三菱地所×中川政七商店
学生経営による地域産品セレクトショップで地方を元気にする人材輩出を目指す


東京駅日本橋口前にあるセレクトショップ「アナザー・ジャパン」
東京駅日本橋口前にあるセレクトショップ「アナザー・ジャパン」。現在の広さは約40坪、カフェも併設(撮影:西岡潔)

2022年8月2日、学生経営による47都道府県地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」がオープンしました。
プロジェクトを企画実施する三菱地所の加藤絵美氏、中川政七商店の安田翔氏、そして第1期生で「アナザー・キンキ」担当の慶應義塾大学前田郁哉さんに詳細を伺いました。

日本の未来に灯りをともす地域創生プロジェクト

三菱地所と中川政七商店は、JR東京駅日本橋口前のTOKYO TORCH街区において、学生自らが47都道府県地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」を経営するプロジェクトをスタートさせました。“私たちがつくる、もうひとつの日本”というコンセプトのもと、学生たちが地域へ赴き、仕入れ交渉からプロモーション、店舗運営、接客販売すべてを行います。

「全国を6ブロックに分け、全18名の学生たちは出身地が含まれるブロックを担当します。店舗では2カ月毎に特集地域を入れ替え、1年で一巡する予定です。初回の企画展『アナザー・キュウシュウ』はすでに終了。10月5日から2回目の企画展『アナザー・ホッカイドウトウホク』が始まっています」と話すのは中川政七商店の安田翔氏。

アナザー・ジャパンの発端は、三菱地所が進めるTOKYO TORCH街区での再開発プロジェクトです。

「すでに常盤橋タワーが完成しており、27年度にはTorch Towerが竣工。 “日本を明るく、元気にする”をビジョンに掲げ、東京と地方をつなげ、両者が一緒に元気になっていく場所づくりを目指すプロジェクトです。Torch Towerが完成すれば、この街区に計8000坪、200店舗の大型商業ゾーンができます。その中で、しっかりビジョンを体現することがしたいと考え、Torch Towerのワンフロア約400坪を使って新しい地域産品ショップの取り組みができないかと考えていました。その中身をどうするかを中川政七商店の中川会長に相談したことから、アナザー・ジャパンの構想は始まりました」と三菱地所の加藤絵美氏。2社で協議を重ねた結果、「これからを担う若い世代と一緒に未来を作る取り組みをしよう」ということで、その約400坪を学生が経営する地域産品セレクトショップにすることをひとつ目の目標に定めました。その前段階として誕生したのが、8月に開業した第1期生18名による店舗です。

「経営の知識も経験もない学生たちが実践的に本気で学んでもらう場が必要だと感じました。アナザー・ジャパンは約5年の歳月をかけた中長期型プロジェクト。全国6ブロックの企画展を1年で一周したら今度は2期生がそれを繰り返す。27年度に新店舗がTorch Towerに開業するまでにアナザー・ジャパンOBおよびOGが100名以上になります」と加藤氏。また、安田氏は中川政七商店がアナザー・ジャパンプロジェクトに参画する理由と意義を次のように語ります。「全国各地の様々なメーカーさんと取引をさせていただく中で、各地域に経営を担える人材がもっと増えれば、日本の工芸がより一層元気になるのではないかと考えていました。そういう人材輩出まで担いたいという思いもあったんです。また、弊社会長は自身が大学で教鞭をとっており、学生もレクチャーすれば経営できる、任せても大丈夫と確信していたようです」。

学生が店舗経営を担い、三菱地所がプラットフォームを提供し、中川政七商店が教育、経営をサポートする
学生が店舗経営を担い、三菱地所がプラットフォームを提供し、中川政七商店が教育、経営をサポートする
プロジェクトの第1期生18名。全国の学生200名を超える応募者から選出された。前田さんは後列左から2番目
プロジェクトの第1期生18名。全国の学生200名を超える応募者から選出された。前田さんは後列左から2番目
2カ月ごとに特集地域が入れ替わる。初回は「アナザー・キュウシュウ」だった(撮影:西岡潔)
2カ月ごとに特集地域が入れ替わる。初回は「アナザー・キュウシュウ」だった(撮影:西岡潔)
「アナザー・ホッカイドウトウホク」開催中。テーマは「奥」。北海道・東北出身の学生が選んだ500点が並ぶ
「アナザー・ホッカイドウトウホク」開催中。テーマは「奥」。北海道・東北出身の学生が選んだ500点が並ぶ

学生の成長、店舗の成長が各地域を盛り上げていく

実際、学生たちは想像以上に自分たちの力で成果を出しているそうです。「企画展はいずれも大変好評です。懸念していた仕入れも、本当に地域の知られざる名品をよくぞこんなに見つけてきたなと感心するものばかり。ちなみに1回目の企画展では売上目標はほぼ達成。確実にリピーターのお客様も増えています」と安田氏。また加藤氏は学生たちの顔つきがこれまでに3回変わる瞬間があったと実感しています。

「1回目は経営研修が終わった時。2回目は仕入れ先から戻ってきた時。学生は地元のメーカーさんと交渉して産品を仕入れてくるわけですが、そこで様々な経験をしたことがうかがえます。そして3回目は2カ月間の企画展が終わった時。キュウシュウチームが企画展終了時、実に誇らしげだったのが印象に残っています。10月からのホッカイドウトウホクチームも、初日からイキイキした表情で、こちらまで楽しくなります。彼らが最終日、どんな顔を見せてくれるか楽しみです」。

また、教育・経営サポートを担当する安田氏は日頃から「何か問題が発生した時は、担当者ではなく、経営者の目線でビジョンから考えて解決すること」と話しているそうです。

「彼らに期待しているのはフロンティアスピリットと郷土愛。経営者として自らの道を切り拓いていけること。そして地元の魅力を発見し発信するマインドつまり、郷土愛です」。この2つを持ち合わせ、またアナザー・ジャパンのコンセプトをしっかり共有しているからこそ、一丸となって目標に向かっていく理想的な経営スタイルを実現できていると安田氏はとらえています。

中川政七商店会長の講義を受け、経営企画立案、ビジョン策定などの実践を総計2640時間の研修で習得
中川政七商店会長の講義を受け、経営企画立案、ビジョン策定などの実践を総計2640時間の研修で習得

各地域に羽ばたく彼らが次代の地域貢献を担う

第1期生の一人、前田郁哉さんにも話を聞きました。慶應義塾大学経済学部3年生で、神奈川県で育ちましたが、生まれ故郷であり祖父母の住む奈良県の活性化に尽力したいと思い、プロジェクトに参加したそうです。「アナザー・キンキ」の担当ですが、普段は18名で組んだシフトに従い、店頭で接客販売に携わっています。

「これまで塾講師のバイトしかしたことがなかったのですが、ここにきてから接客が楽しくなりました。仲間が仕入れてきた商品には職人さんの思いが詰まった一点ものも多いんです。だからこそ商品一つひとつのストーリーをみんなで共有し、お客様に共感してもらえるような接客を心がけています」と意気揚々と話す前田さん。こうした学生たちの取り組み姿勢を、安田氏たちも高く評価しています。

「店頭に来られるお客様だけでなく、仕入れ先様からも好評で、実は感謝の言葉を数多くいただいています。学生たちがそれぞれの地域で活躍するようになるまで、まだまだ長い道のりがあると思いますが、時間をかけて学生たちを育てていきたいです」と安田氏。

アナザー・ジャパンを通して学生は地域を学び、経営を学び、将来、自分の働く場所として、地元を選択肢の一つにする。そして、地方に若い世代が戻ることで本当の地方活性化が始まっていくはずです。「日本を元気にする循環の始まりの場所になればと考えています」と加藤氏。その言葉に期待したいです。