デジタル空間ビジネスに潜む罠と対策法
メタバース※1、NFT(非代替性トークン)※2に代表されるWeb3.0に対する注目は日に日に高まっています。一方、既存のビジネスとは枠組みが大きく異なるがゆえに、ビジネス上のリスクを正しくとらえておかないと手痛いしっぺ返しを受ける可能性もあります。本稿では、「日本デジタル空間経済連盟」が発表した「デジタル空間の経済発展に向けた報告書」を基に、不動産業界に関わる事項を解説していきます。
※1 アバターを介して現実世界に近い状態で活動できるインターネット上の仮想空間。当初はゲームを中心に利用されていたが、徐々にビジネスシーンでの活用が増えてきている。
※2 Non-FungibleTokenの略。偽造や改ざんが難しいブロックチェーン技術を活用した「代替できない=唯一無二の価値」を持ったデジタルデータのこと。アート作品やトレーディングカード、コンサートのチケット等のデジタルな作品や商品の所有権を売買する。
高まるWeb3.0への期待
2022年はWeb3.0への注目が一気に高まった1年でした。ドコモはWeb3.0に取り組む新会社を設立し、600億円もの巨額投資をすることを発表しました。また2022年4月に設立された一般社団法人「日本デジタル空間経済連盟」には、ソフトバンク、日本マイクロソフト、日本オラクルといったIT企業はもちろんのこと、SBIホールディングス、大和証券グループ、三井住友フィナンシャルグループなどの金融機関、イオン、カルチュア・コンビニエンス・クラブなどの小売業、そして住友不動産、東急不動産ホールディングス、野村不動産ホールディングスなどの不動産会社が加盟。そのほかにも日産自動車、吉本興業ホールディングス、京都府、横浜市といったさまざまな領域から加盟が相次いでいます。まさに2022年は「Web3.0元年」と言えるかもしれません。
ビットコイン、仮想通貨、NFTの暴落
一方で、ビットコイン、仮想通貨、NFTの価格が大きく値下がったのも、2022年の特徴です。ビットコインは2020年1月に約79万円であったものが、2021年11月に最高値である733万円を記録。約10倍の値上がりとなりました。しかし2022年は下落が続き、2022年12月末には216万円にまで下落しました。
また2022年は、最大手の仮想通貨交換取引所の1つであったFTXが経営破綻に陥りました。FTXの負債総額は数兆円規模とされており、かつその破綻が、巨額の不正会計によるものであることが、仮想通貨に対する信頼を揺らがせています。
NFTについても暗い話題が続きました。NFTの取引高は、2021年に比べ約90%減少。ジャスティン・ビーバー氏が約1.6億円で購入したアートのNFTが、1年のうちに約1,000万円にまで値下がりしたことも強い印象が残りました。
デジタル空間の経済発展に向けた報告書
暗いニュースはあるものの、Web3.0のなかでも「メタバース」と呼ばれるデジタル空間への注目は上がり続けています。VTuber(2D、3Dのアバターを使って活躍するYouTuber)は一気に市民権を得ました。2022年年末の紅白でも、映画「ONE PIECE FILM RED」の登場キャラクター「ウタ」が歌手として出演。ウタの3Dモデルが紅白歌合戦会場にリアルタイムで出現していたことは、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
デジタル空間において安心・安全に経済活動を行うためにはどのようにすればよいのでしょうか。その考察を行うためには、日本デジタル空間経済連盟が2022年11月16日に発表した「デジタル空間の経済発展に向けた報告書」(以下、報告書)が参考になります。
報告書では「知的財産」「デジタル金融」「プラットフォーム」の3つのカテゴリーに分けてリスクと対策を考察しています。そのなかでも特に不動産業界と関連性が高いのが「デジタル空間で、現実の建物を再現した場合に関する権利」と「デジタル空間上の土地を活用した事業を行う場合の会計処理」の2点です。
デジタル空間で、現実の建物を再現した場合に関する権利
不動産業界で仕事をしている人であれば、デジタル空間に現実の建物を建てたらおもしろいのではないか、という着想は自然と出てくると思われます。一方、報告書のなかでは「デジタル空間内で現実の建物を再現(中略)する場合、現実の建物に関する権利者からの許諾取得が必要」かどうか、確認が必要だと説明しています。有名な建物であればあるほど、またデジタル空間で価値が高いと見込まれる建物であればあるほど、許諾取得を行う必要が出てくるでしょう。
また自社で所有している建物がある場合、ほかのユーザーが、独自にデジタル空間上に再現した建物に広告を付けることも考えられます。この場合、自社のビジネスチャンスが失われてしまう、というリスクも考えられます。報告書には「違法となる行為等についてはあらかじめ利用規約で禁止することが重要であり、ガイドライン等において利用規約作成のポイントを整理することは有益」との提案があります。デジタル空間を提供するプラットフォームについては、自社に不利益なことがないか、あらかじめ利用規約を確認し準備と対策をしておく必要があるでしょう。
デジタル空間上の土地を活用した事業を行う場合の会計処理
実際にデジタル空間上で利益を上げた後に問題になるのが会計処理です。仮想通貨においても、会計上の取り扱いが定まっていないことから、大きな混乱が見られました。
報告書のなかでは「商品設計によって会計処理の難易度は異なるものの、既存の会計基準や実務慣行を基に、会計処理が可能なケースもある」と解説されています。会計処理においては当初の対応負担は大きくなるものの、事例を集め、地道に対応していくことが求められます。
人に任せっきりにしないことが肝要
デジタル空間ビジネスに限らず、新しい領域のビジネスは往々にして「私にまかせてもらえば安心です」といった事業者が出てきます。たしかに人に任せれば楽ですが、それでは自社にノウハウが蓄えられないうえに、依頼を受けた事業者自体も何らかのリスクを見落としているケースがあり得ます。英語の格言に「信用する、しかし検証する(Trust but verify)」という言葉がありますが、新しい領域のビジネスであればあるほど「まずは自分の手でやってみて、自分の頭でリスクを考えてみる」ということが肝要だと言えます。
株式会社Housmart
代表取締役
針山 昌幸
大手不動産会社、楽天株式会社を経て、株式会社Housmartを設立。テクノロジーとデザイン、不動産の専門知識を融合させ、売買仲介向けの自動追客システム「プロポクラウド」を展開する。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(実業之日本社)など。