2023年6月施行の改正消費者契約法が不動産業に及ぼす影響


来る6月1日に、消費者保護に関するルール変更が施行されます。その背景には、成人年齢の引き下げやサブスクサービスの普及などがあると考えられ、われわれ不動産業者も、改正の趣旨を理解してサービスを行うことが求められます。
そこでここでは、消費者契約法の概要と改正内容、不動産業者の取るべき実務対応について弁護士が解説します。

まえがき

消費者と事業者には、取引を行うための情報の質や量、あるいは交渉力において格差があります。消費者契約法は、情報の質・量・交渉力において劣後する消費者を保護するための法律です。事業者に責任ある行為を義務づけ、また、事業者の不適切な勧誘行為によって誤認・困惑させて契約を締結させた場合に消費者に契約の取消権を与え(取消権の付与)、かつ消費者の利益を不当に害することとなる契約条項の効力を否定して(不当条項の無効)、消費者の利益を守っています(図表1)。

図表1 消費者契約法の構造

消費者契約法の構造

消費者契約法は、平成13年に制定された後、消費者契約を取り巻く社会環境の変化や消費生活相談事例、裁判例などを踏まえ、繰り返し改正されていますが、令和4年5月に、さらに新たな改正がなされました(令和5年6月施行)。

本稿では、不動産業者として知っておくべき令和5年6月施行の消費者契約法等の改正(以下「改正」)の内容のポイントを解説し、不動産取引における注意点を説明します。

令和5年6月改正

(1)契約の取消事由の追加

消費者は、契約の勧誘をするに際し、事業者の一定の行為により困惑し、それによって消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができます(困惑類型の取消事由。消費者契約法4条3項(以下、単に条文番号を示すときは消費者契約法の条文)。

これまで困惑類型にあてはまる行為は8種類でしたが(不退去(同項1号)、退去妨害(監禁)(同項2号)、不安をあおる告知(同項5号)、人間関係の濫用(同項6号)、判断能力の低下の利用(同項7号)、霊感等による知見を用いた告知(同項8号)、契約締結前の義務の内容の実施(同項9号前半部分)、契約締結を目指した活動による損失の補償の要求(同項10号))、改正ではさらに図表2に示した①②③の行為が追加されました。

図表2 困惑類型の追加

困惑類型の追加

(2)解約料の説明の努力義務

事業者と消費者の契約では、一般に契約解除の場合の損害賠償または違約金(解約料)が定められます。解約料の定めは、損害賠償の額または違約金の額の合算額が、解除の事由、時期に応じ、同種の契約解除にともなって事業者に生ずる平均的な損害の額を超えるものについては、その超える部分は無効です(9条1項1号)。

改正では、消費者の立証責任の負担軽減を図るため、事業者は、消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定または違約金の算定の根拠(算定根拠)の概要を説明するよう努めなければならないという義務(努力義務)が定められました(9条2項)。

(3)免責の範囲が不明確な条項の効力

事業者の債務不履行または債務の履行に際してなされた不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任について、全部を免除する特約は無効ですが(8条1項1号・3号)、全部ではなく、責任の範囲を限定して一部を免除する消費者契約の条項は有効です。

この点については、改正では、消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、条項において事業者、その代表者はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは無効という条項が設けられました(8条3項)。

(4)事業者の努力義務の拡充

改正では、(2)の努力義務に加え、次の①~③について、事業者に情報提供の努力義務を課しました。

①契約内容の情報

勧誘時に、消費者の理解を深めるために、消費者の知識・経験に加え、消費者の年齢、心身の状態を含めて、総合的に考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること(3条1項2号)。

②定型約款の表示請求権を行使するための情報

勧誘時に、定型約款の内容を知る権利(民法548条の3第1項)を行使するために必要な情報を提供すること(3条1項3号)

③契約の解除に必要な情報の提供

契約を解除しようとする場面において、消費者の求めに応じ、消費者契約により定められた消費者が有する解除権の行使に関して、必要な情報を提供すること(3条1項4号)。

宅建業者の実務における対応

宅建業者は、消費者の利益を図りながら、適正な取引を実現する責務を負います。今回の改正では、勧誘の場面、契約条項作成の場面、契約解除の場面のそれぞれにおいて消費者の利益を守るためのルールが見直されました。いずれのルールも、新しく定立されたというよりは、健全な取引を実現するためにご尽力いただいてきた宅建業者のみなさまがすでに行っているものだと思われますが、この機会に消費者契約法において条文化されたことを確かめておいていただきたいと思います。


渡辺 晋

弁護士 山下・渡辺法律事務所

渡辺 晋