空き家管理から広がるニュービジネス


人口減少に相反して住宅ストックが積み上げられるなか、全国的に増加し続け、社会問題になっている空き家。不動産業界の領分でありながら、ビジネスとして成り立ちにくく敬遠する会社が多いのが実情です。そのような状況のなか、「空き家管理」を前面に掲げて全国展開のビジネスを成功させている事例があります。社会問題を解決しつつ、空き家管理からしっかりと売上げにつなげていくモデルとはどのようなものでしょうか。

社会問題となっている空き家対策に政府、自治体が注力

国土交通省のデータによると、空き家の数は20年前から右肩上がりに増え続け、2018年時点で849万戸。住宅の総数に対して13.6%を占めています(図1)。なかでも今問題になっているのは「その他空き家」といわれるもの。長期にわたって居住者が不在となっている住居のことを指しますが、この20年でおよそ2倍に増えているのです。

図1 空き家数の推移

空き家数の推移
出典:総務省「住宅・土地統計調査」より編集部にて作成

※空き家の種類
二次的住宅 : 別荘およびその他(たまに寝泊まりする人がいる住宅)
賃貸用または売却用の住宅 : 新築・中古を問わず、賃貸または売却のために空き家になっている住宅
その他空き家 : 上記の他に人が住んでいない住宅で、例えば転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や、建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅など

「その他の住宅」の空き家の内訳としては、戸建てが7割以上、4分の3以上が旧耐震基準といわれる1980年以前の建物。「腐朽・破損あり」とされる家が約101万戸もありました。さらに、将来推計によると「その他の住宅」の空き家は2030年には470万戸程度になると予想されています。つまり、誰も住まずに放置されて老朽化し、倒壊などの恐れのある危険な戸建て住宅が今後も増えていこうとしているのです。

このような空き家に対する問題意識は、各自治体においては以前からありました。それを初めて条例としたのが埼玉県所沢市の「所沢市空き家等の適正管理に関する条例」で、制定されたのは2010年。空き家対策に特化した条例として全国初の試みで、それ以降、各地で同じような条例がつくられました。

また、2014年には「空家等対策の推進に関する特別措置法」いわゆる空家法が制定され、翌年に施行。空家法によって、適切に管理されていない空き家を「特定空家」に指定することができ、指導や命令のほか行政代執行もできるようになりました。市区町村は法的な裏付けを得て空き家の対策に対応することができるようになったのです。

さらに、2021年に閣議決定された「新たな住生活基本計画」でも、「空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進」が主要目標の一つとして掲げられ、さまざまな予算の割り当てや税制の措置などがなされています。

空き家管理の新しいビジネスモデル

そもそも空き家は、家と土地という明らかに不動産業界の領域でありながら、空き家管理の問題に不動産会社が積極的に関与することが非常に少ないというのが現状です。そのようななかで、空き家管理の新しいビジネスモデルを確立し、成功している会社があります。

株式会社L&Fは、「日本空き家サポート」を運営する会社です。2015年にサービスを開始し、空き家管理専門業者として唯一47都道府県に対応。2023年3月現在で171社が加盟しています。

「以前勤めていた会社で全国の不動産を見て回っていたとき、行く先々に空き家が点在しているのが目についたんです。これはビジネスになるかもしれないと思い、空き家管理ビジネスの原案をまとめて、引き出しにしまっておきました」と語るのは、代表取締役の森久純氏。所沢市の条例やその後の空家法への動きなどを見て、本格的に空き家管理ビジネスを開始しました。

「空き家管理は入口」という発想の転換

日本空き家サポートのサービス概要は次のとおりです。まず、管理委託者(顧客)は日本空き家サポートのウェブサイトなどから申し込みをします。運営本部は該当エリアの「空き家サポーター(加盟店)」に管理を委託。管理委託契約は3者間で行われます。実際の現場作業や管理レポートの作成は各加盟店が行い、運営本部は管理レポートのモニタリングや定期的な研修などによって品質を維持する、という仕組みです(図2)。

図2 日本空き家サポートのサービス概念図

日本空き家サポートのサービス概念図
出典:(株)L&F 作成資料より
編集部にて作成

戸建てでは、郵便受けの確認や建物外部の目視点検、簡単な清掃、雑草除去(玄関周り)などを屋外作業のみの「ライト(月1回、月額税込5,500円)」、ライトの内容に全室の換気、通水、簡易清掃など屋内作業を含めた「スタンダード(月1回、月額税込11,000円)」が主なプランです。わかりやすい動画や写真による管理レポートは、インターネット上に開設されるマイページから閲覧可能。災害などの緊急時には無料点検を実施することになっており、さらに、管理物件には日本空き家サポートの看板を掲げるため、近隣住民にとっても安心材料になります。ちなみに、放置されていたため倒壊の危険があるなど管理不全の空き家はお断りをしているそうです。

加盟店は、地場の不動産会社や工務店など。加盟金150万円、初期費用20万円で、月額費用は2万円です。日本空き家サポートは加盟店に対して現場作業や契約実務の各種研修を定期的に行うほか、営業ツールの提供、ウェブサイトの運営、集金管理まで実施。立ち上げから運営まで一社で行うことの難しさや費用対効果を考えると、妥当な金額といえます。

それでも、月1万円の空き家管理だけで収益を上げにくいのは事実。しかし、森氏が力説するのは空き家管理を「入口」とする考え方です。「人口減少、価格や物件数の低下で、宅建業者は仕入れに苦戦しています。相続相談などオーナーの囲い込みに力を入れ始めている会社もあり、潜在顧客をいかにつかみにいくかが肝要。空き家管理は我々の業界が得意としており、比較的簡単に潜在マーケットで戦える分野なのです」(森氏)。実際に、空き家管理サービスを解約した人のうち約9割が「売却」を理由にしており、担当した空き家サポーターが売買の仲介をした割合は9割に上ります。毎月の管理を通してオーナーとつながることで信頼関係を醸成し、売却をはじめとした「本業」に落とし込むことが可能なのです。ただし、「お客様の期待に沿えないエリアがまだ多い」と森氏は課題を上げます。さらに「資産価値のほとんどないような場所にある空き家をいかに流通させていくかは、社会全体で考えなければいけない問題だと思います」と一石を投じました。


取材協力

森 久純氏

株式会社L&F 代表取締役

森 久純氏

野村證券株式会社を経て2003年より大手賃貸管理会社の創業期メンバーとして入社し、営業および戦略企画担当取締役を歴任。2007年、株式会社L&Fを設立し代表取締役就任。日本空き家サポートのほか、日本で初めての不動産会社と法律専門家の全国ネットワークを構築し、IT技術を活用した新しい「家族信託」のサービスプラットフォームも提供している。


執筆
殿木 真美子

住宅ジャーナリスト。戸建て、マンション、不動産、マンション管理、リノベーションなど住宅関連を幅広く取材。自身も1棟ものの賃貸併用住宅のオーナーとなり、不動産経営をしている。