです。

日本にもなじみ深い事例を挙げると、2000年前後にHOME’S(現 LIFULL HOME’S)に代表されるポータルサイトが誕生し、不動産情報の流通が変わりました。次に2000年代後半になるとAirbnb(2008年)のようなスペースマッチングが生まれました。一連のサービスはシェアエコノミーと呼ばれ、空き家や空き部屋などを民泊として貸し出し、既存資産の利用法を増やし、価値を高める作用をもたらしました。さらに2010年代にはWeWork(2010年創業)などが、長らく定着していたオフィス=作業場という概念を変えて、人々が交流しながら新しい何かを生み出す場所と定義し、巨額の資産価値をもたらしました。このあたりから、情報や集客という部分だけでなく、不動産の実態も大きく変革する動きが生まれてきたと思います。

そして、不動産テックという言葉が使われ始めるのは2010年代に入ってからです。多くがインターネットという膨大な情報流通網をサービスの中心にしたものでした。2020年代はここにAIが加わり、さらに大きな発展をすると予想されています。

不動産テックが影響する領域はかなり大きく、複雑です。そのため、何をもって不動産テックと定義するかは、とても困難です。現状の日本では、不動産会社の手間を削減し、仕事の効率を上げてくれる技術から、まったく新しい不動産活用を生み出す可能性を持ったサービスまで全て、ひとまず不動産テックとされているようです。

■ 不動産のPropTechとは?

「プロパティ+テクノロジー」を意味する造語。

言葉や定義にこだわるならば、海外では不動産テックはReal EstateTechではなく、PropTech(プロップテック)と呼ばれています。これは、不動産ビジネスは、テクノロジーによって家や土地を買ったり、売ったり、住んだり、利用したりする全ての人に恩恵をもたらすことを目指すべき、と考えられているからです。不動産ビジネスの効率化だけに留まるのではなく、人間が過ごす環境、空間などの資産(Prop)をテクノロジーで向上させようというわけです。

例えば、盛んに議論されている自動運転が普及すれば、都市の構造を変える可能性があります。自動運転によって、きめ細かい無人バスなどが運用されれば「駅近」の概念を変えてしまうため、不動産テックの一つと考えようというわけです。

本連載でも、テクノロジーによる変革の影響を広く捉えて、建築や金融など不動産テックと近接する業界での変革も併せて紹介していきたいと思います。

コワーキングスペースやシェアオフィスが広まりはじめたころから、不動産の実態が徐々に変革しはじめた
コワーキングスペースやシェアオフィスが広まりはじめたころから、不動産の実態が徐々に変革しはじめた

木村 幹夫

株式会社トーラス
株式会社トーラス
代表取締役

木村 幹夫

大学卒業後、東京大学EMP修了。三井住友銀行にて富裕層開拓、IT企画部門にてビックデータを戦略的に活用した営業推進、社内情報系システムの大部分をWebシステムで刷新するなど、大幅なコスト削減と開発スピードアップを実現。2003年に株式会社トーラス設立。登記簿を集約したビックデータを構築し、不動産ビックデータ、AIを元にしたマーケティング支援を行う。MIT(米国マサチューセッツ工科大学)コンテストなど受賞実績多数。東京大学協力研究員。