近い将来、世代を超えて「浴槽レス」が求められる時代に

国土交通省は令和5年度中を目安に「浴槽レス」浴室の基準を策定すると発表しました。
一方、住宅設備メーカーのLIXILは “温まるシャワー”をコンセプトにした新感覚のシャワーを昨年から販売するなど、ここにきて浴室の在り方、様相が変化してきています。
ゆっくり浴槽につかってバスタイムを楽しむ。そんな癒しの時間より機能重視が求められる時代がすぐそこまで来ているのかもしれません。
そこで新たなトレンドも探ってみました。
入浴中の事故防止のため、国が「浴槽レス」基準作成
日本人にとって入浴は単に体を洗って清潔にするだけでなく、1日の疲れを癒やすため、ゆっくり湯船に浸かるのが一般的な生活習慣です。それゆえ、浴室や浴槽は年々進化し、自動保温機能、ミストサウナ、ジャグジー風呂など家のお風呂を快適にする機能が続々と開発されてきました。最近では温泉スパのような肩湯、打たせ湯機能を搭載した浴室も登場しています。
そうした流れに逆行するかのように国土交通省が令和5年度中に浴槽のない浴室、すなわち「浴槽レス」のバリアフリー基準と設計ガイドラインを策定すると発表しました。
なぜかといえば、入浴中に溺れる高齢者の事故が増えているからです。
厚生労働省の2019年人口動態統計に基づき、国土交通省の国土技術政策総合研究所(以下、国総研)が試算したところ、住宅内の溺水死亡者数は年間約5,700人であり、この死亡者数の93%を65歳以上の高齢者が占めていることが分かりました。これは10年前の1.5倍、交通事故死者数も上回っています。
今後さらに高齢者数の増加が見込まれているだけに、早急な溺水の事故防止対策が必要ということで考えられたのが「浴槽レス」です。そもそも入浴の際、高齢者が亡くなる理由の一つに、ヒートショックがあります。浴槽をなくせば湯船に浸かることがないので、血圧の急変動を防げるためにも「浴槽レス」を推進しようというわけです。「浴槽レス」浴室のバリアフリー基準と設計ガイドラインの策定は国総研が行います。昨年から「浴槽レス」とともに、介助者が一緒に入れるなど、安全性や介助のしやすさといった観点から実験検証を開始。浴室の平面配置とシャワーやカウンターといった室内機器の配置、適正な広さ、手すりの形状や位置、また、車いすのまま入ることも想定した出入口の幅などの研究・検討を進めています。バリアフリー基準と設計指針策定後は、住宅メーカーなどに活用を促進していく予定だといいます。
表 建物内での事故による死者数(2019年)

LIXILが5分浴びるだけで体全体を温めるシャワーを開発
コロナ禍を経て価値観、生活様式の多様化がより加速し顕在化していく中で、入浴スタイルも様変わりしてきたといえます。湯船でリラックスしたい派が多い一方で、とりわけ若者を中心に入浴は湯船に浸からずシャワーだけで済ませてしまう人もまた増えています。そうした時代の流れを受けて、住宅設備メーカーのLIXILが昨年6月から販売を開始したのが「ボディハグシャワー」です。
シャワーの唯一の欠点は体が温まりづらいことです。その欠点を解消すべく、湯船に浸からなくても5分間シャワーを浴びるだけで、従来のシャワーより身体全体が温まるという画期的な商品です。「お湯にハグされ、包み込んでもらっているような感覚を体感してもらえることから、ボディハグシャワーという商品名にしました」と語るのは同社広報部河合慎太郎氏。
同社では以前からシャワーの新たな価値を模索しており、実は2003年から「シャワー・ド・バス」という商品を販売していました。10カ所のノズルからお湯を霧状に噴出し、体全体を包み込むため、お湯に浸かるのと同じように全身が温まる仕様です。
「ただ、後付けしづらい、デザインもいかつくて昨今の浴室に合わせづらいということもあり、高齢者のお宅や一部の介護施設などからの需要はあったものの、一般家庭用としてはなかなか普及しませんでした」と河合氏。そこで、昨今の事情に合わせて「シャワー・ド・バス」の価値を再定義しようということになり、18年から構想を開始したそうです。
「基本的には全世代、誰もが使いやすいユニバーサルデザインを目指しました」(河合氏)。



誰もが使いやすい形にイノベーション。
ユニバーサルデザインが基本
「ボディハグシャワー」の特徴は、そのまま壁に取り付け、現在の浴室の水栓をつなぐだけという簡易な工事で済むところ、そして空間を圧迫しないスタイリッシュなデザインです。
「10個あるノズルから水が出る点は『シャワー・ド・バス』と同じですが、位置によって水の出方や量を変化させています。首や足にはややストレートに、胸やお腹には広く霧状に吐水し、身体全体でちょうど良い浴び心地と温まりを感じられる設計にしています」と河合氏。あくまで全世代向けの商品と位置づけけているのも「ボディハグシャワー」の大きな特色です。
「浴槽事故の不安を抱える高齢者にも使ってほしいし、冷え性なので浴槽浴がしたいけれど、お湯がもったいないので我慢している、また、スポーツ後のリフレッシュに気軽に使いたいなど、いろいろな方の事情とニーズに合致した商品です」(河合氏)。「ボディハグシャワー」なら、浴槽利用と清掃が減る分、水量やお湯をわかす時間が減るといったメリットもあります。実際、浴槽浴と比較し、約36%のCO₂削減、環境に配慮した商品になっているそうです。
現在、一般家庭や介護施設はもちろん、集合住宅やマンション、ホテルのリニューアル時に導入したいという注文が増えてきているといいます。
昨今のサウナブームも相まって“サウナー”の方々からも、浴槽を水風呂として併用すれば自宅で効率的に温冷交代浴ができ、身体も“ととのう”と評判も上々と河合氏は話します。
今後も少子高齢化、一人世帯の増加といった現代社会の課題に対応しながら浴室空間はさらに進化していきそうです。

